『侍戦隊シンケンジャー』(2009)13〜18話感想まとめ

 

第十三幕「重泣声」

第十四幕「異国侍」

第十五幕「偽物本物大捕物」

第十六幕「黒子力」

第十七幕「寿司侍」

第十八幕「侍襲名」

 


第十三幕「重泣声」


脚本:小林靖子/演出:竹本昇


<あらすじ>
茉子がある日夕食を作ると言い出したので、以前のトラウマから茉子の壊滅的な料理センスを知っていた丈瑠たちは胃薬などを用意する。一方外道衆は封印の文字対策として丈瑠を直接倒しに行かないことを疑問視していたが、シタリは三途の川を増やして表舞台に出られることを優先した。買い物に出かけた茉子について丈瑠たちが分析している頃、買い物に出かけていた茉子は泣き叫ぶ子供を発見する。


<感想>
さて、第二クールの始まりですが…作り手に尋ねたい、今回は戦隊ファンに新たな性癖の扉を開かせるつもりですか!(おい)


だって小林女史がまさか百合萌えにギャップ萌え、更には駅弁フ○○クまでこの1話で高度にぶち込んでくるとは思わないじゃないですか!いい加減にしろ、ありがとうございます!

 

とまあこんな書き出しですが、とにかく1クール目でシリアスパートを一通り描き切った後ということもあってか、ここからしばらくは箸休めのようなギャグ回が多めです。
その一発目がまさかのことは×茉子というシンケンガールズコンビ回とは思いもよらず、しかもかなりクオリティが高いのでどうしたものかと思ってしまいます。
全体を見終わって感じたのは茉子の脆さとそれを支えることはの男前ぶり、そして茉子を腫れ物扱いするシンケンメンズの役立たず具合が際立ったというところでしょうか。


まず今回のハイライトはなんといってもことはが茉子を受け止めてしっかり支えるところです。

 


「たまには茉子ちゃんのこと、ぎゅってしてもいいやろ?今まで頼ってばかりでごめんな」


これまで直接的な絡みがほとんどなかったことはと茉子でしたが、ここは単品で見ても面白いのですが、更にすごいのは第二幕が実はこのシーンの伏線になっていることです。
第二幕では健気なことはの心情を知った茉子があまりにも愛しくなってことはを抱きしめるシーンがあるのですが、今回はそのシーンと好対照をなしています。
それと同時に、同じ「抱擁」でも茉子のそれとことはのそれでは全く意味の違うものであることが示されていて、実は芯が一番強いのはことはの方だったのです。
前にも書きましたが、ことはは外柔内剛タイプというか、リョウマの表面上の柔らかさに反する芯の強さとサヤの「年上の男性に憧れる年下の女の子」をハイブリッドした女の子なんですよね。


だから普段は単なる不器用で舌足らずの子なんですけど、意外と根っこの部分はタフで何があろうとも動じることがないからこそ、茉子を抱きしめる時の包容力が凄まじいという。
逆に茉子は第四幕での流ノ介との絡みがそうでしたが、一見大人びていて頼り甲斐がありそうなんですけど、本心はすごく甘えん坊というか誰かに甘えたいけど甘え方を知らない不器用な子なんですよね。
「一生独身」で傷ついたり、今回も「外道衆を倒せないとお嫁さんになれない」と弱音を漏らしたり、普段物凄く気を張って強がっているからふとした時に脆さが露呈してしまう。
もっとも、茉子のそうした「内面の脆さ」というのは流ノ介も同じく抱えているんですが、流ノ介の場合は立ち直った後茉子にバッサリ切り捨てられたことでそれを克服しています。
まあこれだけ見ると「ふたりはシンケンガールズ」なんですが、ことはの芯の強さと茉子の芯の脆さという形で本質をあぶり出しにして関係性をしっかり補強してきたのはいいところです。


