『侍戦隊シンケンジャー』(2009)37〜42話感想まとめ

 

第三十七幕「接着大作戦」

第三十八幕「対決鉄砲隊」

第三十九幕「救急緊急大至急」

第四十幕「御大将出陣」

第四十一幕「贈言葉」

第四十二幕「二百年野望」

 


第三十七幕「接着大作戦」


脚本:石橋大助/演出:竹本昇


<あらすじ>
シンケンジャーが関西弁を喋るアヤカシと戦った時、モチツブテによって流ノ介と千明の両手がくっついて離れなくなってしまう。トイレも風呂も買い物もずっとくっついて行う生活に苦労する2人。水と油のような性格の2人だったが、他の4人も罠にかかって動けなくなってしまう。流ノ介と千明は2人で乗り切るしかない状況を逆手に利用することを考えたのだった。


<感想>
今回の話は流ノ介と千明の手繋ぎアクション回であり、「ギンガマン」の第三十六章「無敵の晴彦」の焼き直し、もといセルフオマージュです。
内容的にはあってないようなものでひたすらギャグで押しているのですが、これは石橋脚本が良かったというよりプロットを提示したであろう小林女史のアイデアかなと思います。
ご存知の方もいると思いますが、元ネタの「無敵の晴彦」はギンガグリーン・ハヤテとギンガイエロー・ヒカルの手繋ぎアクションの予定でした。
それが晴彦さんに変わったのはヒカルの中の人である高橋氏が左手首を怪我してしまって急遽晴彦さんに差し替えられたからなんですね。


そのため、今回の流ノ介と千明は「説教くさい二番手」と「未熟な年少者」の凸凹コンビで改めてのリターンマッチという意味合いが強そうです。
全体的にほぼ2人の掛け合いとアクションだけで押していて、変身前も変身後も凄いアクションを見せていて面白かったのですが、同時に思ったことがあります。
こういう風に無意味に男同士で手繋ぎさせたり一緒に行動させたりするから、小林女史はファンから「BL作家」なんて揶揄されるのではないでしょうか。
本人は高寺Pのラジオで「BL作家と見る人は何を見てもそういう見方をする」「こちらがそういう設定で話を書くことはない」と仰ってて、それはその通りです。


ただ、こういう風に意味もなく男同士で行動させると、そう勘違いする層は一定数いるもので、だから小林脚本って腐女子に好かれやすいのかなと思ってしまいます。
もちろん腐女子と女性の特撮ファンはまた違うものなので別個分けて考えないといけませんが、どうにもそういう人たちまで引き寄せやすい感じだなあと。
まあ小林女史に限らず井上脚本だろうと曽田脚本だろうと、どんな作品にもそういう層は一定数いるものですから、別にそれが悪いとはいいませんが。
しかもお隣が「仮面ライダーW」というバディものだから、この年はおそらく同人界隈でそういう層の人たちは盛り上がったのではないでしょうか。


流ノ介と千明の横の関係性を改めて補強したところはすごく良く、お互いに譲歩して仲を深めるのも、そしてそれを評価する仲間たちのリアクションも秀逸でした。
評価はS(傑作)、中途半端にやらずしっかりとアクションだけで一本作ってくれたので見ごたえ抜群です。


第三十八幕「対決鉄砲隊」


脚本:小林靖子/演出:加藤弘之


<あらすじ>
彦馬爺の妻の命日が近づくころ、丈瑠たちは外道衆のことであれこれ気を揉まなくてもいいように裏で策を練っていた。丈瑠はいつの間にか5人の家族や日常もまた大切に思うようになり、考えが変わったのである。しかし、その時現れた鉄砲隊のアヤカシとナナシ連中に苦戦してしまう。どうするか対策を考えて戦っていたところ、バイクに乗った爺がとんでもないものを抱えて帰ってきた。


<感想>
志葉家にも予算管理があったとは…いやもう爺への気遣いとか鉄砲隊とか色々ツッコミどころはありますが、個人的に一番気になったのは志葉家の経済事情です。
実は描かれてないところで資金繰りや食材調達などが行われていたことが判明したのですが、志葉家の経済事情ってどうなっているのでしょうか?


