『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)1〜6話感想まとめ

 

第1話「戦士を探せ」

第2話「第三の戦士」

第3話「五つの力!」

第4話「戦う花嫁」

第5話「俺に惚れろ」

第6話「怒れロボ!」

 


第1話「戦士を探せ」


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
宇宙の衛星にある地球防衛軍スカイフォースのアースシップ、そこには天堂竜と葵リエという2名の若者が活動しており、2人は恋人同士だった。その優秀な戦績を見込まれ、女性長官の小田切綾の推薦で「Jプロジェクト」なる、地球を守るための特殊部隊となるはずだった。しかし、そのJプロジェクトに際し、次元船団バイラムという裏次元からの悪の組織が突然現れスカイフォースは基地ごと壊滅、唯一バードニックウェーブを浴びた竜は恋人との別れに悲しむ暇もなく、偶然バードニックウェーブを浴びた4人の若者を探しに出かけるが…。


<感想>
スーパー戦隊シリーズの転換点となった革命作だけあって、今見直してもかなり変則的なスタートとなっています。
地球防衛軍スカイフォースは「チェンジマン」まで使われていた軍人戦隊の系譜であり、基地が壊滅状態に陥るのも原点となる「ゴレンジャー」第一話のオマージュです。
そうした70・80年代戦隊シリーズのフォーマットを踏まえつつ、まずこの第一話の段階でいくつかの定石を外しています。
具体的に列挙すると以下の通りです。

 


当時としてはかなり大胆なアプローチで崩しており、特に香の「浮世離れしているが故に地球の危機にピンときていない」リアクションは秀逸です。
普通は「戦士になれ」と言われれば多少ためらいがあったとしても事態の深刻さを察知しますが、香は全く危機感がありません。
同じことは雷太にもいえて、農業の方が大事というのはかなり大きいでしょう…そして戦いでは2人とも役立たず。
これは80年代の曽田戦隊に見受けられた「素人がいきなり宿命を告げられて、あっさり覚悟を完了して戦う」というお約束を崩したものになっています。
もちろん「宿命を拒否する戦士」も「第一話でうまく戦えない戦士」もそれぞれやっているのですが、本作はそこにうまく登場人物の背景設定や心情とリンクさせているのです。
また、そのことで視聴者がストレスを感じないように、唯一の正規戦士であるレッドホーク・天堂竜だけがまともに戦えることでバランスを取っています。


そしてその天堂竜がこれまたユニークなキャラ付けになっていて、完璧超人かと思いきや恋人と思いっきりいちゃつく等身大の青年です。
だからこそ、恋人の葵リエと別れることになった瞬間露呈する私情を押さえ込めず、次の一言を口にしてしまいます。

 


「リエ……リエを、リエを探しにいかなければ!行かせて下さい、リエを探しに行かせてください!」


スーパー戦隊史上、第1話でこんなに感情を露呈させたレッドが未だ嘗ていたでしょうか?(いやいない)
本作以前も以後も、ここまで恋人の喪失を引きずって情けなく泣きわめいた人は未だ嘗ていませんでしたよ。
そしてここで竜は恋人を失ってしまったことから精神に異常を来たし、己に厳しく振る舞うようになるのです。
地球の危機ということにいまいちピンと来ていない2人に思わずきつく当たるところからもそれが感じ取れます。
しかし、これでもまだ序の口であり、次のお話では戦隊史上に残るあの男との対峙が待っているのです。
評価はもちろんS(傑作)、当時の短い尺の中にもゆったりと余裕をもって物語を展開しており、よく練られています。


第2話「第三の戦士」


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
なんとか次元船団バイラムの猛攻をしのいだ竜、雷太、香だったが、状況が圧倒的不利であることに変わりはなく、残り2人の戦士を探すことが急務であった。1人は明るく可愛らしいがどこかこまっしゃくれた所のある早坂アコ、そしてもう1人がバーでサックスを演奏していた一匹狼の結城凱である。雷太と香はアコをジェットマンに勧誘するが時給をねだられ、更に竜は戦士の宿命を拒否する凱とすったもんだの殴り合いに発展する。アコは小田切長官から時給の切手をもらい、竜は凱を殴り飛ばしバイラムとの戦いへ…なんとか5人揃ったが相変わらずチームワークはバラバラで、戦いを終えた後凱はブレスを捨ててバイクで走り去った…。


