『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)13〜18話感想まとめ

 

第13話「愛の迷路」

第14話「愛の必殺砲(バズーカ)」

第15話「高校生戦士」

第16話「紙々の叛乱」

第17話「復活の女帝」

第18話「凱、死す!」

 


第13話「愛の迷路」


脚本:井上敏樹/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
竜が26歳の誕生日を迎え、スカイフォース基地内ではささやかな竜の誕生日パーティーが開かれていた。香は料理教室に通って竜のために手料理を振る舞うが、凱はそんな2人の仲睦まじい様子に耐えきれなかった。竜と凱は再びバーで激突し、香も香で竜にすげなくされてしまう。一方バイラムの方でも、グレイがピアノを引いているのを嘲笑うマリアがピアノを綺麗に弾くが、彼女は人間の心が残っている自分に困惑していた。


<感想>
1クール目までの立ち上がりを終えて、2クール目に入りました。7話〜12話までが箸休めのエピソードなので、実質は6話からの続編という形です。
前回まででそれなりにジェットマンの人間関係が出来てきたのでこのまま恙無く進行するのかと思いきや、やはりそこは井上先生、揺さぶりをかけてきます。
まず香が誕生日パーティーにかこつけて竜との距離感をグイグイ縮めようとしますが、竜からはその気持ちに応えられないとあしらわれてしまうのです。
そんな竜を見かねた凱は居ても立っても居られず、バーで改めて竜に対して奥底で溜まっていた本音をぶつけるのですが、ここでのやり取りに2人の心情がよく表されています。

 


「俺たちは戦士だ!俺も香も戦士なんだ…ただそれだけだ!」
「ふざけるな!てめえはいつもそうだ。なぜ本音を吐かねえ?俺たちは戦士である前に人間だ!男と女だ!それとも何か?お前、一度も女に惚れたことがねえってのか?」


来ました、凱の名台詞として取り上げられる「俺たちは戦士である前に人間だ!男と女だ!」…スーパー戦隊シリーズの歴史を大きく変えた瞬間です。
ただし、このセリフ自体はあまり大きな意味を持つものではなく、「〇〇である前に××だ」というのは詐欺師がよく使う都合のいい言葉だったりするので、あまりいい言葉ではありません。
むしろここで大事なのは前後の「なぜ本音を吐かねえ?」「お前、一度も女に惚れたことがねえってのか?」というセリフであり、凱はそれと知らず竜の急所を突いてしまったのです。
ここで改めて竜は心の奥底に仕舞っていたはずのリエとの愛し合った日々(半分以上記憶が美化されている)が思い出され、しかしそれを凱にいうわけにもいきません。


ここで切ないのは三角関係のように見せておきながら竜はただ2人の身勝手に巻き込まれただけで、本命はリエにしかなく2人のことは「戦う仲間」としか見ていないのです。
単なる喪失感から生じた復讐心で完璧超人を演じているだけではなく、割とマジでこの段階では凱のことも香のことも戦闘要員以上ではなく、プライベートでどうこうということはありません。
しかし、ここで竜にとって面倒臭いのはこの2人が自分の潜在意識の部分を突いてくることであり、あっさり躱そうとしても性格が不器用だからうまく回避できないことです。
逆に回避しようとすればするほど雁字搦めになってしまい、竜にとって自分の気持ちを包み隠さず明け透けに話す凱と香はそんな自分の無意識の部分を見せつけられる気持ちになるのでしょう。


1クール目である程度距離が縮まったと見せかけておきながら、それすらあくまでも表面上のものにすぎず、本音の部分できちんとぶつかって理解したわけではありません。
凱はその後やはりストーカーも真っ青な方法で香に強引に迫りキスしようとするのですが、やはり香からまた強烈な平手打ちを食らってしまいます。
R-18ならそのまま強姦コースに突入してもおかしくないのですが、凱って本当にワイルドにすぎるというか、イケメンを免罪符にして男として最低なこと次々やってますね。
そんなこんなでまたもや人間関係がねじくれてきたジェットマンですが、その後見るに見かねた雷太やアコですらもこの面倒臭い大人の会話に入ってくるのです。


また、敵組織のバイラムの方でもわずかながら動きがで始め、マリアがピアノを綺麗に奏で始め、それに感心するグレイと静かなグレイの一方的なマリアへの関係も示されています。
これもまた終盤に向けた大きな伏線となっているのですが、久々に出撃したマリアはカメラジゲンを繰り出して、ついに香をアルバムの中に閉じ込めてしまうのです。
思えばカガミジゲンといいい、マリアはこういう搦め手や幻術の類を駆使した戦い方が多いですね…そしてアルバムの中に閉じ込められたことでヒロイン力が上がる香。
果たして、ジェットマンはこのピンチを脱して香を救出することはできるのでしょうか?