この辺りは是非スーパー戦隊シリーズの経済事情として後々語ってみたいのですが、どうもシンケンジャーってお金持ちの家系の集まりという気がするんですよね。
流ノ介も世襲制の歌舞伎の家柄ですし、海外で暮らしている白石家や京都の山奥で暮らしているであろう花織家とかも結構優秀そうだし、谷家もなかなか裕福そう。
思えば、4人もの家臣たちを住まわせて面倒を見る財力があるわけですから、おそらく働かなくてもお金が得られるように不動産投資とかやってるんじゃないかなと。
爺とか絶対為替相場の動きとかチェックしてそうですし、裏で超一流の芸能人や資産家のウォーレン・バフェットあたりと繋がっていそうです。


そう考えると志葉家って財力:SSで、それこそ公式にお金持ちとされている鹿鳴館財閥や浅見グループ辺りともタメを張る経済力の持ち主なのではと思います。
そもそもあんな着物や陣幕、スキマセンサーまで用意できるくらいですから、実質の職業戦隊で、規模は縮小化してますが立ち位置としては「ギンガマン」辺りと変わらないはずです。
というか、よく考えてみれば小林女史がメインライターをやる戦隊って「ギンガマン」「タイムレンジャー」「ゴーバスターズ」「トッキュウジャー」と全員特別階級っぽい感じがしますし。
だから一見そこら辺にいそうな等身大の青年がヒーローやっているようで、実はとんでもないお金持ちという「能ある鷹は爪を隠す」を地で行くような設定ですね。


さて、今回の話はオチが大変驚愕で、まさか墓参りに行っていたのではなく例の榊原家に秘密兵器・猛牛バズーカを取りに行くためでした。
しかも、丈瑠たちがそのような裏の仕掛けをしていたことも全部見抜いていたという年の功で、いい話というよりは「榊原家なにしてくれてんねん!!」と思ってしまいます。
一応玩具販促は今回で終わりですが、目的が外道衆との戦いのためとはいえ、こんな武器をいつの間に開発していたのかと思うのですが、もしかしてこれ祖父が絡んでるのかなあ?
牛折神の話からたった2ヶ月そこいらでヒロ少年が生み出せるとは思えないので協力しながら作ったのでしょうが、とりあえず国のお偉方に目をつけられないことを祈ります。
いや、「テン・ゴーカイジャー」みたいに歴代戦隊のレンジャーキーを使った金儲けと銀河征服を考えるアホな連中が確実にいると思われるので。


それから猛牛バズーカは前年の「ゴーオンジャー」のカンカンマンタンガンの系譜なんですが、デザインはあっちより洗練されてて好きですが、なんで最後に出てきたものが剣じゃなくて大砲なのでしょうか?
鉄砲隊ネタを出してくるのはいいのですが、それだけなら別に猛牛バズーカを出す必要なんてなく、烈火大斬刀大筒モードやランドスライサー、ウォーターアロー辺りでもいいんじゃないですかね。
もしくはずっと使われていない恐竜折神のディスクを使って弾くとかでもいいわけで、敵が鉄砲隊を繰り出してきたからというのは猛牛バズーカ登場の必然性としてやや弱いです。
というか、なんども書いてるようにシンケンジャー側がなりきり玩具も折神も多すぎて過剰武装なので、流石にここまでくると食傷気味となってしまいます。


きちんと爺にスポットを当てて、その武器が出るべくして出てきたのはいいんですけど、そもそも敵側の戦力自体がそんなにパワーアップしているように見えません
物語上の意味づけとしては猛牛バズーカがシンケンジャー6人と爺の絆の象徴としてきちんと意味付けされたのは好きなんですけどね。
あと爺さんのバイクアクションも久しく戦隊シリーズでこういうバイクアクションを見てなかったので、見られて満足でした。
評価はA(名作)、玩具販促もこれで最後なりましたが、4クール目の入りとして手堅くまとめてきたというところかな。