<感想>
ようやくジェットマン5人が勢揃いとなって戦いますが、全くチームとしての足並みが揃うことなく、撃退はできたもののほとんどが正規戦士である竜のお陰です。
サブタイトルの「第三の戦士」とはいうまでもなくブラックコンドル・結城凱のことですが、もうこの男がとにかく戦隊史上のくくりで見ても癖が強い男として描かれています。
総合評価でも書きましたが、初登場がいきなり酒と女に囲まれ、バーでサックスを演奏しているなんて今では絶対こんな設定の戦士は通らないでしょうね(笑)
まさに井上敏樹先生じゃないと書けないキャラであり、いわゆるアオレンジャーポジションのキャラなのですが、単なる「かっこいい男」ではありません。


今回のハイライトはその凱と竜の衝突のシーンなのですが、ここでの2人のやり取りを抜粋してみましょう。

 

 

「しかしよぉ、いっそのこと人間なんざ滅んだ方がいいんじゃねえのか。公害問題に人種差別、確かに人類って愚かなもんだ」
「お前本気で言ってるのか?!命の尊さをなんだと思ってるんだ!?」

 


ここからすったもんだの殴り合いに発展するのですが、まず凱が口にする「人間なんざ滅んだ方がいい」というセリフは本気でそう思ったわけではありません。
しかし、こんなふざけたことを言うアウトローみたいな男がよりにもよってジェットマンのNo.2に来たというのがややこしいのです。
そして竜はそれに対して「命の尊さ」を説き、さらには「個人的感情なんて問題じゃないだろ!」と追い詰めますが、この1シーンは様々な屈折があります。
まず「竜=プロフェッショナル」「凱(とその他)=アマチュア」という配置にしていますが、これは同時に「外的(=公的)動機」と「内的(=私的)動機」の違いでもあります。
竜は「地球の平和を守る」という「外的(=公的)動機」、凱は「一人で自由に生きる」という「内的(=私的)動機」のために動いています。


その上で更にややこしいのは実はその竜こそが1話の段階でもう1つあった「内的(=私的)動機」である「恋人・葵リエのため」を喪失していることです。
第一話の「リエ……リエを、リエを探しにいかなければ!行かせて下さい、リエを探しに行かせてください!」は単なる心の叫びで終わりません。
そう、実はリエを失った悲しみから竜の中には「バイラムへの復讐」が生じており、それを無理矢理「地球の平和を守る」という大義にすり替えているのです。
だから一見まともなことを言っているようでいて、実は竜の方が遥かに人間としておかしいということになっていて、この歪みが竜を1年間苦しめることになります。


そして、ジェットマン5人が揃うタイミングもバラバラであり、戦場に来ても各々がまるで違う戦い方をしているので、全然チームワークができていないのです。
弱小のホワイトとイエローが2人がかりで倒し、ブルーは器用に敵を撹乱、そして実力が強いレッドとブラックもまた訓練されたプロのレッドとチンピラじみたアマチュアのブラックという風になっています。
特にブラックが金的を倒した後「どんなもんだい!」と自信をかました後にすぐ油断してやられるリアクションは見どころであり、戦闘において隙がないレッドホークとの違いなのです。
しかもここでブラックがレッドの戦闘技術を見て「やるじゃねえか」と認めているところもポイントで、実はこの時点で凱は竜の戦士としての腕前を認めています。
でもだからといってジェットマンになることを了承したわけではなく、使命を拒否して逃げるあたりは「バイオマン」第1話ラストの小泉ミカのオマージュでしょう。