こうして見ると、「ジェットマン」って実に敗北の8割以上が味方側の仲間割れであり、特に凱はセルゲームのベジータやクリリン並の戦犯ですね。
もちろんこれで批判する人もいたでしょうけど、本作の場合は凱以外の竜と香も割と戦犯率が高いくやらかしが多いので、その分バランスは取れてます。
もっと竜がうまく対応できていれば丸く収まったはずなのですが、そこで簡単に収まらずどんどん拗れていくことによって彼らの人間性が炙り出されるのです。
評価はS(傑作)、第2クールの始まりとしてかなり良くできたエピソードになっています。


第14話「愛の必殺砲(バズーカ)」


脚本:井上敏樹/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
カメラジゲンによって香が写真の中に取り込まれてしまい、なんとか助けようとするジェットマン。マリアがカメラジゲンに人々を襲わせているところに凱が現れ「香を元に戻せ」と言う。マリアは凱を挑発して凱は土下座するのだが、それすらもマリアは嘲笑って足蹴にしてしまう。凱のピンチに現れた竜たちにマリアは香を元に戻す交換条件を差し出すのだが…。


<感想>
ああ凱、コンプレックスが本当に切ない…報われないねえ(涙)


そんな感想を持った今回の話ですが、この前後編は凱および凱ファンにとっては辛い回だったんじゃないでしょうか、一切いいとこなしだから。
土下座したのにマリアに足蹴にされていいようにあしらわれ、竜と仕方なく結託してファイヤーバズーカを開発するまでは良かったのに、最後で美味しいところを竜に持っていかれてしまいました。
挙げ句の果てに助かったメンバーたちの中で、香はそんな凱の複雑な心情すら知らずに、こんなことを口にしてしまうのです。

 


「竜、私あなたが私のことをどう思おうと……私はやっぱりあなたが好きです」


凱のハートはここで完全にブロークン、失恋なんてレベルじゃ済まない凱のかませ犬っぷりをこれでもかと強調し、プライドがズタズタに傷つけられた凱はバイクスタントで派手に転んでしまいます。
竜が現時点では5人の中で圧倒的なヒーロー性を持っているため、竜が美味しいところを持っていくのはいいのですが、そのために凱は完全に引き立て役扱いです。
あれだけ必死に頑張ったのにそれが全部空回りで終わってしまい、香を助けることすらもできず、またそれを知らない香は凱のことなど眼中になく竜にご執心となっています。
しかもこの関係性が前回と今回の話の中だけではなく、きちんと第1話から第6話の序盤の立ち上がりで竜、凱、香の関係性を用意周到に構築した上でこれですから説得力が段違いです。


まあ凱はこれから少しずつかっこいいところも見せていくのですが、その前にまずたっぷり我儘な男としてのダメっぷりをこれでもかと強調する必要があったのでしょう。
正直この展開はやり過ぎではないかとも思ったのですが、ここでいい目を見ている竜にはその分後半〜終盤にかけて返す刀によるカウンターが待ち受けているので心配なく。
それにしても香も香で神経が図太いというか空気が読めないというか、どうして愛の告白をみんながいるところでしてしまうのでしょうか?
吊り橋効果によるものだったのかもしれませんし、これまでに積み重なった気持ちが堪えきれず爆発したのかもしれませんが、もう少し凱や雷太の気持ちも察してあげてください。


まあこういうところは世間知らずのお嬢様ならではの浮世離れぶりというところでしょうが、個人的に疑問だったのは「そもそもなぜ香は竜が好きなのか?」ということなんですよね。
農家の雷太や高校生のアコは所詮香にとっては下級国民なので(ひでえ)最初から相手にならないのですが、イケメンぶりや甲斐性でいえば凱の方が女慣れはしています。
どうしても香の竜に対する気持ちはわからないのですが、ここまでの話を俯瞰して判断するとやはり「頼り甲斐」「将来性」といったところなのかなと思うのです。
この辺りはまた4クール目に入った時に語らせてもらいますが、ある程度前倒しして語りますと、香のステータスに釣り合いそうな男性って確かに竜しかないんですよね。