第三十九幕「救急緊急大至急」


脚本:小林靖子/演出:加藤弘之


<あらすじ>
旗上島でアクマロが怪しい儀式を行い、黒い何かが島中を覆って降り注ぐ。それを浴びた島の人たちが凶暴化してしまい、島の異変を察知した丈瑠たちは外道衆の仕業だ睨み現地へ急行した。島に到着すると、丈瑠と茉子、流ノ介と千明、ことはと源太の2人ずつに分かれて調査を開始する。殿と茉子はそれぞれ因縁の相手である十臓と太夫と戦うことになるのだが…。


<感想>
さて、ついにやってきました。シンケンジャーもここからいよいよ最終章に向けて物語を本格的に動かしていくことになります。
ようやく2クール目、3クール目の退屈な時期を過ぎて、やっとここからまた1クール目のシリアスで重厚な雰囲気が戻ってまいりました
今回と次回は見所満載ですが、特に今回の見所は丈瑠と茉子のやり取り…今までちょくちょく匂わせる感じでやっていましたが、決め手に欠けるこのコンビ。
いわゆるトップと参謀の会話なのですが、小林女子はどうしてわかっていながら攻めてこないかなあと思ったのですが、やっとここで来た感じです。


三十四幕で茉子の唯一の欠点であった「親の愛情」が埋まってから迷いや躊躇いがなくなった茉子姐さん、ここぞとばかりにグイグイ攻め込みます。
そしてそれに対して動揺しまくる殿がもう完全なツンデレ乙女という感じで、この辺りはかなり狙い澄ました感じですね。
茉子姐さんかっこいいし、丈瑠はもうクールビューティだし、そんな2人のやり取りがたまらんですよ。


「気になってるの?十臓が言ったこと…前の戦いで勝ったのは丈瑠の方じゃない。弱くなったとも思わないし」
「腕じゃない。十臓が言ってた通りだ」
「悪いこととは思えないけど」
「少なくとも1人で戦ってた時とは違う」
「うん、確かに。最初の頃の丈瑠とは違うよね。特に最近は、どんどんなんていうか……」
「お前達と戦うのが普通になってる」
「ていうか、みんなと一緒に居るのが普通って感じかな。私もそんな感じかな。流ノ介たちもそうだと思う。それっていいことじゃない?昔の殿様と家臣とは違うかもしれないけど、私たちはこれが」
「違う!」
「え?丈瑠?」
「俺は……違う!」


もうなんか丈瑠の主人公力と共にヒロイン力がめちゃくちゃ上がっているのですが、相対的に茉子姐さんのヒーロー力がグイグイ上がっている感じ。
実はここで茉子は丈瑠の異変に気付きながらもその本質には気付いておらず、丈瑠が抱えている悩みの本当のことは何も知りませんでした。
つまり、ここの2人って噛み合っているようで実は噛み合っておらず、丈瑠は自分を隠すのに必死で茉子に意識が向いていません。
茉子は欠落が埋まったことで本当の意味で優しくかっこいいお姐さんとなったのですが、丈瑠の抱えているものだけはいまだに読み取れないのです。


丈瑠は「あいつに見透かされた」と十臓に自分の奥底を見透かされたようなことを言っていましたが、ここでわざと2クール目と3クール目がグダグダだった理由をフォローしています
まあ全体的に見るといまいちメリハリがない2クール目と3クール目でしたが、思えばこの6ヶ月間は十臓との勝負以外で明確に物語の中心だったことがないんですよね。
どっちかといえば家臣たち4人や源太がわちゃわちゃしながら盛り上げていた感じで、それを通して丈瑠自身も思わずみんなの輪の中にいるのが当たり前でした。
しかし、このままなあなあになってしまっては距離感を見失うし、中心にある「殿と家臣」という本作のテーマが揺らぐことになってしまいかねません。