他にも細かいポイントはありますが、本作が面白いのはレッド=プロフェッショナル他の4人=アマチュアという色分けがなされているところです。
その上で、使命感や戦士としての力量、判断力といった細かい書き分けが変身前と変身後の双方で徹底されているのもよくできています。
まさに戦隊史上最大のエポックといえる始まりであり、「地球の平和を守る」という大義名分がありながら、その実誰も覚悟ができないまま目の前の敵を撃退するのに精一杯なのです。
総合評価はS(傑作)、80年代戦隊シリーズのサブライターを長く続けて来た井上敏樹先生と本作初のパイロット監督に就任した雨宮監督の手腕が冴え渡るパイロットでしょう。


第3話「五つの力!」


脚本:井上敏樹/演出:新井清


<あらすじ>
5人揃ったジェットマンだが、肝心の凱が戻ってこない。小田切長官は雷太、アコ、香の3人と訓練を開始し、竜は婦警を口説きにかかっている竜を説得しにかかる。長官にしごかれている3人はタイヤを引っ張る訓練を開始するも途中で雷太1人に押し付けて逃げようとし、凱も凱でとにかく竜に追いかけられるのが気に食わず、説得を拒絶するなど前途多難。凱の行きつけのバーにまで駆けつけて必死に説得するもすげなくされる竜だったが、バイラムの次元獣ジャグチジゲンが残された3人を襲う。竜は凱を残して戦いに駆けつけるのだが…。


<感想>
メンバー自体は全員揃ったものの、足並みが全く揃わない第3話。構成としては竜&凱、そして残りの3人と小田切長官なのですが、何がすごいって凱のかっ飛ばし具合(笑)
婦警をデートに誘い、断られたら構ってもらいたいからとわざと信号無視し、追いかけて来た竜の説得すらも跳ね除けて一匹狼として生き続けようとしています。
初登場から危険な匂いはプンプンしてましたが、蓋を開けてみれば危険なんてレベルじゃない犯罪者予備軍であり、それを必死に説得しようとする竜もまた凄いです。
前作「ファイブマン」までだったらここまでくどく描かないところをしつこく描いていくことによって、5人がヒーローになるまでの過程を見えやすくしています。


そんな凱が改めてジェットマンとして戦うようになるまでを描いているのですが、ここでのポイントは凱が何か特別な理由や事情があってジェットマンとしての戦いを拒否しているわけじゃないこと。
凱はただ竜が嫌いかつ性格的に一匹狼だから戦うのが嫌なのであって、ここが「デンジマン」の桃井あきらや「バイオマン」の小泉ミカとは大きく異なっているところなのです。
桃井あきらは死んだテニスコーチのことが忘れられないという辛い過去があり、小泉ミカは写真撮影が好きだったからというきちんと打ち込むものがあって断ってますし、しかも世間一般に迷惑をかけていません。
しかし、凱ときたら単にめんどくさいから自由になりたくて逃げてるだけであり、しかも自分の快楽のために交通違反までわざとやって女の子の注意を自分に仕向けさせようするのです。
この「好きになってもらうためにわざと振り向かせようとする」のはその後とんでもない形のトラブルに発展する伏線になっているのですが、ここがその最初の伏線となっています。


そして、ジェットマンとして戦う決意をして戻ってくる理由もまた直接的に表現しないところがにくい演出であり、単なるライバル意識かプライドからか、視聴者にはどうとも取れるようにしているのです。
このことによって「正義感に目覚めたから戻った」という安易な流れにしておらず、「とりあえず協力はしてやるけど、まだ完全に信頼したわけじゃない」という距離感の置き方になっています。
まあそれも当然の反応で、いきなり「お前今日からジェットマンになって戦え!」なんて命懸けの戦いを強要されたら、ましてや竜のようなタイプからいわれたら嫌がるでしょうね。
今回初めて5人揃っての名乗りとなるわけですが、それはあくまで「ジェットマンとして戦うことを仕方なく了承した」のであって「ジェットマンとしての正義感に目覚めた」わけではありません。