竜って実家が漬物屋という設定ではありますけど、言って見ればそれは個人事業主の家に生まれた坊ちゃんタイプともいえ、しかも7話で出たようにお見合い相手もなかなかいい人でした。
その上でスカイフォース入隊までは生粋のエリートコースをずっと歩んでいて、ジェットマンになる前まではリエという最高のステディがいるという完璧なエリートコースだったわけですよ。
もちろん香はまだ竜にリエという恋人がいるということまでは知らないのですが、それを差し引いて「実は怠け者」という面を知ってもなお竜が好きなのはやはり「エリートだから」に尽きます。
諍いもあったとはいえ、やはり香にとって最も頼り甲斐があって将来を共に歩める、それが単なる希望的観測ではなく経済力などの社会的ステータスを加味しての現実的なものでそう判断しているのでしょう。
だから香の「好き」とは単なる乙女の憧れだけではなく、金持ちのお嬢様として「この人となら生涯を共にできる人生のパートナーとなれる」という女性としての本能があるように感じられます。


まあその竜はまだ全然香のことに意識が向かず心はリエにあるのですが、このすれ違いがここで丸く収まるのではなく後半にかけてどんどん悪化していくのでお楽しみに。
そんなジェットマンですが、一方でマリアとグレイの関係性にも変化が出ていて、グレイはレッドホークと一騎討ちになったことでキャラ立ちし、マリアもまたホワイトとブルーが攻撃したことでキャラが立ちました。
マリアに関してはここまでドSなところだけを見せてきたのですが、グレイとの関係性の中で徐々にヒロイン力を見せて奥行きを持たせているのがいいところです。
そして両者とも油断したせいで簡単にジェットマンに劣勢を覆されてしまうという、敵も味方もバラバラな状態で戦っているのが本作の特徴というのを引き出していますね。


総合すると、ここまではとにかく竜がヒーローとして圧倒的な強さを見せ、凱がメンバーたちを引っ掻き回し、そして香は弱さを克服した結果むしろ神経が図太くなっています
ヒエラルキーとしてはまだまだ竜が圧倒的優勢なのですが、その竜が人間的な脆さをこれから露呈させていく予兆はわずかながら伏線として貼っているのです。
本作の方向性をしっかり打ち出し、今後に向けた伏線と関係性の変化を打ち出したので総合評価はS(傑作)。そう簡単に彼らは丸く収まってくれません。


第15話「高校生戦士」


脚本:渡辺麻実/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
高校生のアコはクラス対抗合唱コンクールに向け自主練習を行おうとしていた。しかしその時クロスチェンジャーが鳴って呼び出されてしまい、そのことでクラスメートに迷惑をかけてしまう。バイラムは次元獣ボイスジゲンに女性の声を吸収させ、そのエネルギーを破壊超音波に変換する作戦を実行していた。事情を話すことができないアコはキョウコに不信感を持たれてしまうが…。


<感想>
「ターボレンジャー」「ファイブマン」に参加していた渡辺麻美が初参加、アニメでいうと同年の「太陽の勇者ファイバード」や前年の「勇者エクスカイザー」にも参加しています。
内容としてはまあありがちなもので、特にここが凄いということもないのですが、改めて「高校生」というアコの設定にきちんと言及してくれたのは良かったところです。
高校生戦士であることは流石に秘密にしておかねばならない…となるのですが、この正体厳守の設定に真正面から突っ込んだのが6年後の「電磁戦隊メガレンジャー」だったのだなと。
そのための素地はここで作られていて、また合唱コンクールという設定や敵の作戦が声を吸収するというのも含めると「メガレンジャー」の文化祭回はこの回のオマージュだったことがわかります。


見所としてはそれなりにあるのですが、まず真面目な方向で語る前にネタ方面でいうとまさかの雷太女装(笑)
いやまあスーパー戦隊シリーズにおいて女装回自体は割とあるのですが、どうして本作では雷太なのか?
流石に竜にやらせるわけにはいかないし、凱もハードボイルドを崩すわけにはいかないし、と消去法で雷太ということになったのでしょうが。
ちなみに小田切長官は宝塚系統というか、いわば「女傑」なので逆に男装麗人とか凄く似合いそうだなあと思います。
ギャグ回でもいいから、男装麗人としてバッサリかっこよく活躍する男前な小田切長官もそれはそれで見てみたかったです。


