『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)7〜12話感想まとめ

 

第7話「竜の結婚!?」

第8話「笑うダイヤ」

第9話「泥んこの恋」

第10話「カップめん」

第11話「危険な遊び」

第12話「地獄行バス」

 


第7話「竜の結婚!?」


脚本:井上敏樹/演出:坂本太郎


<あらすじ>
テニスを楽しんでいた5人の元に、竜の祖母・絹代が東北から上京してきた。その目的は竜にお見合いをさせ実家の漬物屋を継がせることにあり、竜は祖母の強硬手段に逆らうことができない。アコと香はお見合いを回避しようとし、凱は逆にお見合いを成功させて香を奪おうとする。しかし、各地で人間が鏡に吸い込まれるという奇妙な事件が発生するのだが…。


<感想>
前回までで基礎土台を構築したということでか、完全にコメディに振り切った一本。竜が田舎者であったという設定が知れ渡り、さらにモテモテだったことが知られてしまいます。
もう前回までの完璧超人を演じていた彼は何処へやら、今度は別方向から完璧超人である彼を崩しにかかるという仕掛けがなされているのです。
特に「ばばば、ばっちゃん!」からのリアクションは秀逸で、「あいつ田舎者だったのか」といった周囲の冷やかし半分のリアクションも面白い。
それにしても凱のナンパ、香の結婚、竜のお見合いとこれだけ浮ついた話が多いければ「戦うトレンディドラマ」と言われても不思議じゃありませんね。


そして竜の祖母・絹代もまたとんでもなく跳ね返りの強いおばあちゃんで、この人に限っては「認知症」とかそういう障害とは無縁そうだなあと思います。
ただ、個人的には流石に鏡で跳ね返すという大活躍まではやり過ぎだったかなと…というのも、前回の話まででジェットマンの竜以外の素人ぶりを強調していたからです。
ギャグ補正で老人が活躍するのは別に構わないのですが、こうなると本作が提示しているシリアスなドラマとの兼ね合いが難しくなってしまうのですよね。
内容としてはまあ可もなく不可もなしという感じなので、完全に役者のアドリブとドタバタ寸劇をどれだけ楽しめるかの内容になっています。


個人的に気になったのはやはりテニスであり、そういえば井上先生って「ジュウレンジャー」「アギト」「555」でも何かしらの形でテニスが出てくるなと。
まあ最近「ゼンカイジャー」でも「テニスの王子様」のパロディがあったので、あれもてっきり井上先生の回だと思ってしまったんですけどね。
総合評価はC(佳作)、そんなに詰め込んでいる話じゃないので箸休めの一本として見るのがいいでしょう。


第8話「笑うダイヤ」


脚本:荒木憲一/演出:坂本太郎


<あらすじ>
金にがめついアコは香に龍見興産社長である龍見恭太郎が主催したブラッディダイヤのお披露目会に参加できように頼み込む。しかし、そのダイヤにはバイラムが仕込んだ化け物がいて、ダイヤに魅入られた人間が次々と凶暴化してしまう。アコも当然凶暴化してしまうのだが、最終的に金の力で全てを解決してしまった鹿鳴館財閥であった。


<感想>
前回に引き続き、今回も箸休めの回となっています。戦隊シリーズ初の荒木憲一脚本ですが、内容自体は前回同様に可もなく不可もなしといったありがちな内容。
ただし、見所は2つあって、まず1つが第2話で出されていた「金にがめついアコ」「実家が財閥の鹿鳴館香」という設定をきちんと拾ってくれていることにあります。
そしてもう1つが今まで絡みがやや不足していたアコと香の関係性を描いたことであり、両者の力学関係が「香>アコ」であることがきちんと描かれました。
パイロットとしての技量や身体能力などはどっちかといえばそつなく器用にこなしていたツッコミ役のアコの方が上でしたが、人間的には逆だったのです。
中でも次のセリフは香の本性がよく表れています。

 


「東京中のダイヤを全部買い占めさせたのよ。さあ、みんなてめえにくれてやっから、とっとと目を覚ましやがれ!」


出ました、第4話以来久々に飛び出す香のべらんめえ口調…そうだ、世の中所詮金が全てだ!!