そこで復活した十臓がそんな風に柔らかくなっている殿をぶん殴って「甘いよお前」って来たことで、またもや丈瑠の中には迷いが生じ始めています。
しかし、その悩みとは初期1クールとは明らかに質の違うものであり、初期1クール目は「家臣たちを必死に守り引っ張っていくこと」にありました。
今回の悩みはそれに対して「みんなと近くなり過ぎてしまったこと」にあり、かなり意図的にその辺りをやっていたことが伺えます。
思えば外の人たちとの交流がそれなりにあったのも、シンケンジャーを正統派ヒーローとして補強しようという側面もあったようですし。
だからこそ、その後に丈瑠が太夫に斬られて怪我したところで、それを庇いに来る茉子のやり取りが映えるのです。


「茉子…馬鹿、俺のことはいいから」
「忘れたの?約束でしょ、命を預けるし、命を預かるって。その約束が丈瑠を弱くするとは思わない。 一緒に居て一緒に戦ってこの世を守る。丈瑠、私が今言えるのはそれぐらい」


ここで改めて第十二幕で誓ったあの時のやり取りをしっかりと伏線回収して来るところも素晴らしく、ここでちょっと十二幕のやり取りを思い返してみましょう。
あの時茉子は「丈瑠に命預けるよ!」と言い、丈瑠も丈瑠で「俺の命、お前たちに預ける」と言ったことを今度は茉子が駄目押しします。
改めて丈瑠は押しに弱い人だなあと思いつつ、ただそれでさえも今の丈瑠にとっては凄く苦しいものになってしまっているようです。
家臣たちと一緒に戦い続けて来たことがいい方向に作用するのではなく、むしろ丈瑠に迷いを生じさせる元になるというのもまた見所でしょうか。


丈瑠は茉子の言葉でギリギリ「志葉家当主」として踏みとどまって戦いますが、改めて本作は「志葉丈瑠」という個人と「殿様」という公人がはっきりと区別されていることに気づきます。
おそらく2クール目で戦った時はその「志葉丈瑠」と「殿様」をしっかり使い分けることができていて、第二十六幕の決戦では「殿様」ではなく「志葉丈瑠」という侍として戦いました。
しかし、3クール目は仲間たちの家庭事情などを見ていくうちに、爺の家庭事情まで憂慮するようになり、段々とその辺りの区別や境界線が曖昧になっていたのでしょう。
そう考えると、第三十八幕での爺への思いやりはギャグっぽく見せておきながら、実は丈瑠が段々と精神的に甘くなって来ていることを示したといえます。


それを振り切っての戦闘シーンはめちゃくちゃかっこよく、正直猛牛バズーカ自体はあまり好きじゃなかったのですが、今回は文句なしにハマりました。
実質は前回のお口直しというか、フォローし損ねた部分を改めて補強した感じで、丈瑠と茉子の関係性の補強、その2人の因縁の相手との関係の補強でストーリーをグッとシリアスに。
一方で源太とことは、流ノ介と千明は3クール目ですっかりバカっぽくなっていつの間にかギャグ担当になっていました…ここからは丈瑠と茉子がシリアス、残り4人がギャグを担うようになります。
ストーリーもアクションも演出も今回は無駄がなくまとまっていて、加藤監督の演出も違和感なくハマっていました。評価はもちろんS(傑作)です。


第四十幕「御大将出陣」


脚本:小林靖子/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
十臓から「お前は弱くなった」「自分を惜しむようになった」という言葉を受けて丈瑠はまたもや挙動不振に陥り、いつの間にかまた家臣たちと距離を置くようになっておいた。血祭ドウコクは骨のシタリに太夫を連れ戻すように命令し、アクマロに太夫の三味線を返すように糾弾する。その太夫は十臓とともに見返りを通すようアクマロに催促するのだが…。


<感想>
血祭ドウコク、いよいよ大暴れ!!