それで、真面目な話をすると、何があったのかは知りませんが事情を知ったアコの親友・キョウコは最終的に声を取り戻して応援します。

 


「ジェットマンでも、アコはアコじゃない!私達は親友よ!」


凄くいいシーンではあるのですが、ここに至るまでのキョウコの心情の変化が描かれていないせいで、小田切長官が無理やり脅してキョウコに言わせてる感が強くなったのは残念。
この辺りは「メガレンジャー」もそうだったんですけど、「世間の目」と「ヒーロー」は描くのであれば初期段階からきちんとやっておかないと難しいのだなあと思ってしまいます。
特に本作は井上敏樹先生の脚本回だと基本的に仲間内だけで物語が進行することが多いので、そういう「世間の目」といった部分が感じられないという弱点がありますし。
ジェットマンがどういうヒーローであるかというのも大枠の部分で「とりあえず地球防衛のために戦ってるからヒーローだよね」という大雑把なもの以外には感じ取れません。


それからこれは疑問だったのですが、どうしてバイラムはジェットマンのメンバーの経歴を調べて、プライベートを襲おうという発想に至らないのでしょうか?
この辺り「メガレンジャー」のネジレジアはしっかりやっていたので、その辺りも含めてもっと「正体厳守」の設定に関しては詰めて考えて欲しかったところです。
まあおそらく高校側には小田切長官が手を回して「てめえら金くれてやっからジェットマンの正体を世間にバラすんじゃねえぞゴルァ!」みたいな感じで裏から手を回したのでしょうけど。
せっかくこれまであまり真正面から描かれていなかったアコの「私」の部分に突っ込んで語ったのに、今ひとつ面白みのある展開に至らなかったのは残念で、総合評価はD(凡作)です。


第16話「紙々の叛乱」


脚本:荒木憲一/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
紙に描かれた絵や写真からその被写体が消えてしまうという怪奇現象が発生していた。その被害の中には有名な画家・間吹周一郎の絵もあったらしい。しかも厄介なことに抜き取られた物や動物が人々を襲ったのだが、一連の事件はトランが中心となって人間の生活を滅ぼそうという企みだった。カミジゲンとの戦いに苦戦する竜たちだったが、少女のオカリナの音色を聴くとなぜだかカミジゲンは苦しみ始め…。


<感想>
前回に続き今回も箸休めみたいな話だったのですが、これはもしかして井上先生が手がける回以外はあまり話を難しくしないでバランスを取ろうという方針があったのでしょうか?
まあ作劇が進化した00年代以降ならともかく本作当時はまだ80年代戦隊の余波を引きずっている節もありましたから、意図的に子供向けとのバランスを取っていたということでしょうけど。
内容的には前回に続き可もなく不可もなしといったところですが、なんか井上脚本に比べて荒木脚本の竜はすごく正統派ヒーロー感が強いのですが、この耐え難い違和感を誰かどうにかしてください!(笑)


内容は少々幻想的というかメルヘンチックな感じでしたが、映像面では漫画や料理本から実物が飛び出してくるというのが面白く、当時にしてはかなりショッキングな映像をいれて楽しませています。
亡き娘のことを思う父親が最後に微笑む少女の絵を見て解決というのは下手ながらまあまあ良かったかなと思うところではありますが、でもオカリナをそのまま懐に入れるのはダメでしょう
あんまり特筆すべきこともなく、評価としてはC(佳作)という感じ。


第17話「復活の女帝」


脚本:井上敏樹/演出:坂本太郎


<あらすじ>
仲良くショッピングに出かけていたジェットマンのメンバーだったが、煮え切らない竜と香の関係に業を煮やした凱は突然香をエレベーターにナンパして口説きにかかる。心配になった雷太は遂に感情を暴露し、更に凱も凱で強引に香に迫っていた。一方、敵組織のバイラムの方には謎の隕石が飛んできて、「女帝ジューザ」と名乗る者がやってきて、不穏な空気に包まれるのだった。