また、凱だけが問題なのでしゃなく、小田切長官に訓練でしごかれる素人の雷太たちも注目すべきところであり、仮に凱が来て5人揃ったところで竜以外が実戦で通用しないレベルなのは変わらないのです。
強いていえばブラックコンドル・凱だけは竜に次ぐ実力者ではありますが、本物のプロフェッショナルではなく戦士としての使命感や意識が低いため、組織としてかなり危ういところに立たされています。
本当に竜と小田切長官がいなかったら、ジェットマンなんてあっという間に崩壊してしまうことが示されており、そのことによって竜の行動が単なる復讐だけではないところのバランスも絶妙です。
だからこそ戦いが終わった後、凱は竜を無視してアコと香に挨拶するわけであり、これは凱なりの社交辞令であると同時に、竜に対するライバル意識の現れでもあります。


一方のバイラムもまた「おめでとう諸君。我らバイラム4幹部、心よりお祝い申し上げる」と物凄く慇懃無礼な挨拶をしながら、まだその組織としての全貌が明かされないのです。
このバイラム独特の不気味さは歴代で見てもかなりのものであり、いわゆる前作「ファイブマン」の銀帝軍ゾーンまでとは違い、「得体の知れない怖さ」もまた驚きの対象となります。
総合評価はA(名作)、前回までと比べると「ここ!」というハイライトはないものの、凱と3人がジェットマンの仲間入りをするプロセスを丁寧に描いた名編です。


第4話「戦う花嫁」


脚本:井上敏樹/演出:新井清


<あらすじ>
5人揃ったジェットマンは改めてジェットマシンの飛行訓練を行っていたが、たった1人香だけが上手く乗りこなすことができず、小田切長官に失格を言い渡された。戦士としての力量もパイロットの操縦技術もない香は凹んでいたが、そこで竜は甘ったれるなと一喝する。頭に来てしまった香は一時的な感情からジェットマンを抜けて実家に戻ると、婚約者の北大路総一郎と再会しプロポーズされた。結婚すべきか、それともジェットマンとして戦うべきか、香は人生の岐路に立たされるが…。


<感想>
凱に続き今度は香まで…たかがジェットマンとして一緒に戦うだけでこんなに揉め事が起こるのかと驚きますが、ここで大事なのは「入隊したから一足飛びにヒーローになるわけではない」ということです。
他の戦隊だったら「スーツ性能のおかげで訓練しなくても大丈夫」「ひとまず揃ったから今日からみんなでGO」となりがちですが、そうはならないのがジェットマンの甘くないところ。
たとえバードニックウェーブを浴びて身体能力が強化され、ジェットマンに変身出来るようになったところで実戦経験も訓練もない者たちがプロ級に戦えるわけがありません。
普通の企業だったら「適性なし」と見なされて本採用にならずにおしまいで万々歳でしょうが、バードニックウェーブを浴びた資格者が他にいない上、スカイフォースは全滅状態です。
しかも「地球の平和を守る」という物凄く重たい使命を抱えている以上、泣き言は言っていられないのです…偶然だろうがなんだろうが、一度選ばれたからには退路はありません


その上でもう1つの細かいポイントは「結婚」という選択肢…これが伏線であるのはもちろんのこと、女の幸せに簡単に逃げたがる香の意識の甘さも描いています。
個人の自由が認められていて結婚に大した価値がない今の時代ならともかく、バブル崩壊直後の1991年はまだ「結婚」が男にとっても女にとっても1つのステータスでした。
だから、戦いが嫌になったら結婚に逃げればいい…香はお嬢様ですから心のどこかでそう思っていたのかもしれず、そこに婚約者がやって来たという最悪のタイミングです。
更に婚約者は「僕たちは選ばれた人間」などという差別意識丸出しの発言までしてしまうため、この結婚が正しいことのようには描かれていません。


見所は香がブチ切れた挙句に婚約者との関係性を一瞬で損切りしてしまう次のセリフです。

 


「じゃかあしい!きったねえ手でさわるんじゃねえよこのスカタン!てめえは自分のことしか考えてねえんじゃねえかよ!でも竜たちは違う!みんな自分を捨て、戦士として戦ってるんだ!そして私も戦士なんだ!」