はい、もう満足です今回はこれが見られただけで…今までただ酒を飲んで威張ってただけのドウコクがいよいよ出陣。
いやあ、めちゃくちゃカッコよかったです、もはや丈瑠の悩みなんて「しゃらくせえ!」と言わんばかりの勢いで全部吹き飛ばしてしまいました。
最終技の猛牛バズーカすらも効かず、今まで決して何があっても折れることのなかったシンケンマルを真っ二つにし、シンケンジャーは全滅寸前に。
個人的にここまでの大ピンチは十一幕以来で、あの時とは違い戦力も何もかもが充実した状態でこの強さというのが恐ろしい。


第一幕からいた奴がラスボスというのはそれこそ同じ小林脚本の「ギンガマン」以来ですが、パワーだけならゼイハブと同等クラス。
ただし、あっちとの大きな違いは「知力」にあって、経営や人心掌握に関してはほとんど骨のシタリに任せていた印象です。
ゼイハブはこのドウコクの圧倒的武力に加えて「タイムレンジャー」のドルネロが持つカリスマ性と経営のセンスまで持ち合わせています。
つまり、ゼイハブをモデルとしてそこから知性派のドルネロと武力派のドウコクという風に枝別れしているような感じですね。


武力に特化しただけあって、その強さは折り紙つきならぬ折神付きで、終盤に向けて物語のハードルをガンガン上げて来ました。
前回からこっち、しつこく続いていたウタウダ丈瑠の悩みをそろそろ誰かバッサリと切って欲しかったので、ここでドウコクを出したのは大正解。
十臓は「あんな腑抜けは嫌だ」って感じで丈瑠を損切りしてましたし、彦馬爺さんからもダメ出しを受けていたので、凄くいいハードルとなったのです。
このまま物語がずっと「丈瑠可哀想」になりかねないところで素早く角度を切り替え、御大将の圧倒的な強さで一蹴したのは最高。


まだ完全に復活しておらず水切れが早いという設定もここで有効に活かされ、これまで物語の中で浮き気味だった設定がドウコクの登場と共にしっかり噛み合いました。
それから私はこれまで散々シンケンジャーのパワーアップを「過剰武装」「物語の意味付けがなされてない」と詰って来ましたが、ここでうまくバランスが取れています
なるほど、あの猛牛バズーカやスーパーシンケンレッドですらも一撃で戦闘不能に追い込む威力となれば、そりゃあ倒せんわなと…。
そして戦闘不能に陥った丈瑠はことはがしっかり運んでいくのですが、このシーンのことはがまた凄く男前。


前回の感想で入れ忘れましたが、茉子だけではなくことはもまた丈瑠の異変に気付いていて、しかしそれを誰にも言えず悶々と抱えてしまいます。
ここで茉子と丈瑠だけが距離感を縮めてしまうといけなかったので、ここでことはが茉子の代わりに丈瑠をというのはバランスを取ってきたのでしょうか。
正直茉子もことはも単独では魅力が薄いので、ここで丈瑠に対する屈折した思いやりを見せるのはとてもよかったところです。
敵側も敵側で太夫のために怒りで出撃するドウコクに持って行ったことで、かなり太夫のキャラ立ちもはっきりしましたし。


それからシタリの「あれは人で言うなら「執着」かねぇ」という言葉がこれまたエッジの効いた台詞回しで、こういう切れ味のある言葉を言わせたら、さすが靖子さん。
そう、十臓がやたら丈瑠を狙い続けるのも、茉子と太夫の関係も、そしてドウコクと太夫の関係も全てが「執着」であり、欲という欲を更に拗らせた野党の集まりであることが判明。
これから終盤の展開でよりその色が強くなっていきますが、それはある意味でいうとシンケンジャー側にも当てはまる言葉ではあるんですよね。
だって、丈瑠と家臣たちの主従関係、そして丈瑠と源太の幼馴染の関係もある意味では「執着」であるわけじゃないですか。