さて、これとは逆に男性陣の役立たずっぷりなんですが、うーん、これに関しては正直「侍としての使命以外を置き去りにしてきたから」としか言いようがありません。
ただ、それを差し引いたとしてもデリカシーのなさが目立つのも確かで、特にことはの「茉子を嫁にしたい」発言に対して「それは無理だぞ」発言はかなり無神経です。
丈瑠にしても流ノ介にしても、それから千明にしてもことはが必死になって茉子のいいとこをプレゼンしてんのに誰一人耳を貸そうともしないのはどうなんでしょうか?
まあ丈瑠は「茉子に近づくと余計な詮索をされるかもしれない」、流ノ介が「また関わって痛い目に遭うのが怖い」、千秋は「俺じゃあ制御しきれねえ」ってことでしょうけど。
丈瑠に関しては終盤で露呈することになる事情があるので関わらないのが無難としても、千明くらいはことはに耳を貸してあげても良かった気はします。


まあただ、ことはもことはで姉のことを思い出した時に慰めてもらったアピールで対抗してますけど、どっちかといえばこれってあくまで個人的な体験を出ないものですし。
それにことはって純真で健気故にお人好しで騙されやすそうな面もありますから、この段階だと「惚れてしまえば痘痕(あばた)も靨(えくぼ)」で盲目的に見えてしまいます。
いうなれば「茉子信者」に成り下がっているのが今のことはだとも言えるので、あんまりことはのアピールを鵜呑みにしてはならないということでもあるでしょう。
何れにしても、今回に関していえば同性として距離感と立場が近いことはが受け止めて対処するのが適任であり、結果としてはこれで良かったと思います。


そしてシンケンメンズは今回敵が繰り出したアヤカシに抱きつかれる中で駅弁という新たな性癖の扉を開いしてしまいました…特に丈瑠とか絶対入ってるよね(笑)
ここまでやる必要はあったのだろうかと思いますが、ただこれまでを思い返して見ると、シンケンメンズはこれまで戦闘シーンでひたすら活躍してました。
特に千明と流ノ介はかなり美味しい成長エピソードをもらっていますし、戦闘力も上がってますから、それに比べると女性陣がいまいちパッとしません。
唯一六幕でことはが単身で活躍したくらいで、茉子に限っては今までほとんど目立った活躍がなかったので、ここで思い切ってクローズアップということでしょう。


そんな2人が力を合わせて合体モヂカラ「山」と「風」で「嵐」を発動!はいここで来ましたよ、例のアレが。

 


体中に風を集めて♪巻きおこせ♪ARASHI ARASHI for dream


うん、「仮面の忍者赤影」の闇姫には是非ともこういった方法で嵐を巻き起こしていただきたかったところです。
そしてシンケンメンズはこれまで散々持ち上げられたこともあってか、特に流ノ介を中心に一気に株を落としまくるという。
あれか、「持ち上げて落とす」作戦か…そう考えると初メインの「ギンガマン」は一番真面目な時期だったとはいえ、メンズが誰も株を落としてないのは奇跡だったかも。


ということで、話としては一気にことはと茉子の2人を近づけ、男性陣を踏み台扱いして急浮上。
よくよく考えると酷い話ではあるのですが、まあこれで男女間のヒエラルキーを多少無くそうということだったのでしょう。
総合評価はA(名作)、中途半端にせずにネタとシリアスをきちっと融合させており面白い一本でした。

 


第十四幕「異国侍」


脚本:小林靖子/演出:竹本昇


<あらすじ>
流ノ介が屋敷周辺を散歩していたところ、突然厳つい外国人が声をかけてきた。彼は「リチャード・ブラウン」という名前の外国人であり、シンケンブルーに一度助けられたことがきっかけでシンケンジャーに弟子入りしたくて志葉家にやって来たという。丈瑠は当然のごとく、流ノ介に適当にあしらって追い返すように指示を出すのだが…。


<感想>
今回の話は「デカレンジャー」より初参加となり、単発でそこそこのギャグ回を書いていた浦沢門下生の大和屋暁氏が参加。
ようやくここに来て初のサブライター回となるわけですが、最初に結論から述べておくと、誰向けに作られた回だったのでしょうか?
正直な話、私は最初に見たときからこの回は色々と解釈に困る部分がありまして、世界観を拡張する意図としては失敗だったかなと思うのです。