言葉遣いこそ汚いものの、改めて香がジェットマンの一員であることを自覚し、仲間入りするまでを描いています…もちろん問題はこれで片付いたわけではないのですが。
確かに香の精神的未熟さはここで一旦克服されたのかもしれませんが、それでもパイロットとしての技量その他で竜たちに後れを取っていることには変わりません。
そのあと5人揃って戦ってもなお香のパイロットとしての技量不足は克服されておらず、最終的には撃墜されて気絶してしまうというカットで締めくくられているのです。
まさに「一難去ってまた一難、ぶっちゃけありえない」のですが、ここで面白いのは香が実は最も早い段階で「心の成長」という壁とぶつかっていること。


この段階だと竜が完璧超人でその次に凱、そして雷太、アコと続いているように見えますが、実は人間性という面では竜が最も成長していません。
それは彼が完成された人間だからではなく「完璧超人である自分を演じている」に過ぎず、しかもそうさせている動機がたった1人の恋人との喪失です。
本人も無自覚でそこをやってしまっているがために、単純な成長物語の構造にはなっておらず、何重にもひねくれた構造となっています。
ここまでややこしい人間関係や屈折がある作品となると、それこそ「シンケンジャー」くらいなのですが、あれとはまたちょっと違うのですよね。


そんな香のキャラを掘り下げつつ、じわじわと竜が自分の精神を病んでいくプロセスが描かれており、しかしそれは大人だけが見えるところに隠されています。
この「一見ストレートに表現しているようでいて、実は本音の部分は間接的に表現している」のが「ジェットマン」の面倒くさくも面白いところです。
総合評価はS(傑作)、ジェットマンが徐々にチームとしての基本ができていると思わせつつ、まだクリアすべき壁は多いことが示されています。
果たして彼らはどのようなチームとなっていくのでしょうか?


第5話「俺に惚れろ」


脚本:井上敏樹/演出:東條昭平


<あらすじ>
撃墜されてしまった香は精神的ショックから脚がすくんで動けなくなってしまい、車椅子を余儀なくされる。竜に飛行訓練を行うように頼むも体はうまく動かず、無理を押しての訓練は失敗した。そんな香を竜はさらに追い詰め、凱が寄り添いついでに口説くことに。一方でバイラムもまた「ジェットマンが倒した者がトップに立てる」というゲームの覇権争いを繰り広げるようになる。


<感想>
5話目にして追い込むねえ、井上先生も東條監督も…もうこの一言に尽きる、お嬢様だからって決して甘やかさないこのシビアさよ。
前回に続き香の未熟さをメインテーマに描いているわけですが、今回のポイントは香に対する竜と凱の対応の違いであり、なるほどこの辺りからジェットマンは「恋愛関係の修羅場」と思われがちなのかなと。
竜はもう最初にリエを喪失していこう自分の精神を保つために必死に完璧超人を演じているので、香に寄り添いたいのを堪えつつ「お前が戦士な立てるはずだ!」と段々教祖じみたことを言い出します。
しかし、そんな竜を一蹴し香に寄り添うのですが、ここでのポイントは凱が単なる「いい男」で終わるのではなく、ここぞとばかりに香を口説きにかかるところにあるのです。

 


「あんた、まさか竜の奴を?惚れるんなら俺に惚れろ!お似合いだぜ、俺たちなら」


はい、歴代戦隊でこんなに下手くそな女の口説き方をしている男は未だかつて見たことがありません。サブタイトルを回収しているわけですが、ここで3話でも見せた「女を振り向かせるための拗らせ」を発動します。
さらにここで厄介なのは「奴のいいこぶりっこが気に食わねえ」という言葉であり、凱が香を口説きにかかるのは単なる吊り橋効果による気の迷いではなく、「竜へのライバル意識」がありました。
まあそんなちっぽけな個人的事情に振り回される香が不憫すぎますが、単なるありがちな三角関係ではなく竜は凱も香も単なる「戦闘要員」としか見ておらず、本命は別にいるのです。
しかも凱だって本気で香に惚れてるんじゃなく、単なる女好きの性格と竜へのライバル意識ががっちゃんこした結果なのですが、まあムードもへったくれもないので香からはビンタを食らいます。