<感想>
女帝ジューザ前後編、ここからジェットマンの物語は大きく動きます。大きなポイントは2つ、1つ目が凱と香の関係性の変化、そして2つ目にバイラムに突如現れた女帝ジューザ。
1つ目のポイントはこれまでのポイントからも予想できますが、2つ目に関してはやっとここで大きな動きのなかったバイラムに大きな動きが出た感じです。
ここからバイラムは後半に向けて崩壊の一途を辿ることになるのですが、最初のターニングポイントは間違いなくこの女帝ジューザにあります。


まず凱とのやり取りですが、ガチで凱と香について語る前に、思いっきりこれだけは突っ込ませて頂きたい。
そう、雷太についてです。

 


「竜なんかに僕の気持ちがわかるもんか!香さんに好かれようとは思わない。僕なんかださいし、 格好悪いし……だから決めたんだ。せめて「香さんを守ってあげよう」って」


おい雷太、お前さっちゃんを差し置いて「自分も香好きなんです」宣言は完全な浮気だろう!


ごめんなさい、ここだけつい私情に走ってしまいました。基本的に雷太のことは好きなんですけど、微妙に好きになりきれないのは香さんへの浮気心にあります。
というか、自覚してだろうから言わせてもらうけど、香みたいな上級国民があなたのような下級国民を一生恋愛や結婚の相手として見ることはないから諦めなさい。
もともと持っているものが違いすぎる…それから「香さんを守ってあげよう」も紳士なナイト気取りなんだろうけど、それはかえってありがた迷惑なのでやめましょう。
俺の友達の友達にもいたんですよね、失恋したからって「僕は〇〇さんを守るナイトで居たい」みたいな小っ恥ずかしいこと口にする人…それ失恋相手の女性に話したらめっちゃ嫌がってました。
こういうこと言う人っていい人のふりをしておきながら、結局奥底でその人のことをスパッと諦めきれないからナイトを気取ることで自己正当化したがるのがもう見え見えです。


まあそんな雷太に輪をかけて酷いのが今回の凱であり、もう男としてのはじもプライドも書き捨てて、真っ向勝負でエレベーターの中で口説きにかかります。

 


「ガキの頃ママに習わなかったか?男は狼ってな」
「好きでも嫌いでもねぇって言われるより、いっそのこと嫌われた方がすっきりするぜ!もっと嫌え!もっともっと思いっきり嫌ってくれ!」


ちょっと、笑わせないでくださいよ凱さん!いくら香に振り向いてもらいたいからって、そんなドMの性癖を自分から開きに行くことはないでしょう。
凱の必死さと台詞回しがあまりにも滑稽なので笑ってしまいましたが、真面目に話をすると、これはいわゆる「好きの反対は嫌いではなく無関心」です。
そう、香にとってあくまでも「好き」なのは竜であって、凱も雷太も所詮は下級国民、彼女にとっては将来を考える前に好き嫌いという感情すら持ちようがありません。
そしてその肝心要の竜は上級国民で雷太と凱にとっては高嶺の花である香ですら袖にしてしまえる程の美しき想い人がいるという…。


確かにこういうシーンを見てると「戦うトレンディドラマ」というのもむべなるかなという感じですが、これらはあくまでも後半に向けた崩壊の序曲でしかありません。
凱と香の気持ちの種類や矢印の向き方が全く違うので、凱は完全にストーカー…とまではいかなくとも、かなり偏執的な口説き方をしているだけなのです。
香を好きなのは間違いないんでしょうけど、それも半分以上は竜への対抗心故であって、逆にいえば竜との関係性さえ落ち着いてしまえば2人の関係性も収まります。
だから、もうこの辺りで全く気持ちが重ならない2人のすれ違いは決定的なものとなっており、決して上手くはいかないんだろうなあということが暗示されているのです。


さて、味方側がそんな泥沼になっている一方で、それまでなんだかんだ言いながら楽しくやっていたバイラムは女帝ジューザの登場によって一気にブラック企業と化します
その女帝ジューザが何者かについてですが、ラディゲたちの元上司だったものの、過去の裏次元侵略戦争で死んだと思われていたとのことです。
本当はいくつもの次元を征服した後に冬眠し、新たな力を得て復活したという石川漫画版のゲッターエンペラーのような存在でしょうか?蛹になって蝶々に進化みたいな…。
そんな女帝ジューザですが、突然復活してきた元上司に対するラディゲたちの冷たい反応を見るに相当ノルマの厳しい上司だったらしく、かなりの嫌な上司であることが伺えます。
半年近く前に加わったばかりの新人であるマリアに至っては「突然出てきて何マウント取ってんのこいつ?」って感じがモロに出ていて、リアルな反応です。