だって今回出て来たシンケンブラウンというのはいってみれば「ミーハーな追っかけファン」であって、当の流ノ介およびシンケンジャーからしたら迷惑以外の何ものでもないでしょう。
例えるならアイドルの握手会やコンサートが終わった後でそのアイドルを出待ちして追いかけるようなものなので、それをギャグとはいえ物語として肯定してしまうのはどうかと思うのです。
それにこういう「外国人から見たファンタジージャパン」みたいなイメージのものを本家本元がやってしまうのは、パロディといえどブランドの安売りにもなり兼ねません。
まあ強いていえば、海外版の「パワーレンジャー」との兼ね合いで、海外の戦隊ファン向けに作られたエピソードということなのでしょうけど。


しかも侍道というものが何なのかをきちんとブラウンが教わって帰るならともかく、「君に教えることがない」を「破門」ではなく「免許皆伝」と勘違いしているのが余計に引っかかるのです。
それで表向きいい話っぽくしてますけど、むしろ私としてはファンが余計に勘違いを拗らせてシンケンジャーに変な幻想を植え付けてしまったとしか見えません。
いやこれがね、「こまけえこたあいいんだよ!」なぶっ飛んだ世界観の話だったらいいんです、それこそ「カーレンジャー」のようなぶっ飛んだ世界観ならね。
ただし、その「こまけえこたあいいんだよ!」な世界観にはその世界観なりの一貫性は必要であり、「ここは崩してはならない」という一線の引き方は重要です。


こと「シンケンジャー」に関していえば、むしろ「殿と家臣」という、扱いを間違えたらとんでもない大惨事になりかねない時代劇のガジェットを物語のメインに組んだわけじゃないですか。
しかもそれを第一幕から物語の中心に据え、外の世界の人たちとの交流は持たずに閉じた世界観の内側の話として展開し、十二幕でそれが美しく結実したのです。
そんな十二幕でで積み上げてきたものをこの話はかなり冷や水浴びせた感があって、こんなに簡単に認められてしまうなら侍戦隊の戦いってそんなに軽いものなの?と思ってしまいますし。
まあ最終的に「いい思い出にしてもらった」ということでギリギリ一線は守られていましたけど、こういうのを軽々とやってしまうのはどうかと思うのです。
同じことは十七幕で登場するシンケンゴールド・源太に関してもいえるのですが、それはまたその時に。


いや別にシンケンジャーでコメディやギャグをやるなというわけじゃないんです、むしろ前回はギャグもかなり混じってましたし。
ただ、小林女史が提示する回は細かい物語上の制約やルールがたくさんあるので、サブライターが自由に描きにくいというのがあるのです。
評価はE(不作)、小林女史メインライター作品の短所がかなり浮き彫りになった回であると思います。


第十五幕「偽物本物大捕物」


脚本:石橋大助/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
千明は稽古で白刃取りを上手くすることができず、流ノ介から見下されて落ち込んでいた。その心理に漬け込むかのように、外道衆は他人になりすませるアヤカシを送って千明になりすまし、千明以外の4人に有る事無い事悪口を吹き込んで5人の絆を滅茶苦茶にしようとする。何かがおかしいと思った千明はあえて4人に嫌われるよう仕向けて、これに対応するのだった。


<感想>
石橋大助氏が初参戦となりましたが、結果からいうと…うーん、大和屋脚本とは違う意味であまり好みのエピソードではありませんでした
色々理由はありますが、まず「偽千明の猿芝居に騙される千明以外の4人」というそもそものプロットに無理があり過ぎます。
「ゴーカイジャー」でもそうでしたけど、石橋脚本回だと登場人物のIQが下がることが多いので、今回はもろにそれが出てしまったなと。


まず偽千明のキャラからして無理があるというか、石橋氏自体がそもそも千明のキャラ造形をきちんとわかってなかったのではないかと思うのです。
確かに偽千明って擦れた現代風の若者という感じですけど、決して根は悪い子じゃなくすごく真っ直ぐでやる気はある子なんですよね、それを素直に表しにくいだけで。
それを石橋氏は偽千明の解釈として「落ちこぼれ」と「チンピラっぽい性格」だけを強調して、やたらに性格の悪い子のように描いていることに無理があります。
小林脚本がベースにあるのでこの程度で簡単にキャラは壊れませんが、それでもきちんとキャラ造形への理解は示した上で作劇して欲しかったところです。