そんなすったもんだを乗り越えていくわけですが、この地べたに這いつくばりながらも頑張る香は本当にすごくて、それこそ長浜ロマンではないですが音を上げる寸前まで追い詰めるのです。
ここは脚本の力というよりも演出の力なのですが、やはり「帰ってきたウルトラマン」から物凄く迫力のある画をたくさん撮ってきた東條監督のドSぶりが遺憾無く発揮されています。
で、凱も凱で一生懸命香に尽くしたにも関わらず香の意識は全く凱に向けられておらず、なぜだか竜の方に惹かれてしまっているという切ないものでした。
まあそれでもきちんとハンカチを綺麗にして返すだけマシではあるんですが、とにかく結城凱は割とマジで男として最低スレスレのところを低空飛行しています。


そして、もう1つの見所はその凱と香が強烈に意識している天堂竜であり、このまま何もなしかと思えば遂にマリアと至近距離で対峙することになりました。
そう、視聴者からも天堂竜が完璧超人に見え始めたところで、容赦なく横から流れ弾が飛んできて吹っ飛ばされてしまうという、とんでもなくねじくれた展開。
このシーンはわずかしか描かれていないのですが、4人には見えないところで竜の個人的感情が思わず露呈してしまうところが描かれています。
先の展開まで全部知った上で見るとこれも伏線となっているのですが、とにかく竜のキャラクター像を崩していくための仕掛けを用意周到に行っているのです。


そのマリアが所属する敵組織のバイラムも遂に目的が判明し、その目的とは「ジェットマンを倒した者がトップに立てる」というゲームでした。
これまで全貌が露わになっていなかったバイラムですが、実は本作ではいわゆる「首領」がいないので実質のアナーキズムという組織になっています。
ジェットマンがバラバラの混成チームなら、敵側のバイラムもまた団結力や協調性が皆無な無法者であり、この辺りからすでに崩壊の兆しは見えているのです。
これでバイラムの団結力が完璧だったらジェットマンは第一話の時点で詰んでいるでしょうね…それくらい歴代でも凶悪な集団(というか野党)として描かれています。


前回、そして今回と「香の弱さ」に言及するエピソードだったわけですが、大元を辿るとこれは原点の「ゴレンジャー」40話の本作風のリブートではないでしょうか。
「ゴレンジャー」40話ではチームの攻撃の要にして最大の急所でもあるモモレンジャー・ペギー松山が変身不能に陥ってチームが危機に陥る話がありました。
似たような話は「ゴーグルファイブ」の序盤でも描かれているのですが、本作の鹿鳴館香はそのような「弱い戦隊ヒロイン」の系譜を受け継いでいるといえます。
体も華奢で腕もか細く、精神面も肉体面も男性陣はおろか高校生のアコにすらも劣ってしまうという…正直やりすぎだとは思いますが、この辺りが本作らしいリアリズムでしょう。
そしてそれを単なる香個人のドラマで終わらせることなく、最終的にはイカロスハーケンという飛行形態への合体成功というカタルシスに繋げています。


同時にここまで丹念に香のキャラクターを竜や凱との関係性を含めて扱っているからこそ、後半の展開や結末にも説得力を持たせることができるといえます。
もっとも、ここはあくまで香にとって「スタートラインに立った」に過ぎず、真のヒロインとして立つにはまだまだですが、その原点を描いているのです。
そして竜と凱もまた「いい男」と思わせておいてその実情けない面を沢山描いており、何というか井上先生の描く男ってなぜかダメ人間率が高い(笑)
完璧超人に見えるやつでも「実はそうではない」というところに落とし込むところが、とてもらしいなと。
評価はS(傑作)、前回と合わせて「香が戦士になるまで」のスタートラインをしっかり描き、その中に伏線も数々仕込んでいるのです。


第6話「怒れロボ!」


脚本:井上敏樹/演出:東條昭平


<あらすじ>
イカロスハーケンへの合体に成功させた竜たちであったが、そこから更なる人型ロボット・ジェットイカロスへの合体訓練を行う。しかし、今度は香の代わりに凱がチームをかき乱してしまい、訓練は失敗に終わる。さらに凱はめんどくさくなって飛び出すと香が追いかけるが、そんな香の説得すら無視して凱はウェイトレスとのデートに洒落込んでしまう。そのデートのためにウェイトレスは自宅に戻るのだが…。