丈瑠がずっと家臣たちとの仲を深めることに反対したのも、逆に彦馬爺や家臣たちが丈瑠をしたって付いていくのも、悪く言えば「執着」と言えないこともありません。
人によってはこの時代錯誤にも見える主従関係は一種の宗教ではありますし、そういうものに縋って戦い続けることが「執着」と言わずして何といえばいいのか?
「友情」「絆」というのも結局は執着を綺麗に言い換えただけではないのか?そんな爆弾発言がここで放り込まれることで物語に奥行きが生まれました。


これからシンケンジャーが終盤に向けてどうなっていくのか、その動向をじっくり見守っていこうではありませんか。
やっと停滞気味であった大枠が前回と今回で本格的に動き始め、このラスト1クールでどのように物語を締めてくれるか楽しみです。評価はいうまでもなくS(傑作)


第四十一幕「贈言葉」


脚本:小林靖子/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
突如地上に現れた血祭ドウコクの襲撃により重症を負ってしまった丈瑠。家臣たちはドウコクの圧倒的な強さにショックを受け、ことはもまた何やら悩みを抱えた丈瑠を見て自分の存在意義に再び迷ってしまう。一方、外道衆はアクマロが繰り出したアヤカシによって、人々が次々と食べ物を欲しがる「餓鬼」にされていた。丈瑠とことは以外の4人も餓鬼にされてしまい、ことはは1人自分を責めるが…。


<感想>
さて、遂に来ました、ことはメイン回。一応それぞれのキャラメイン回は今回をもって終了し、あとはもう丈瑠と茉子が実質の主人公という状態で話が進んでいきます。
冒頭早速ドウコクの絶望的な強さに驚愕する家臣たちですが、ここまで過剰武装だと思われていたパワーアップを「しゃらくせえ!」と一蹴するドウコクの強さはとても良かったです。
これだけ武器が充実して実戦経験も積んでチームワークもできたからドウコクにも勝てるよね?と思わせておいてそれらをねじ伏せる展開はよくやりました。
同時にドウコクの強さが圧倒的だからこそ、序盤〜中盤で伏線として出ていた「封印の文字」という設定にもしっかりとした説得力が出ています。


さて、それを受けて今回はことはメイン回ですが、ことはがこんな風に自分のことで悩むのは二十二幕「殿執事」以来で、それまではなんだかんだみんなと仲良くやっていました。
しかし、物語も終盤に差し掛かって戦いが激化した中で、丈瑠と茉子の異変に気がつきつつ、再度自分の中に押し込めていた不安・不満がぶり返したということでしょう。
切ないのは自分のことで手一杯なことはが丈瑠と茉子の抱えているものに薄々気がつきながらも、それを自分に相談してもらえないことを「信頼されていない」と受け取っていることです。
しかもそんなタイミングで更にことはの姉からの手紙…自分にとって「憧れ」でもあり「コンプレックス」の元でもあった姉の存在はことはの人格面に一番大きく影響を与えてしまいます。


特に見ていて気の毒だと思われたのが、爺との次のやり取りでした。


「気に病むことはない。逆の立場であれば、お前も誰かをかばったであろう」
「でもうち、お姉ちゃんの代わりが出来てへん。殿様やみんなが優しくしてくれるのに甘えてたんです」
「どうかな。皆がそれほどお前を甘やかしているとは思わぬが」
「うち、最近殿様の様子が変やなって思ってて……でも、茉子ちゃんも気付いてはるみたいなのに、うちに心配かけへんように何も」


ここでことはの謙遜にして自己卑下とも取れることはのコンプレックスが吹き出しましたが、これってやっぱり最初のターニングポイントは第六幕だったと思われます。
千明にガツンと「お前バカにされてヘラヘラ笑ってんじゃねえよ。マジムカつく」みたいなことを言われたのがはっきりと効いたのではないでしょうか。
で、その千明はどんどん成長して頼れる存在になっていって、親との屈託も乗り越えていたし、モヂカラも剣術も今ではことはよりも強いかもしれません。
メキメキと強くなっていって強さを獲得していく千明に対して、自分はいつまで経っても前に進めないまま…しかも他のみんなも成長してますしね。