それから、流ノ介もただの「上から目線で千明をバカにする」「バカ正直に偽千明の言い分を鵜呑みにしてしまう」として描かれているのも違和感があります。
流ノ介は実力の劣っている千明を見下した描写なんてこれまでになく、あくまでも侍としての使命感と殿への忠義心が暴走してしまうだけで、基本は真面目な人です。
それから、偽千明の言い分を鵜呑みにするのも第二幕辺りまでならともかく、これまでの1クールの交流を経て主従関係が出来上がった後だと無理があります。
第十二幕までに千明も流ノ介もある程度お互いのことは理解しているわけで、千明の癖や特徴くらいはそれなりに掴んでいるのだと思いますけどね。


それから殿、茉子、ことはも気づいていたのであればもっと早い段階で警戒してもおかしくないのに、その辺りもっとひねって工夫できなかったんでしょうか
千明が機転を利かせて、というのは悪くなかっただけに、もっとその辺りを技巧を凝らして面白く仕上げて欲しかったところです。
こういう知略系の回は基本的に「いかにひねって面白くするか?」にあると思うので、今回はキャラ解釈も含めて石橋氏が本作の世界観・ストーリー・キャラを掴めていなかったと思います。
前回の大和屋脚本はまだキャラへの理解や愛はありましたから、その辺の差も含めて評価はF(駄作)とするのが妥当でしょう。


第十六幕「黒子力」


脚本:大和屋暁/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
いつも通り稽古に励んでいた流ノ介達は好き放題に力を使い始めてしまい、黒子が持っていた壺を落として割ってしまう。騒ぎを聞きつけた彦馬は流ノ介・千明・ことは三人組を正座させ「黒子達を見習え」と叱りつけた。3人は町を訪れて黒子たちの気持ちを理解しようと慈善活動に参加する。一方、外道衆の蒲黄では血祭ドウコクが十臓と接触した薄皮太夫の異変に気づくのだが…。


<感想>
今回は黒子にスポットを当てた回ということで、黒子が普段何をしているのかが描かれましたが…うーん、これもちょっと無理がありませんか?


いや別に黒子が何をしているのかを掘り下げてくれたのはいいんですけど、本当に黒子が普段からあんな街中で慈善事業をしている、しかもそれに一般市民が感謝しているのは明らかにおかしいです。
現代日本で黒装束でそんなことしようものならいくら慈善活動といっても職質案件ですし、仮に浦沢ワールドのような不思議コメディ時空なのだとしたら1クール目の段階でそう描いておくべきでしょう。
この辺り、シンケンブラウン回もそうだったのですが、小林女史が提唱するストーリー・世界観と大和屋氏が提唱するストーリー・世界観の前提が違い過ぎてうまく噛み合いません。
黒子の役割を描くのは構わないのですが、ここで世間一般との繋がりを下手に描いてしまうとかえって「シンケンジャーらしさ」が損なわれてしまうのですよね。


それから、丈瑠と茉子が黒子の役割を把握していて流ノ介とことはと千明の3人が知らなかったという描写もかなり無理があります。
特に流ノ介は歌舞伎もやっていたから黒子の役割に関しては理解しているはずですし、ことはと千明もこれだけ付き合いがあればどこかで見ているはずです。
茉子がいう「黒子には黒子の、シンケンジャーにはシンケンジャーの役割がある」という「適材適所」は本作のテーマである「殿と家臣」のテーマの補強になっていてよかったんですけどね。
3人のピエロっぷりを強調するために丈瑠と茉子が普段以上に大人っぽく描かれていたのも流石に違うと思うので、この辺りはバランスを考えて欲しいなと思いました。


それから、流ノ介たちがモヂカラを暴走させて壺を割ってしまって叱られる展開も無理があるというか、むしろそういうのは普段から厳しく言われてる方なんじゃないですか?
特に本作は序盤からそういう「侍たるもの厳しく己を鍛えよ」を教育しているため、その力をなんのために使うのかはきっちり小林女史が提示しているはずなのですけどね。
どうにも本作の大和屋脚本はまだ小林脚本のベースを掴みきれていないというか、作品に対しての理解と愛がまだこの段階では薄い気がしてしまうのです。
「ギンガマン」の第四章「アースの心」でもそうでしたけど、小林女史は初期段階で「その力を何のために使うのか?」はきちんと制定する人ですし。