ジューザの目的は人間どもに悲鳴や絶望を味合わせること…これだけだと何だか臨獣殿や外道衆あたりと変わりませんが、真の目的は究極の魔獣・セミマルの誕生にありました。
セミマルを誕生させるには人間の苦しみや悲しみをエネルギーとして吸収する必要があり、しかも具体的に絶望させた人間を結晶体にすることで復活するのです。
このあたりのグロ表現は今じゃ無理だろうなという表現具合で、かなり迫力のあるものになっていて、大きな力には代償が必要であるというルールを敵側にも示しています。
やっていることは超展開のはずなのですが、そこに各キャラクターの反応と組織内の軋轢といった細かいドラマで肉付けしていくことでリアリティを持たせているのです。


そしてジューザは「今更てめえみたいな上司のもとで働く気なんかねえわボケ!」と言い張るラディゲを降格処分し、人間体にして記憶喪失にさせてしまうのでした。
うん、すごいね、80年代戦隊なら終盤で入れてくるであろう展開をもう中盤で入れてきますか…とにかく血路を開いてやるぜという作り手の覚悟を感じます。
それからなぜ「女帝」なんだろうと思ったのですが、おそらくこれは女性長官の小田切綾との対比として出した感じでしょうか。
小田切長官が厳しいながらも割と冷静でメンバーのゴタゴタにあまり首を突っ込まないのに対して、ジューザのやっていることは物凄い恐怖政治ですし。


包容力のある長官に対して、とにかくハードでブラック上司なジューザという対比も面白く、そしてラディゲが反抗したばかりに思わぬ流れ弾を食らって転落したのも面白い。
とにかく演出といい脚本といい、それから特撮といい、いろんなシーンに小さなアイデアが詰まっていて、「井上脚本だから」で全てを片付けたくないですが、非常に濃密な一本。
ジェットマン側だけではなくバイラム側にも動きが出てきたことで物語にも躍動感が出始めました。評価はS(傑作)


第18話「凱、死す!」


脚本:井上敏樹/演出:坂本太郎


<あらすじ>
香を庇ってた凱は体から結晶が生え苦しみ悶え、香が心配して駆けつけるも袖にする。一方ジューザへの叛逆を目論むも失敗したラディゲは記憶喪失となって少女・早紀に助けられた。ラディゲの記憶は全く戻る気配がないが、少女は不治の病を抱えつつもラディゲに尽くそうとする。凱は体を元に戻そうとジューザに挑むのだが、その間に結晶化が進み、ついに凱は結晶体にされてしまうのであった。


<感想>
さあ来ました、女帝ジューザ編の後半戦です。見所は前回に引き続き凱の生き様と女帝ジューザの滅亡、そしてラディゲの復活なのですが、流れとして非常によくできています。
複雑に入り組んだ話ですが、まず凱に関して…文字通り死んでしまいました、凱。いやまあ結晶体にされただけで蘇生はしたのですが、見所はそんな彼の生き様です。

 


「寄るな!死ぬ時は独りで死にたい」
「なにを言ってるの! 死ぬなんて……諦めちゃ駄目!」
「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」


このあたりの凱はもう既にこの段階で「死への恐れ」を経験しているわけですが、これまで個人的欲望で動いていた凱が妙に悟りきったようなことを言い出します。
もちろんこれは痩せ我慢であって、惚れた香の前で格好つけたいからなのですが、いざ死が目前に迫ると彼もまた発狂するのです。


「香、怖いんだ。本当はどうしようもなく。死にたくねぇ!死にたくねええ!!」


ついに出ました、凱の人間的な脆さが…今まで必死に香の前で見せまいとして来た一匹狼の、誇り高き男の不器用ながらもまっすぐな生き様がここに凝縮されています。
本作が歩んで来た「ヒーローの中にある人間性」がこのシーンで結実し、決して美しくはなく生々しいけどもかっこいい男の魅力が詰まっているのです。
この辺りは「ザンボット3」の人間爆弾のエピソードを思い出しますが(爆弾を植え付けられた人間が死の寸前に怖くなって発狂する描写)、そのオマージュとも取れます。
同時にこれは70・80年代ヒーローが抱えていた「死をも恐れない覚悟」へのアンチテーゼともいえ、「ヒーローだって本当は死ぬのは怖いんじゃないか?」というシーンなのです。


