『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992)総合評価

 

導入文

(1)「ドラゴンクエスト」のような世界観とキャラクター

(2)とにかく楽しそうな敵組織

(3)史上初の機械ではない生命体ロボット

(4)史上初の正式な6人目の追加戦士・ブライ

(5)「ジュウレンジャー」の好きな回TOP5

(6)まとめ

 


導入文

スーパー戦隊シリーズ第16作目『恐竜戦隊ジュウレンジャー』は前作「ジェットマン」が残した変革を受け、ついに「ファンタジー戦隊」という新ジャンルを開拓しました。
「恐竜モチーフ」はのちの「アバレンジャー」「キョウリュウジャー」「リュウソウジャー」に引き継がれていきますし、「ダイレンジャー」以後のベースも本作で提示した手法がベースになっています。
その意味で言えば前作「ジェットマン」以上のエポックと言えるかもしれず、どちらかと言えば「ジェットマン」は80年代戦隊シリーズの集約という側面も担っていました。
しかし、一方で設定やドラマの骨子自体は「ファイブマン」までと大きな差があるものではなかったので、人によってはむしろ新鮮味に欠ける側面があるかもしれません。


本作はその点音楽からビジュアルから完全に西洋ファンタジーに塗り替えることでスーパー戦隊シリーズのイメージやタッチを大きく変えてきた作品であると言えます。
様々な意味での「歴代初」が重なり、スタッフにも「仮面ライダーBLACK」やメタルヒーロー、レスキューポリスシリーズを担当してた杉村升先生をメインライターに抜擢したのもその表れでしょう。
また、本作は玩具販促も新鮮で、いわゆる「バラ売り」がなされた作品でもあって、最初の大獣神はセットで販売される前に個別に買ってもらった記憶があります。
アクション面でも伝説の武器の設定や究極大獣神への合体など様々な要素を残していて、いわゆる「中興の祖」とでもいうべき作品だったのではないでしょうか。


作風としては前作「ジェットマン」が高年齢層向けでかなり難しめだったこともあってか、本作はストーリーに関しては子供向けへの揺り戻しを行っています。
中盤で見せるブライ関連のドラマを除けば複雑な人間関係や修羅場などもなく、試練はあるものの誰しもがすんなりと入りやすいものになっているのです。
とはいえ、私はリアルタイムだとあまり見た記憶がなく、実は本格的に見直したのは改めて大人になってからだったりします。
そんな本作の魅力は沢山ありますが、何が面白いのかを分析してみましょう。


(1)「ドラゴンクエスト」のような世界観とキャラクター


本作の見所は何と言っても「ドラゴンクエスト」のような古典的RPGの世界観とキャラクターであり、これは前作との差別化も含めて斬新な要素ではないでしょうか。
とはいえ、突っ込みどころは満載であり、本作に出てくるジュウレンジャーたち5人は設定上「恐竜人類」のはずなのですが、なぜだか見た目が猿っぽい人類なのです。
まあかといって「ドラえもん のび太と竜の騎士」に出てくるバンホーのようなガチの恐竜人類が出てきても、それはそれで視聴者が感情移入できないから嫌ですが(苦笑)
しかもその基地もなぜだかアパートの地下2000階にあったり、また敵組織のバンドーラ一味が現れた理由が惑星ネメシスに飛んだバカな人類が復活させたりしています。


もちろんこれらはあえて視聴者から突っ込ませることを狙った意図的なボケ要素であり、これだけツッコミどころ満載の設定を重ねることで逆にリアリティを出しているのです。
要するに「無茶を通せば道理が引っ込む」というやつで、前作「ジェットマン」の緻密な世界観とストーリーに負けないインパクトを出すためには、当時はこの手法しかありませんでした。
そんな風に整合性など二の次、とにかく面白さやインパクトがありさえすればいいという作られた本作の世界観やキャラクターは当時の子供たちを虜にしたのです。


そしてそのジュウレンジャー5人は一億数千万年前から蘇った伝説の戦士という設定で、浮世離れした存在なのですが、これもまた前作との差別化を必死に考えた結果でしょう。
というのも、前作「ジェットマン」の5人は人間らしいコンプレックに満ちたリアルなヒーロー像であり、「ファイブマン」までの完璧超人型ヒーロー像を大きく塗り替えました。
そのせいで80年代ヒーロー像をまたひねりなくやったとしても成立するわけがなく、そうなるとRPGのような世界にいる人物とでもしないと綺麗な正義の味方は描けなかったのです。
ジュウレンジャーの5人はジェットマンのリアルさとは対照的に浮世離れした架空の存在というのを逆手に取ったヒーロー像でありました。