ただまあ良かったところがないわけでもなく、シンケンジャーがあんな風にチャンバラごっこや時代劇じみたことをしても通報されずに済んだのは黒子の皆さんのおかげだとわかったのは良かったです。
それから、ずっと謎だった「いつの間に着物に着替えているの?」というのも、これはジャニーズのライブ中の早替えと一緒で、陣幕を出しているあの一瞬の間に着替えさせているのだとわかりました。
また、それまで「火」「水」「天」「木」「土」と割り振られていた5人のモヂカラの属性を生かした攻撃もまだ物語の中に組み込まれていなかったので、そこを補強したアクションも好印象です。
まずグリーンの絵だとイエローの岩で壁を作って装甲にダメージを与え、レッドの火をピンクの天が強めて装甲を急激に熱し、ラストにブルーの水で急激に冷やして装甲が脆くなったところで大筒モード。
こんな風に技の掛け合いで敵を倒していると戦隊シリーズの特徴である「チームワーク」が描かれているようで良かったです。


単品で見ると総合的にはイマイチでしたが、良かったところもあったので評価としてはE(不作)といったところでしょうか。
それにしても、サブライターに変わってからここまでどうしてもパワーダウンしたエピソードが多く、中弛みとはいいませんが微妙な出来のエピソード続きです。
「シンケンジャー」の総合評価の記事でも述べましたけど、2クール目と3クール目はややグダグダ気味なのが惜しまれます。


第十七幕「寿司侍」


脚本:小林靖子/演出:諸田敏


<あらすじ>
外道衆の知らせをで街中へ偵察に来たシンケンジャーだったが、現場にアヤカシの姿は見受けられず引き上げることになる。その丈瑠たちとニアミスになった屋台を引く元気な江戸っ子がいて、丈瑠たちが帰ると「近日見参」と書かれた矢文が届く。志葉家には結界のモヂカラが貼られているため、侍でなければ矢文は不可能である。神経質にならないように気をつけた丈瑠だが、屋敷の中で何者かの気配を感じ…。


<感想>
さあ来ました、シンケンゴールド登場編。ここからまたしばらく小林脚本回が続きますが、小林女史メインライターの戦隊で追加戦士が明るい系なのはかなり珍しいのでは?
しかも「近日見参」という矢文を出して、わざわざ初登場をかっこよく演出しようとする出たがりなところなどを見るに「メガレンジャー」の早川裕作の系譜でしょうか。
更に江戸っ子気質や喧嘩っ早いちゃきちゃきした感じはメガレッド・伊達健太の系譜ともいえ、健太と裕作をハイブリッドに融合して寿司屋にしたらこうなりましたという感じです。
演じる相馬圭祐氏もまたスラッとしたかっこいい男で、こういう破天荒なキャラってやり過ぎるとただのウザいやつでしかないのですが、相馬氏はバランスよく演じていますね。


しかも単なる「いい奴」ではなく、脅迫とも取れる矢文をかっこいいと思って送りつけたり、正体を探ろうとした4人に強烈なわさび寿司を食わせたりと結構策士な面もあります
そこが同じ三枚目気質の流ノ介との最大の違いであり、流ノ介は生真面目な性格や忠義心の暴走ゆえに「結果として」三枚目になっているという感じです。
それに対して源太はもう根っからのバカ系というか、とにかく底抜けに明るてファジー、お祭りや楽しいことが大好きな徹底した「陽」としての三枚目属性。
おそらくこの辺りから「正統派熱血のかっこいい男」を流ノ介に、そして「ズッコケだけどかっこよく決めるコメディリリーフ」を源太に分担しようという狙いでしょう。


十二幕で家臣としての絆を結んだ辺りから流ノ介って露骨なネタキャラ感が減ってかっこいい成分が増していますし、シンケンジャー5人って基本どこか陰気じゃないですか。
だから、その圧倒的陰キャ集団の侍であるシンケンジャーに徹底した陽キャの源太をぶつけてくることによって、うまくバランスが取れるということでしょう。
そろそろ物語としても初期のジメジメした路線ばかりを続けるわけにもいかず、かといってギャグ回を回せるだけの強烈なコメディリリーフも前回まではいませんでした。
そこでそろそろシンケンジャー全体に勢いをつけて跳ねさせるだけの躍動感あるキャラが必要であり、そこでうまく追加戦士に寿司屋を持って来たのは見事です。