流ノ介も心の壁を乗り越えて自分の足で立ってますし、茉子姐さんも親の愛情をしっかり三十四幕で克服してから隙がなくなりました。
そんな中で自分だけが取り残されているのではないかと思っても不思議ではなく、更にその上でことはの姉、茉子、そして丈瑠を神格化してしまう憧れと表裏一体のコンプレックス。
そのねじくれた複雑な想いこそがことはの悩みの本質であり、思えば茉子や丈瑠ら年長組に対して抱いていた尊敬は実は後ろ向きな想いだったことが明らかになります。
ちなみに似たような思いは「ギンガマン」のギンガレッド・リョウマも持っていたのですが、リョウマの場合は前半の段階でそれを完璧に克服してましたからね。
それに戦闘力も判断力も非常に高いから、ことはほど深刻に抱え込まずしっかりと割り切って前に進める度量があったのではないでしょうか。


そんな中で改めてことはの姉の手紙を見つめ直し、そもそも「姉の代わり」だと思うこと自体が「甘え」であること、ことはの悩みは所詮「思い込み」でしかなかったことに気づくのです。


「頑張ってるシンケンイエロー……うちのことや」
「誰の代わりでもない、お前にしかなれない、シンケンイエローだ」
「うちしかなれへん、うちしか、シンケンイエローに!」


個人的にはシンケンジャーで一番男前なのは終盤に登場する姫なのですが、その次くらいに芯の強さという意味ではことはが物凄く男前だと思います。
まあ戦隊でも屈指の鋼メンタルであるリョウマを女イエローにしたのがことはですから、強そうで当たり前なんですが、それを演じたのが森田涼花氏でよかったです。
ことはの「天然ながらも、物凄く芯が強くブレない」という外柔内剛なキャラクターは彼女にしか演じられないでしょうからね。
茉子を演じる高梨氏は逆に一見凄く頼り甲斐のあるお姐さんに見えて、意外と芯の部分はブレやすく脆くて繊細なところがあるんじゃないかと思います。


ここでやっとことはは自分の足で立って歩くことができ、姉への屈託を乗り越えたことでようやく「真のシンケンイエロー」へと覚醒、ここからの猛反撃はカッコよかった。
そこからのスーパーシンケンイエローは丈瑠がまだ病み上がりということで彼女しか戦えないことに説得力が出て、ようやくここで壁を乗り越えた感じです。
今の力関係でいえば、ことはと千明はもうほとんどイコールじゃないかと思いますが、そこから巨大戦の「ダイシンケン・大回転斬り」は面白いですね。
いつもとバリエーションを変えたのもあるんでしょうが、何よりあのゴテゴテしたお立ち台に乗ってるずんぐりむっくりがジャンプして攻撃なんて誰も思うまいて(笑)


そして殿も迷いを振り切って真のシンケンイエローになったことはを見て安心し、再び殿様として戻るのですが、この「姉の代わり」ということはのネタも重要な終盤への伏線です。
丈瑠と茉子といい、ことはといい、どうして小林女史は攻めてこないのかなあと思ったのですが、やっとここで出してくれてよかった。
評価はS(傑作)、ところでサブタイトルを聞いて「金八先生のあの卒業ソング流れないよね?」と思ったのは私だけじゃないはず。


第四十二幕「二百年野望」


脚本:小林靖子/演出:竹本昇


<あらすじ>
アクマロが同じ場所に現れ続ける傾向を見て、彦馬爺は外道衆に作戦があるのではないかと睨んでした。そして、アクマロが関与していると思しき外道衆の出現場所のデータを集計した結果、何と地図上で一直線に結ばれることが判明する。これはアクマロが仕掛けた大がかりなプロジェオクトであり、その最終段階として彼は最後のアヤカシを送り込もうとするが…。


<感想>
今回と次回はクリスマス決戦編ですが…えーっと、正月はともかくクリスマス回は一切やらないものだと思ってました(笑)
だって、和風モチーフの戦隊だから「クリスマスなど邪道だ!日本人といえば正月だ」な感じになるのかと思いきや、そこらへんは割と現代的。
まあ流ノ介や源太、ことははともかく、茉子と千明は割と洋風っぽい感じだからあんまり和風で全部を統一しなくてもいいのかなと。


そんな今回と次回の作戦ですが、まさかの日本真っ二つ作戦!


