『高速戦隊ターボレンジャー』(1989)総合評価

導入文

(1)歴代初の学生戦隊

(2)マトリョーシカ方式の要塞合体ロボ

(3)歴代最強レッド!?いえいえ、敵が弱すぎるんです

(4)流れ暴魔たちの扱い

(5)まとめ

 


導入文

スーパー戦隊シリーズ第13作目『高速戦隊ターボレンジャー』は前作「ライブマン」で全てを出し切ったスーパー戦隊シリーズの行き詰まりを感じさせる一作です。
本作は平成初のスーパー戦隊であり、前作「ライブマン」とは違ってかつての「ダイナマン」までのような明るくコミカルな路線へ引き戻そうとしました。
そう感じさせる要素として歴代初の学生戦隊とか、妖精とか車とかいったモチーフがあり、とにかく当時の子供受けしそうな要素を全部揃えたのです。
かく言う私も確かに作品自体は見ていなかったものの、変身アイテムのターボブレスとロボット玩具のターボロボ、ターボビルダーを買ってもらった記憶があります。


なぜ「車」なのかというと、当時は「ダッシュ四駆郎」という第一次ミニ四駆ブームがあり、そういったブームを戦隊シリーズに取り込もうとしたのでしょう。
更に歴代初のマトリョーシカ方式の要塞合体ロボがあり、整合性はともかくとして子供受けしそうな要素を次々並べれば受けるだろうと思ったそうです。
しかもそれだけではなく、第一話では「バトルフィーバー」〜「ライブマン」までの歴代戦隊を勢揃いさせたりしているのですから、とにかくお祭りの雰囲気を強くしようとしました。
その甲斐あってか玩具はかなり売れたらしく、特にターボビルダーはかなり順調な売上を叩き出したそうですが、ただじゃあ作品として面白いかどうかはまた別問題です。


本作は今日の視点で見直すと「子供騙し」の印象が強く、私もリアルタイムで放送を見ていたら面白かったかもしれませんが、大人になってから見たのであまりのつまらなさに愕然としました。
そのため、本記事もやはり反省会&フィードバックという形になってしまうのですが、具体的に何がいけなかったのかを分析していきましょう。


(1)歴代初の学生戦隊


まず、歴代初の学生戦隊という要素ですが、これ自体が悪いわけではないものの、やはり今見直すとかなり荒削りな設定のように思えてならなというか、きちんと考えていなかったのだろうなと思われます。
勘違いしないように言っておくと、学生という設定自体が悪いわけじゃありません。後の「メガレンジャー」も学生戦隊ですし、その後の戦隊でも未成年で戦うヒーローはポツポツいますので。
また「高校生が車やバイクを運転していいのか?」というありがちなツッコミも無粋なのでやめておきますが、それを差し引いてもなお学生戦隊という設定と本作のテーマは相性が悪かったのです。
具体的には物語序盤で出てきた「環境問題」という設定ですが、これがいかにも取ってつけたようなもので、大人ならともかく高校生という設定でそんな問題と向き合うのは無理があります


また、本作は前作「ライブマン」とは正反対に明るさや爽やかさを強調し、更に妖精を見ることができる純粋な心の持ち主に設定されているので「完成されたヒーロー」として描くしかありません。
しかし、大人戦隊であればともかく学生でそこまで完璧超人じみた存在というのも不自然ですし、何よりも佐藤健太をはじめ5人の高校生がちっとも高校生に見えないという問題があります。
まあこれは後の「メガレンジャー」もそうなんですけども、本作の高校生は等身大の青年らしさよりもヒーローらしさを重視しているので、清廉潔白な存在になってしまいました。
そのため内面も掘り下げにくくなり、しかも全員揃って文武両道となるとキャラクターがどうしても薄くなってしまい、変身後はともかく変身前のキャラクターの差別化ができません


強いて言えば後述するとレッドターボ・炎力はまあかなり強いレッドなのでいいとして、ブラック、ブルー、イエロー、ピンクがどうにも存在感が希薄なんですよね。
特にピンクも久々のシングルヒロインでなかなかに悪くないのですが、やはり前任の森恵がミラクルキャストだったこともあり、地味な印象が拭えません。
演技力が突出してすごいわけでもないし、脚本でメイン回に恵まれているわけでもない、しかも流れ暴魔のキリカにヒロイン力で負けてしまっているのもよくありませんでした。


(2)マトリョーシカ方式の要塞合体ロボ


冒頭でも説明したように、本作と次作「ファイブマン」には要塞型ロボが登場するのですが、これが意外にも大当たりでターボビルダーはかなり売れました。
まず基地や要塞が人型ロボに変形するだけでもすごいのですが、いわゆる全ロボットをそこに収納するというマトリョーシカ方式の合体だったことも大きいでしょう。
しかもこのターボビルダー、活躍の頻度がかなり多く、一回も負けたことがないので、そりゃあこれだけ活躍してくれれば売れるのも当然ではないでしょうか。
また、マトリョーシカ方式の合体にしたことで、いわゆる1号ロボと2号ロボのスーパー合体の問題点も解消できるというメリットもありました。