まあ念のためフォローを入れておきますと、小さい頃からフランス料理やらが当たり前の世界で過ごしてきたお金持ちの彼女にとってはダイヤもお金も大した意味はありません
お金はあくまでも天下の回りもの、だからお金が欲しいと思って執着しているうちは手に入らず、逆に遠のいていってしまうものなのです。
香が他のメンバーに優っているものがあるとしたら「財力:SS」であり、これは他の誰も勝てないものではないでしょうか。
歴代戦隊で財力が裕福な家系は桂木ひかる、浅見竜也、三条幸人、須塔兄妹、結月アミィ辺りが挙げられますが、香はその中でもダントツの裕福ぶりだと思われます。


そんな香を見てあまりの格の違いにアコは正気に戻って可愛いチワワになってしまい、これ以降彼女は金にがめつくなくなるのですが、間違いなくこの回の影響でしょうね。
評価はB(良作)、お話としても演出的にもく普通ですが、それを役者の演技力と設定の膨らましによって想像以上に面白く見せています。


第9話「泥んこの恋」


脚本:川崎ヒロユキ/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
トランはファッションジゲンを生み出し、ファッションを利用して人々を操ろうと企んでいた。その頃、雷太は田舎から上京してきたという幼馴染のサツキと久々に再会しデートすることとなった。しかし、再会した彼女は純朴な女性ではなく都会慣れしたレディとなっておろ雷太は驚いた。竜たちはバイラム出現を聞いて飛び出していくのだが…。


<感想>
今回の話は…スーパー戦隊シリーズで唯一の川崎ヒロユキ回なのですが…うーん、次回の荒川脚本共々思うことは「どうして男ってこうも女に幻想を抱きがちなんだろう?」ということです。
もうすっかり年齢と共に私も女性に対する見方やジェンダー論みたいなのが変化したこともありますが、今これを笑って楽しめるような年齢ではなくなってしまいました。
川崎ヒロユキが描く恋愛って「マイトガイン」しかり「ゴルドラン」しかり「ガンダムX」しかり、どれもこれもステロタイプ過ぎる童貞の妄想みたいな恋愛で幼稚すぎます。
まあ凱の「雷太を呼ぼうってんならやめとけ!あいつの場合、デートなんて一生に3回ぐらいしか無さそうだしな!」はこれまでの凱のキャラも含めて「そうだな」と納得ですが。


何が嫌ってせっかく雷太に振り向いてもらいたいと健気に努力する女の子を「今のお前は僕の好みじゃない!」と言って、自分の幻想を押し付ける雷太にイラっとしました。
正直女性を都合のいい偶像か何かとしか思っておらず、いってみればひたすら推しに課金しまくって「キャー!」とか叫んでいるアイドルヲタと余計に変わりません。
ましてや雷太は初登場の頃から非モテの童貞みたいな雰囲気が漂っていたこともあって(これは竜や凱との差別化もあると思う)、それで雷太をいまいち好きになれないのです。
しかも、せっかく雷太にはこんなにいいステディがいるのに、この後の回で香に憧れを持つあまりに香に浮気しようとしますからね…凱よりもよっぽど女好きじゃないですか?


いやまあ別にこれがアニメの世界観だったらいいんですけど、実写特撮で、ましてや大人の恋愛を井上先生がぶち上げている本作でこれは微妙です。
確かにさっちゃんも無理して背伸びしている部分はあるかもしれませんが、そんな彼女が大人になろうと必死になって頑張った努力そのものまで否定するのは違うと思います。
まあ川崎氏が描く恋愛はまださっぱりしていてわかりやすい方ではあり、次回の荒川氏が描くどぎついヲタク臭みたいなのがないだけまだマシなんですけどね。
評価としては内容そのものはオーソドックスだと思うので好みは入りますがE(不作)、この古臭い女性観はもう流石に通用しません。


第10話「カップめん」


脚本:荒川稔久/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
アコの中学時代の先輩である龍田は彼女の気を引こうとアプローチを試みていたが、当の本人からは完全に無視されていた。彼が部屋で落ち込んでいる中、カップ麺の神様であるゴッドラーメンが現れ、一緒に究極のラーメンを作ることになる。そしてデザインなどを研究した彼は「陽気なアコちゃん」というラーメンを発売しようとするのだが…。