ただ、この手法が大成功だったかというとそうは言えず、変身後のキャラクターはともかく変身前のキャラクターがどうにも薄味になってしまっているのです。
それは演じている5人の演技力などが拙いせいでもあるのですが、それだけではなく5人の内面を掘り下げるメイン回に恵まれなかったのも大きいのでしょう。
特にプテラレンジャー・メイを演じた千葉麗子はビジュアルこそ歴代屈指でありながら演技力は大根役者なんてレベルじゃない酷さです。
また、いわゆるパワーアップ回や後述するブライ兄さん関連の話、そして終盤の決戦を除いてあまり面白い回がないのは大きな欠点でしょう。
いくら子供向けに揺り戻しを行ったといっても、もう少し大人でも見られるレベルにはしておいてほしいものですね。


(2)とにかく楽しそうな敵組織


そして2つ目の特徴として挙げられるのがとにかく楽しそうな敵組織・バンドーラ一味であり、ファンの間では「ゴーオンジャー」のガイアーク辺りと並んでかなりのホワイト企業と評されています。
しかし、脅威がないのかというとそうではなく、愉快な顔してやっていることは地球を滅亡に追い込みかねないものであり、なかなか侮れない敵が多いのです。
なぜそのような迫力を持ち得ているのかというと、中心にいるのが「サンバルカン」以来の出演となる大女優・曽我町子氏の熟練のカリスマ性と演技力によるものでしょう。
その存在感は完全にジュウレンジャー5人を食ってしまっており、彼女に負けず劣らずの存在感を出せているのはバーザ役の多々良純氏と後述するブライ兄さんを演じた和泉史郎氏くらいです。


この魔女バンドーラが作戦立案から息子のカイが大好きな母親、更には敵がやられた時の巨大化要員まで全部を一人でこなしてしまうので、実質のワンマン経営組織でした。
それこそ「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」がガチで通用してしまうレベルであり、どうにも他の幹部連中の存在感が薄まってしまったようです。
まあ思えば「デンジマン」でも「サンバルカン」でも曽我町子氏のインパクトで持っていた部分があったので、今更と言えば今更ではあるのですけどね。
ただ、キャラクターとしての立ち方は微妙でも、結構能力面だったりデザイン面だったりは秀逸なので、これはこれで敵組織としての評価は高めです。


それだけに、中盤および終盤のラスボスである大サタンが全く迫力がなくて困ってしまうのですが、なんでラスボスがあんなゆっくりみたいな巨大顔なんでしょうか?
しかもやられ方がグランバニッシャーを食らったらあっさりくす玉のように割れてしまうなど、これがギャグでなければなんなのか全くわかりません。
終盤は盛り上がったのはいいのですが、どうにもグランバニッシャーさえ出せば簡単に倒せてしまうというのはバランスとして微妙です。
おまけにラストは封印で宇宙をさまよっていますから、誰かが誤ってまた封印を問いしまったらどうなるんだ!?と思ってしまいます。


そのため、楽しいと言えば楽しいのですが、どうにも本作〜「オーレンジャー」までの悪の組織は決着のつけ方がいまいちなのですよね。


(3)史上初の機械ではない生命体ロボット


さて、本作最大の特徴は何と言っても史上初の機械ではない生命体ロボットである「大獣神」ですが、これがまたもや厄介な存在であったりはするのです。
やたらジュウレンジャーに対して厳しいドSな上司であり、最後まで試練を与えてきます…しかもあらかじめ最初から答えがわかっているだけの試練を。
伝説の武器を手に入れる時もわざと大獣神に乗るのを拒否したり、ゲキにブライを殺すよう命じたり、挙げ句の果てブライが死ぬような策を仕向けたりします。
挙げ句の果てにバンドーラ一味を封印したのも大獣神であり、それもあって結局これよくよく考えたら「恐竜戦士究極大獣神」ではないかと思ってしまうのです。