ヒーローの死自体は初代「ゴレンジャー」や「バトルフィーバーJ」「バイオマン」などでも描かれましたが、いずれも死を恐れずに安らかな笑顔で死んで行きました。
しかし、本作の凱は「死にたくねえ!!」となおも死の寸前に発狂することでその流れを大きく変え、同時に13話で自身も口にした「俺たちは戦士である前に人間だ!男と女だ!」をリアルに体現しているのです。
単なる男と女の好いた惚れたがテーマなのではなく、それを通した人の生き様とヒーローとの関係性をきっちり炙り出すようにして本質を描いていくのが井上脚本の真髄といえます。
同時に凱と香を通して、「生々しい男と女の生と死」を描いているのが今回の話における2人だといえるでしょう。


それとは対照的に、不気味なくらい穏やかな関係として描かれているのが記憶喪失のラディゲと不治の病の少女ですが、凱の「死にたくねえ」と対照的になっているのがラディゲの「死ぬな」です。
不治の病という設定は正直ずるいといえばずるいのですが、死という運命をジューザに決められたが凱と、死という運命から逃れられない少女が対比になっているのですよね。
凱は必死に自分のために生きようと諦めませんが、少女はもう不治の病という運命を受け入れて死のうとしている、だから幸せそうでありながらどこか儚い関係です。
ついでにいえばラディゲも悪の組織の幹部というアイデンティティーを喪失しているので、演出的にもどこか「あの世」のような雰囲気を漂わせています。
つまり現実世界で必死に生きようよする凱と香は「生=この世」の象徴であるのに対して、現世からやや離れたところで生きているラディゲと少女が「死=あの世」の象徴でしょうか。


しかし、ラディゲもまた戦いのカルマから逃れることはできず、ジューザに呼ばれるように戦場へ足を運び、レッドホークたちの姿を見てラディゲとしてのアイデンティティーを取り戻します。


「我が名はラディゲ!バイラムの幹部」


後はもう雪崩れ込むように「ジューザが憎いからぶっ倒す」という目的のために呉越同舟で共闘したジェットマンとバイラムですが、ここで大事なのは「一時的な共闘」にすぎないということです。
ジューザは双方からボッコボコにやられ、さらに結晶化も溶けて凱も復活したので、怒りで魔獣化するジューザですが、時すでに遅し。
ラディゲ以外のトラン、マリア、グレイまでが駆けつけて「みんなでGO」という超展開になっているのですが、ここまでにドラマをしっかり積み重ねているので違和感がありません。
そして、これまでほとんどいいとこ無しだった結城凱がブラックコンドルへ変身し、まさに「真打ち登場」という感じでジューザを滅多斬りにし、ファイヤーバズーカで女帝を撃退しました。
本当にどんだけやらかしが多くて戦犯率が高い凱でもこの一瞬の活躍で全てを掻っ攫ってしまえるからずるい…それが竜にない凱のいいところですね。


しかし、ここで話は大団円では終わらず、虫の息となったジューザにラディゲはトドメを刺し、セミマルの卵を持って行き、育てることにします。
この「一度転落してからの下克上」は終盤で形を変えて出てくるパターンになっており、この前後編自体が伏線になっていますので覚えておきましょう。
更にラディゲは愛し合ったはずの少女に対してこう切り捨てます。


「愛だと?!馬鹿な。このラディゲが、そんな愚劣な感情を持つと思うのか」


素晴らしい、ここに来てラディゲが単なる悪ではなく、愛をも根本から否定する悪役の鑑であることが示されます…まあ徐々にこの人も倒錯した愛に目覚めていくのですけどね。
今回は第2話からずっと足を引っ張るトラブルメーカだった凱を追い詰めるとこまで追い詰めた上で、しっかりラストに美味しい見せ場を持たせています。
ここから徐々に凱は竜や香とのすったもんだもありつつ、頼れるNo.2に成長していくのですが、そのキャラクターの原点がようやくここで固まりました。
また、ジューザを倒して終わりではなく、残されたセミマルという脅威があるために、バイラムから組織としての威厳は失われていません。
しっかり描きべきことを描き切りました、評価はもちろんS(傑作)。ここから更なる飛躍が期待されます。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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