<感想>
スーパー戦隊シリーズ初の荒川脚本回ですが…うええ、流石にこれは今見ると相当にきついなと。あまりにも露骨な童貞ヲタク臭丸出しの脚本と演出が肌に合いません
そもそも「陽気なアコちゃん」というネーミングセンス自体がどうかと思いますが、同時にこういう安易なことでも簡単にバズってしまえるのが今の世の中なんですよね。
前回に比べれば一応普遍性というか時代が追いついたところがあって、こういうヲタクのマニアさを発信して、それがヒットになってしまえるのが今のネット社会です。
要するにこの龍太はいうなれば典型的な陰キャのYouTuberみたいなものであり、世が世なら間違いなくヒカキンやはじめしゃちょーレベルの国民的インフルエンサーになっていたのでしょう。


まあそれはいいのですけど、前回も述べましたが、こういうストーカーじみたヲタクの存在を物語があまりにも肯定的に描きすぎてしまうといのはどうなんでしょうか?
アコの自尊心やプライバシーを思いっきり傷つけるようなことをしているわけで、アコが香の財力を経由して弁護士を雇って訴えられたら社会的に抹殺されるのは龍田の方ですし。
社会風刺の側面もありますが、それでもこのヲタクが最後にしたことをアコが認めてしまう展開というのは「ヲタクでも必死に応援すればアイドルが振り向いてくれる」みたいな幻想があって気持ち悪いです。
いやいや、アイドルや役者がファンに向けているのなんて全部作り上げられたビジネススマイルであって、心の中は凄く冷静ですよ彼らなんて。


それこそ今年でいえば、嵐の櫻井翔氏と相葉雅紀氏が同時に結婚発表したことで嘆き悲しむファンも多かったそうですが、あくまで彼らも人間ですからねえ。
「アイドルは結婚してはならない」なんて昭和時代だったらそうなのかもしれませんが、芸能人の幻想性なんてない今のネット社会でそんな常識はもう通用しません。
別にそのアイドルや俳優・女優がファンの人たちの人生に直接的な恩恵や利益をもたらしてくれるわけではないのですから、それこそ単なる偶像崇拝でしかないわけです。
荒川氏が手がける戦隊のアイドル回ってどれも「劇中で戦隊ヒロインをアイドルにしてみせる俺すげえだろ?」という童貞ヲタクの妄想丸出しで、とても見るに耐えません。


まあ「ダイレンジャー」のリンのアイドル回は例外的に面白かった一作ですけど、やっぱり荒川氏が提唱するラブコメや恋愛論そのものは無理です。
前回の川崎脚本といい、どうして男が描くラブコメっていかにも童貞の中学生が書いたようなのが多いんでしょうか?
もはや内容云々を論じる以前に、もう作り手の倫理観やジェンダー論がどうしても肌に合わず、本当に勘弁して欲しいです。
評価はもちろんF(駄作)以外にありません。


第11話「危険な遊び」


脚本:藤井邦夫/演出:東條昭平


<あらすじ>
グレイはトランに「遊びも必要」というアドバイスを受け、自動販売機からジハンキジゲンを誕生させる。竜達のトレーニングルームに潜入したジハンキジゲンの仕掛けた罠、それは缶ジュースを飲んだ人間の性格を通常の正反対にするというものだった。突然表見した5人に小田切長官も困惑するが、5人は通常と正反対の性格になってしまったことで連携が取れなくなる。


<感想>
さて来ました、80年代戦隊シリーズのサブライターとして中堅どころを担っていた藤井脚本回です。
個人的には藤井脚本というと「チェンジマン」で凄くいいサポートをしたこと、また「ダイレンジャー」の大五と孔雀のロマンスがすごく印象的だった思い出があります。
そんな今回の内容はジェットマン5人が通常とは正反対の性格…すなわち「潜在意識」が表に出てしまうというものでした。
はっきりいって話そのものはそんなにひねりがあるわけではないのですが、ジェットマン5人の「横」の関係性について補強してくれたのはいいところです。


今回表現されていた5人の裏の性格はこのような感じでした。

 


うん、とても納得な性格で、まずアコと香ら女性陣に関してはアコの方が器用ではあるけど内面は繊細ですし、逆に繊細そうな香の方が意外に神経が図太いんですよね。
そして男性陣が竜が雷太の、凱が竜の、そして雷太が凱の性格になってしまうという配置転換が良かったところで、特に雷太のチンピラ演技は見ものです。
今までもそうだったんですけど、意外と雷太って温和そうに見えて本気のスイッチが入ると凱っぽくなりますし、3枚目気質だけど意外と奥底は中二病ですよね。
竜と凱に関しても、竜は元々第1話の冒頭シーンで公私混同してリエといちゃついてましたから、むしろ今の完璧超人っぽく振る舞っている方が違和感があります。
また、凱もかなりワルではあるんですけど、ワルなりにきちんと筋を通していて最後はきちんと決めてくれますから、これも真面目な性格の表れでしょう。