また、設定などもツッコミどころ満載で、「恐竜」という設定なのに明らかに恐竜じゃない奴が何体か紛れ込んでいるのですが、どういうことでしょうか?
まあプテラノドンは恐竜ではないですがまだ許容範囲としても、マンモスやタイガーは明らかに哺乳類ですし、ドラゴンシーザーに至っては完全にゴジラです。
一応爬虫類ではあるのでしょうが、どう考えても恐竜としか思えず、後の「アバレンジャー」「キョウリュウジャー」はきちんと恐竜で統一されているだけに気になってしまいます。
しかも生命体なのになぜだかコックピットが普通にメカメカしい感じだったりするので、この辺りはかなり荒削りに感じられてしまう部分ですね。


それから、究極大獣神はまだいいとしても、その前座の獣帝大獣神がスーツがかさばって思いせいか、劇中で2回しか活躍していません。
まるで「ファイブマン」のマックスマグマを彷彿させる不遇ぶりで、色々新しい試みはなされているものの、まだまだ有効に使いこなせていないのです。
メカニックに関しては確かに「バリエーション」こそ増えたものの、「かっこよさ」に関しては前作に負けているなあという感じでした。


(4)史上初の正式な6人目の追加戦士・ブライ


そして本作最大の特徴は史上初の正式な6人目の追加戦士ことドラゴンレンジャー・ブライです。本作の人気を支えてくれた立役者は間違いなく彼でしょう。
しかも弟・ゲキに対するねじくれた復讐心を持っていて、それがとてもドラマチックなので、彼の存在もまたジュウレンジャー5人を食ってしまっています。
演じる和泉史郎氏はかつて「チェンジマン」でチェンジペガサス・大空勇馬を演じた元ヒーローなので、演技力の厚みが5人と段違いです
バンドーラを演じる曽我町子氏と真っ向からやりあって当たり負けしない本作の屋台骨であり、彼のメイン回に外れがありません。


設定もまたハードで、実はすでに一度死んだはずの彼を大獣神が30時間だけ動けるという制限付きで復活させていて、これがかなり有効に機能しました。
時間制限があるおかげで普段は5人に混じって戦えない理由付けにもなりますし、死の恐怖と向き合う彼の葛藤にも大きな意味が出るのです。
しかもその最期の話は「ジュウレンジャー」で最高視聴率を記録しており、彼とジュウレンジャー5人との別れがこれまた美しいエピソードになっています。
それだけに、余計にジュウレンジャー5人のキャラの薄さが浮き彫りになってしまっており、これは次作「ダイレンジャー」以降の課題となりました。


また、ブライ兄さんといえばあの変身後の金のアーマーと獣装剣、そしてドラゴンシーザーがとにかくカッコ良すぎで、商業的にも大きく成功しています。
この大成功を受けて追加戦士や番外戦士もシリーズの中で定番化していくのですが、その潮流を生み出したという意味でも偉大な存在ではないでしょうか。


(5)「ジュウレンジャー」の好きな回TOP5

それでは最後にジュウレンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。

 


まず5位は伝説の武器入手回で、最終的に叫んだら武器が手に入る下りはどうかと思うものの、きちんと試練をくぐり抜けて個人武器を手にするのはよかったところです。
4位ですが、単に大獣神に合体するだけではなく、ゲキのリーダーシップの不足やジュウレンジャーがチームとしてまとまる過程をきちんと描いた良質のエピソードでした。
3位はブライ兄さんとゲキの兄弟同士の対決と、そこから味方化するまでの下りをしっかり描いた名編であり、ブライ兄さんメイン回に基本ハズレはありません
2位は中盤の山場である究極大獣神誕生の集大成ですが、ここで改めてジュウレンジャーが1つにまとまるとともに最強の神様が復活という流れがかっこよかったです。
そして堂々の第1位は最高視聴率を記録したブライ兄さんの最期…リアルタイムで見た数少ない回でしたが、それだけに今見直しても最高の出来栄えだったと思います。


(6)まとめ


前作「ジュウレンジャー」の変革を受けて新たな流れを作り出した本作は今日見直すと荒削りな面がたくさんあります。
良い点もたくさんあるのですが、それと同時に次作「ダイレンジャー」以降で克服されるべき課題も多く残りました。
特にストーリーと5人のキャラクターの弱さは如何ともしがたいところですが、それでも山場はきっちり盛り上げています。
総合評価は今後の期待や将来性も込めてC(佳作)、まだまだ洗練・改善できる余地が残っている作品です。

 

 

恐竜戦隊ジュウレンジャー

ストーリー

E

キャラクター

C

アクション

A

メカニック

B

演出

C

音楽

A

総合評価

C

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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