話はもうあってないようなもので、ドラマ的な見所は強いていえば、丈瑠とアヤカシのサスペンスかな…それから二手に分かれた時に流ノ介と茉子が組んでいたのも印象的でした。
かなり義務的な仕事上のやり取りだったのですが、「2人で手分けしよう。私と茉子は殿を、千明とことははあの寿司屋を」という指示の出し方が的確です。
実質的に丈瑠の二番手として認められてからは丈瑠が不在の時に家臣たちをまとめ上げる存在になっており、副将としての役割も描かれるようになります。
流ノ介が精神的に弱ったところを見せたりしなければ、茉子とはいい距離感のパートナーという感じで、シンケンジャーもいい感じのチームワークができていますね。
それからアヤカシの目的が妖術を使って志葉家に伝わる封印の文字の秘密を探ろうとする流れも納得であり、この辺りはまあスムーズで良かったかなと。


ただし、良かったのはそこまでで、やっぱり個人的にどうしても気になったのはシンケンゴールド初登場のシーン。


「一貫献上!俺が6人目のシンケンジャー!シンケンゴールドだ!」


う、うーん…これはかっこいいかっこ悪い以前にパチモン感が凄い!(笑)


書道フォンとシンケンマルはメチャクチャかっこいいのに、寿司チェンジャーと寿司ディスクの「高速サービスエリアの売店のお土産コーナーに売ってそうな玩具」感は何なの?
いや、シンケンジャーのかっこよさとは違った路線を出すのはいいんですけど、せめてもう少しマシなデザインにできなかったんですか
あのロボットがクソダサいと言われたトッキュウジャーですら6人目の虹野明のアプリチェンジャーはスタイリッシュでかっこよかったのに!
それからスーツデザインの金の光沢も安っちいというか、成金くさくて逆に悪趣味…どうして戦隊の「ゴールド」と名のつく戦士って微妙なデザインばっかなんだろう?


誤解のないように言っておくと、金ピカパワーアップとかはいいんですよ、例えば「ギンガマン」のギンガの光だったり「トッキュウジャー」のハイパーレッシャだったりは好きです。
しかし、いわゆる「金色の戦士」に関してはロクなのがいないというか、強いていえばズバーンが辛うじて及第点というところで、あとは全部悪趣味な感じがします。
前作のゴーオンゴールド、ゴーオンシルバーのウイングスも「お金持ち」の象徴なのかもしれませんけど、私は露骨な玩具感丸出しのデザインが好きじゃなかったですし。
つまり、「追加武装」としてだったら金色もいいけど、通常フォームでの金色は嫌だという単なる好みの問題です。


あとスーツアクターの次郎さん、あなたビール飲み過ぎです!変身前のあのすらっとした体型からどうしてあんなビール腹の戦士になってしまうのか?
岡元次郎さんの全盛期である仮面ライダーBLACKやBLACK RX、またメガブラックやギンガブルーを演じてた頃は違和感なくてよかったんですけどね。
アクションに関してはサカナマルを用いての逆手一文字という居合術で、シンケンジャー5人の正統派チャンバラとは違う感じを出してるのがよかったです。
どっちかというと侍というよりは岡っ引きとか忍者とかいうイメージが近く、スピーディーさを意識することで差別化を図っています。


まあ内容としては十分面白かったんですけど、巨大ロボ戦での無意味な苦戦は「ギンガマン」の時と変わらない短所ですね。
動くとかっこいいし、変身前も含めて源太のキャラクターは好きなだけに変身玩具とスーツデザインはもう少しならなかったのかと。
総合評価はA(名作)、気軽に見れる中にも小さなアイデアが詰まっていて好きです。


第十八幕「侍襲名」


脚本:小林靖子/演出:諸田敏


<あらすじ>
シンケンゴールドとして風のごとく現れた屋台寿司の正体は丈瑠の幼馴染・梅盛源太だったことが判明する。源太は実家の寿司屋が潰れて夜逃げし、烏賊折神を再会の約束に渡して消息不明となっていた。その源太が正式に侍戦隊として共に戦いたいと挨拶に訪れるが、一同は彼のズレたファッションセンスと言動に呆れてしまう。最終的にスシチェンジャーを没収されてしまったのだった。