えーっと、クリスマス商戦やるならもうちょっと派手なの用意しません?なんで日本限定なの?どうせなら地球真っ二つにしましょうよ
ダイタニクスやバズー、バルガイヤーなんていつでも星をあっさり食うことができるので、どうしても外道衆側の作戦がショボく見えてしまいます。
ちなみに地球真っ二つといえば「ダイターン3」を思い出しますが、でもあれが大掛かりでやってることをアラレちゃんは軽くパンチ一発でできますからね。


そんなアクマロの作戦に対してシンケンジャーは二手に分かれ、丈瑠・茉子・ことはのハーレム組と流ノ介・千明・源太のむさ苦しいやろう3人衆に分かれるのであった…。
何だか物凄い悪意を感じる人選ですが、状況的には丈瑠が両手に花状態で、それこそ二次創作大好きなCP厨とかがウキウキしそうな状況なのに全然羨ましく思えないのはなんでだろう?
だってあの美人2人に挟まれる主人公とかめちゃくちゃ羨ましい状況のはずなのに、本作のストーリーや設定がハードだからか、キャラ付けのせいなのか寧ろ丈瑠にとっては苦しそうです。
私が丈瑠の立場ならな正直「面倒くさいのに挟まれた」なんて思ってしまうでしょうね…だってシンケンウィメンズは美しさや華やかさよりも男前さの方が際立つんだもの。
少なくとも「ギンガマン」のサヤといい「タイムレンジャー」のユウリといい、小林女史が手がける戦隊ヒロインって恋愛してもそんなに色気は出ないんですよね。


まあこれは小林女史に限った話ではなくて、そもそも「ウルトラセブン」のダンとアンナからしてそんなに色気のあるラブロマンスが描けていたかというと微妙です。
戦隊シリーズではちょくちょくメンバー同士の恋愛が描かれていて、特に荒川氏なんかはそれの典型みたいなもんで「メガレンジャー」でもせっせと瞬とみく、千里と耕一郎をデートさせてましたっけ。
ただ、じゃあそれが作品としての魅力に繋がったかというと微妙なところで「マジレンジャー」の麗とヒカル先生や「ボウケンジャー」のチーフとさくら姉さんも似たようなものです。
メンバー同士の恋愛って基本的に起こらないものですし、起こったとしてもそれをドラマチックに成立させるのってめちゃくちゃ面倒くさいですよ。


現に今書いてる「ジェットマン」の恋愛事情に関しても同じで、竜と凱と香の3人の恋愛だけ見ても「地球の平和そっちのけでこんなことようやるわ」と感心しました。
だからシンケンジャーも似たようなもので、丈瑠と茉子とことはの3人で戦うことになってもちっとも嬉しくないのはあくまで「殿と家臣」でしかないからなんですよね。
終盤に待ち構えている展開から逆算的に見ると、寧ろ茉子もことはも残りの流ノ介たちも丈瑠にとっては戦いに必要であると同時に縛りにもなってしまうものです。
丈瑠にとっては茉子やことはと一緒に戦うよりも、外の世界にいる見知らぬ一般女性と付き合う方がまだ安らぐんじゃないでしょうか?


まあそんな戦隊メンバーの恋愛事情にまで話を広げましたが、とにかくこの回はクリスマス決戦ということで、様々なロボットのバリエーションを見せました。
その上で十臓の裏正の正体も「十臓の家族の怨念」がこもったものであることも明かされ、アクマロ関連の目的もここで回収されています。
物語としてもボルテージが高まっていき、果たして日本が真っ二つに切られてしまうのか、次回へ持ち越しとなり、評価はS(傑作)です。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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