そんな今回の見所は何と言っても「てめえ四の五の言わずに元に戻れや!」とヘリコプターの上から命綱なしで竜を落とす小田切長官です。
本作においてマリア以上の女傑として描かれている長官ですが、多分この人の正反対の性格はこの「容赦ないドS」にあるのだろうなと。
「本当の私は怖いのよ〜」なんて言ってますが、いやもう全然隠れきっていないので、寧ろ「うんまあそうだろうな」って思いましたよ。
こんなに仲良くトレーニングしてるジェットマンというのもちょっと早い気はしますが、戦いがなかったら意外とメンバーの関係性はさっぱりしているのかもしれません。


総合評価はB(良作)、内容自体は可もなく不可もなしといったところですが、サブライターだからこそできる横の関係性と正反対の性格を描いたのは良かったです。
これによってメンバーの関係性やキャラクター描写に幅が出て、単なる井上脚本の力だけで持っているわけではないところが本作がいい作品である所以だなと。


第12話「地獄行バス」


脚本:井上敏樹/演出:東條昭平


<あらすじ>
ある休日のこと、雷太と香は実家にバスで向かっていた。バスがトンネルに入った次の瞬間、バスの乗客のうち1人が悲鳴とともに消えてしまった。突然起きた失踪事件にパニックとなるバス内、すると1人が突然刑事を名乗ってバスを警察署まで走らせる。しかし、再び次のトンネルに入ると新たな犠牲者が出てしまい、車内は更なるこんなに包まれるのであった…。


<感想>
雷太と香が実家にバスで向かう途中に遭遇した事件、というサスペンス風の話が今回の内容ですが、今気づくとこれは「仮面ライダー」の2号編のピラザウルスで描かれたバステロのオマージュだと思いました。
あれをさらにサスペンスドラマ風にひねり、どんどん疑心暗鬼を生じるような流れにしていったところで、オチとしてバスそのものが犯人だったという、ぶっちゃけ内容自体は予想範囲内です。
しかし、こうしたサスペンスものを最後にきっちりと「戦隊ヒーロー」として繋げる作風、そして「誰が真犯人か?」とどんどん雲行きが怪しくなっていく過程がよくできています。
狭い密室の中のやり取りから生じるところのカメラワークが絶妙で、東條監督の手腕がしっかりと光っており、最後まで飽きずに見られるのがいいところです。


また、犯人がバスジゲンだとわかってからのホワイトとイエローの戦闘シーンがしっかり長めに描かれているのも、この回の良いところでしょう。
内容的には箸休めの回ではあるのですが、雷太と香という、実質第一話以来ほとんど絡むことがなかったほのぼのコンビの活躍という点でもよくできていました。
なんというか、この回で改めて気づいたのですが、香っていい意味で誰とでもフラットに接することができるパイプ役みたいなのがとても良いところですよね。
やや天然でお嬢様な部分はありますけど、竜や凱のような年上相手でも話せますし、年下のアコともお姉さんのような立場で接することができます。


また、雷太との関係性も悪いものではなく、まあ後の回でさっちゃんいるくせに浮気しようとするのですが、変に下心がない同級生のような絡みが面白いです。
雷太って凱みたいな潜在意識の部分を出しすぎなければ普通に良いムードメーカーではあり、アコがややこまっしゃくれた性格なので素朴な「良い人」なのが良いなと。
だから香にとって自然体でフラットに接することができる雷太の存在は香にとっては栄養源となっている部分があるんじゃないかと…もちろん「憧れの人」は別です。
密室に閉じ込められて2人きりになったところで、凱と違って全く危険性がないのはこのコンビが相乗効果で出しているマイナスイオンオーラにありますね。


ちなみに今回路頭に迷っていた女性を演じていたのは「フラッシュマン」のピンクフラッシュ・ルーを演じていた方であり、存在感が妙にありました。
内容的には本当に取り立てでどうということはないのですけど、テクニカルなサスペンスの脚本と戦隊ヒーローもののフォーマットの掛け合わせが見事です。
評価はA(名作)、1クール目はこれで終わりとなりますが、7話以降箸休めの回が続いたところで11話と12話がしっかり締めてくれています。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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