本作の1号ロボのターボロボ、そして2号ロボのターボラガーが合体してできるスーパーターボロボなのですが、これがもうとにかくクソダサいんです。
それぞれ単独だとまとまったデザインでかっこいいのですが、合体した瞬間に上半身はともかく下半身が下駄を履くだけなのでものすごく貧相に見えてしまいます
このプロポーションの悪さは次作「ファイブマン」のスーパーファイブロボでも共通するかっこ悪さで、前作のスーパーライブロボがかなり奇跡的なかっこよさだったのです。
そうしたスーパーターボロボのダサさを解消してくれたのがターボビルダーであり、要塞に収納してしまえばスーパーターボロボのダサさを見なくて済みます。


このマトリョーシカ方式の合体ロボは次作のマクスマグマ、「オーレンジャー」のキングピラミッダーとポツポツ出るのですが、その原点を描いたと言えましょう。
まあ正確には「フラッシュマン」のタイタンフラッシュもマトリョーシカ方式なのですが、こちらの方が要塞ロボとしてよくできています。


(3)歴代最強レッド!?いえいえ、敵が弱すぎるんです


さて、本作を語る上で最大の特徴は歴代最強レッドと噂されているレッドターボ・炎力なんですが、確かに活躍だけを見ているとかっこ良く見えるしほぼ負けなしなんですよね。
しかもラスボスのラ・ゴーンにまでまるで苦戦する気配を見せませんから、同時代の仮面ライダーBLACK RXに負けず劣らずのチートと言っても過言ではないレッドでした。
ただ、描写をよく見るとわかりますが、これって「レッドが強い」というよりは「暴魔が弱い」という感じで、暴魔って歴代でもかなり強さは下の方ではないでしょうか。
作戦指揮も結構めちゃくちゃだったり、前半であっけなく死んでいくボスもいますので、あまり個人的には強い敵組織ではなかったという印象です。


で、なぜ暴魔がこんなに弱く見えてしまうのかというと、(2)で述べたターボビルダーが下に108匹の暴魔獣を閉じ込めているという設定のせいではないでしょうか。
本来なら中盤あたりでその暴魔獣の封印が解けて、強さがインフレしてより過激な戦いに突入するという設定にするつもりだったのかもしれません。
しかし、そのような流れにしてしまうと、封印を防ぐことができなかったターボレンジャーと太宰博士が無能ということになってしまいかねないのです。
つまりターボレンジャーは序盤から終盤までイージーモードで戦っていたわけであり、逆に暴魔はハードモードの戦いを強いられていました。


こんなに差がある状態で一方的な「強くてニューゲーム」をやっているのですから、そりゃあレッドターボを始めターボレンジャーの方が強いに決まっています。
ただ、そんな最初から勝ちの見えているゲームが面白いかと言われたら、ぶっちゃけ面白くはないですけどね…なので、レッドターボ最強説は個人的に納得できません。


(4)流れ暴魔たちの扱い


さて、そんな中で物語後半で出てきたのが流れ暴魔であるキリカとヤミマルですが、後半のドラマを作っていたのはターボレンジャーではなくこの2人でした。
しかも、ラストではついに結ばれることになり、ようやくスーパー戦隊シリーズで恋愛が成就する瞬間が描かれたと言えるのではないでしょうか。
これがあったから次作「ファイブマン」や「ジェットマン」でのラストのハッピーエンドがあったと言えるのです。
とはいえ、それではこの結末が劇的に面白かったかと言われたら、それはそれでかなり微妙ではあるのですけどね…。


ヤミマルとキリカは暴魔を追われ、差別を受けてきたという重い設定で身を寄せながら生きてきた者同士ですから、ある種の運命共同体なのです。
その運命共同体同士がくっついたところでそれは何も劇的なものにならないというか、ごく当たり前のことではないでしょうか。
しかも2人の愛を阻むものは何もないのですから、暴魔を倒してしまえば結ばれるのは当然ですし、くっつくなら勝手にくっつけよという話です。
ターボレンジャー側も応援してしまっているし、しかもこの恋愛が2日tのキャラクを深く掘り下げているのかというと、そうでもありません。
そのため、流れ暴魔の扱いとしては可もなく不可もなしみたいな感じになってしまい、どうにも最後までモチベーションが上がりきりませんでした。


(5)まとめ


本作は前作「ライブマン」までで全てを出し切った曽田先生をはじめとする当時のスタッフがとにかく迷走していたことがうかがえる一作です。
前作まででかなり重たい高年齢向けのドラマ路線をやってきたので、シンプルな子供向けに戻そうという向きが強かったのではないでしょうか。
ただ、その揺り戻しが玩具売上以外では裏目に出てしまっており、当時は「戦隊シリーズはもうネタ切れ」などと言われるほどでした。
しかし、90年代戦隊へ向けた新たな種はばら撒かれており、無意味な作品ではないので、総合評価はD(凡作)といったところでしょうか。

 

 

高速戦隊ターボレンジャー

ストーリー

E

キャラクター

D

アクション

A

メカニック

B

演出

E

音楽

A

総合評価

D

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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