<感想>
いよいよジェットマン序盤の完結編というか、とりあえず「ジェットマンというチームが一通り出来るまで」の土台はここまでで完成を迎えました。
この時期の戦隊は1号ロボ登場が遅いのですが、これはおそらく競合の勇者ロボシリーズやSDガンダムなどとの兼ね合いもあるのかなと…エルドランシリーズも始まりましたしね。
で、その完結編に何を持って来たかというとやっぱり凱であり、とにかくこの男は事あるごとに拗らせてチームをかき乱す「ミスター要らんことしい」ですよ。
竜と香が妙に仲良くなってしまったのがつまらないものだから、飛行訓練で邪魔してやろうという醜い足の引っ張り合い…いい感じに器が小さいですねえ。


だけど香も香で凱の気持ちには気づいているはずなのに、そこで説得して連れ戻そうなんて余計なことしちゃうものだからウェイトレスをナンパしてしまい、しかもあっさり成功という。
実はここで香がやっていることは第3話の竜と全く同じなのですが、多分竜や香みたいなタイプって学校でいうところの学級委員をやりたいタイプなんでしょうね。
典型的な優等生気質というか、お互いに惹かれ合うのも育って来た環境の違いがあるといえど、根っこの部分で似た者同士だからではないかと思います。
ああそうか、もうこの時既にこの3人の運命に関しては示されていたのだなと…「光」の側に属している竜と香に対して「影」の側に属している凱という違い。


その凱はナンパに成功したはいいものの、そこにはなんとハウスジゲンが住んでおり、結局凱の目的であったデートはおじゃんになってしまいました。
まあ正直デートしようと思ったところにたまたま次元獣がいたというのは御都合主義ではありますが、ここで大事なのは凱が臨戦態勢に入っていることです。
普段はサボることを考えていても、それは根っからそうなのではなく「竜が気に食わない」という個人的事情があるだけで、戦いそのものが嫌いというわけではありません。
目の前に火の粉が降って来たらそれを振り払うくらいの等身大の正義感は持ち合わせていて、きちんと竜とも力を合わせていますので、この辺りのメリハリがいいところです。


第二話からそうでしたけど、凱が余計な個人的感情をこじらせなければジェットマンは大体うまくいく法則はあり、逆にいうとその2TOPがある種の弱点にもなってはいるのですが。
そこからのジェットイカロス初合体はロボアニメの演出を取り入れているのか、ミニチュアからスーツアクターに変わる瞬間の映像の見せ方は見事です。
ただ、これ実は初合体じゃなく最初に4人で合体しているので、ここは流石にやりすぎだったと思います、せめて最後の切り札として見せて欲しいところでした。
そしてもう1つ、実はラディゲが今回前線に出ていますが、ここでもう1つの変身形態である凶獣ラディガンも登場していて、これもまた突発的ではない登場のさせ方です。
まあ「イカロス」という名前の通り、このロボットは初登場こそかっこいいもののとにかく腕がもげまくる弱いロボットでして、なんでこんな不名誉な神話の名前をつけたのかは謎なんですが。


ひとまず今回のエピソードまででジェットマンの基礎土台はできたのですが、驚いたのは4話〜6話まで雷太とアコが完全に蚊帳の外であるということです。
大筋の部分でドラマを担うのが竜、凱、香の3人で残り2人は賑やかしという感じでしょうが、まあ5人が5人バラバラでも話は成り立ちませんからね。
それからバイラムも今の所ラディゲとマリアのインパクトが強いのですが、この後はグレイとトランも徐々に存在感を発揮するようになります。
ハラハラドキドキの展開を仕込んだ濃密な序盤の立ち上げが終わり、ひとまずジェットマンの大枠は完成といったところでしょうか。
評価はA(名作)、歴代戦隊のくくりで見てもかなりレベルの高い設計です。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

inserted by FC2 system