<感想>
さて、ついにやって来た6人目の侍ことシンケンゴールド・梅盛源太ですが…うーん、個人的には何とも微妙な感じです。
総合評価の方でも書いたのですが、やっぱり「幼馴染だから」をエクスキューズとして源太の仲間入りを簡単に認めてしまうのはどうかと思います。
まあ丈瑠は結構押しに弱かったりするので、どうしても丸め込まれてしまうのでしょうけど、こんなにあっさり突破できるなら十二幕までで築き上げたあの重々しい積み上げは何だったの?と思いますし。
この辺りは賛否両論あって、「こまけえこたあいいんだよ」なのでしょうが、小林女史がメインを務める戦隊の追加戦士のドラマってすごく丁寧だったんですよね。


「ギンガマン」の黒騎士ブルブラック、「タイムレンジャー」のタイムファイヤー、それから「トッキュウジャー」のザラムに関しても割と丁寧に描いていました。
その辺り、本作では侍たちの関係性を凄く丹念に描いた後だからということかもしれませんが、それでももう少し段取りは丁寧に組んで欲しかったところです。
無理に今回の話で6人目に加えなくてもよかったんじゃないかなあ…流ノ介が微妙に最後まで源太の仲間入りに反対していたのが救いでしたが。
まあ丈瑠がまたもや源太の仲間入りに反対したのは実はもう1つ巧妙に隠されたある事情があるからなのですが、家臣たちにも今の所それはバラしていません。


ただ、じゃあ面白くなかったかというと逆、「実は昔丈瑠は泣き虫だった」という崩しが入ることにより、これもまた終盤への伏線になっているからです。
完璧超人だと思われていた丈瑠を今回は過去回想という形で掘り下げていましたが、必要以上にギャグっぽくせず、しかし違和感のないようなキャラ設計にしています。
どちらかといえば源太の「幼馴染」という設定は丈瑠のソフトな面を引き出すために追加されたような設定であるように思うのです、悪く言って御都合主義な設定ではありますが。
単なるうるさいやつというだけではなく、陰キャと陽キャの絡みによって丈瑠の人間的な面がより付加されて魅力が増すのは良かった。


それから源太もただふざけているだけじゃなく、シリアスなところできっちり丈瑠に自分の思いを明かすシーンも名演技でした。

 


「馬鹿野郎!幼なじみを助けたら、何で強くねえんだ!水くせえぞ!俺だって覚悟決めてきたんだ、幾らだって命預ける!だから巻き込めよ俺を!!もう、ぐっるぐるにい!!」


普段明るいくバカやっている印象が強い源太ですが、こういうところではきっちりかっこよく決めに行けるので、メリハリがついてとてもいいですね。
できれば侍戦隊の仲間入りを果たす前に、もう一段階認められるようにするとか、輪に加われなくとも後ろで外道衆と戦うNPCみたいに描くとか、やりようはあったはずです。
つまり、企業でいう試用期間を設けて、「よし、お前も今日から本格的なシンケンジャーだ」という風にするという形でもいいのではないでしょうか。
思えば、本作の2年後に宇都宮Pと荒川氏が手がける「ゴーカイジャー」のゴーカイシルバーが「海賊見習い」という設定だったのはその辺りを考慮してのことかもしれません。
腕が立って料理ができても、あくまでも海賊としてのヒエラルキーは一番下であるという風にしたことで源太の時の反省点を生かしていると思います。


名乗りやアクションもかっこいいのですが、やっぱり6人の時より5人の時の方が名乗りの絵のバランスがいいので、源太が加わるとちょっとバランス崩れますね。
アクションシーンはまあ前回も見せてもらったものを改めて今回も見せてもらった感じで、可もなく不可もなしといったところでしょうか。
幼馴染として息の合ったコンビネーションはすごくよかったので、あとは彼が真の侍として迎えられるまでの過程を描いてくれることを願います。
その分、ラストで「寿司の味が普通」というところでオチをとってバランスを取り、丈瑠も爺も柔らかくなっているのを受け入れて次回へ。
評価としては高く見積もってもB(良作)であり、ドラマ的にもっと凝って欲しかったなあと思うところです。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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