『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)総合評価

 

導入文

(1)「ボウケンジャー」以来のピカレスクヒーロー

(2)レンジャーキーという神変身システム

(3)旧来ファンにとっては嬉し懐かしのレジェンド回

(4)イマイチ迫力不足なザンギャック

(5)「ゴーカイジャー」の好きな回TOP5

(6)まとめ

 


導入文

スーパー戦隊シリーズ第35作目『海賊戦隊ゴーカイジャー』は一言で言えば「戦隊VSシリーズの大盤振る舞い」です。
本作で歴代スーパー戦隊が1つの世界で繋がりを持ち、ゴーカイジャーがその力を持って宇宙帝国ザンギャックと戦うストーリーになっています。
「シンケンジャー」でしっかりと結果を出した宇都宮Pにとっても、そして「デカレンジャー」以来7年ぶりとなる荒川氏にとっても集大成の1作でしょう。
歴代スーパー戦隊を本作に圧縮して総括しながら、同時にこれからも作られていくであろうスーパー戦隊への礎として作られることになりました。


私がこの戦隊を最初に知った時は「え?宇宙海賊?それギンガマンとレジェンド回になったら絶対ヤバいじゃん」なんてツッコミを友達としていたものです。
まあその心配は「ギンガマン」のレジェンド回を見て杞憂に変わったのですが、とにかく私もこれでまたスーパー戦隊へ復帰したのは間違いありません。
それから、拙ブログを始めらご覧いただいている方はご存知だと思いますが、2011年からちょうどYouTubeで過去の東映特撮作品を無料配信するようになりました。
確か最初に出てきたのが「メガレンジャー」「フラッシュマン」「仮面ライダーBLACK」あたりだったので、本格的にネットでも東映特撮フィーバーが起こった年です。


で、私が「ゴーカイジャー」を見るようになったきっかけはちょうど夏に地デジ放送に切り替えまして、それで最初に見たのが運よく「ギンガマン」のレジェンド回でした。
その回がこれまた面白く、まさか画面でまたもや炎の兄弟が見られるとは思いもよらず、前原氏と小川氏の元気な姿に安心したと共に気がづけばまたもや見るようになったのです。
そのため本格的に1話から見たのは去年のことであり、とても荒川稔久メインライターとは思えないほど高いクオリティでまとまっていて、最後まで楽しませていただきました。
ただ、2011年は決していいことばかりではなく、3.11(東日本大震災)という震災が起こった年でもあり、今でもあの時の恐怖が脳裏に焼き付いています。


それから10年後の現在、今年はついに「テン・ゴーカイジャー」という作品が制作され、更にレジェンドの方々と特撮ファンとの距離感も少し近くなりました。
そんな本作を改めて俯瞰してみて、どこが魅力だったのかを改めて分析していきましょう。


(1)「ボウケンジャー」以来のピカレスクヒーロー


まず大きな特徴は海賊という「ボウケンジャー」以来のピカレスクヒーローであり、ゴーカイレッドのキャプテンマーベラスをはじめゴーカイジャー5人には全く正義のヒーロー感がありません
一応第1話の段階からレンジャーキーを用いて歴代戦隊の力を使ってはいるのですが、いわゆる「力は持っているけど使い方を知らない」という実に本末転倒な戦い方をしていました。
地球に来た目的もあくまでも「宇宙最大のお宝」を探すためであり、そのためには全スーパー戦隊の「大いなる力」を集めて回らなければならないという設定になっていたのです。
つまりゴーカイジャーは歴代のスーパー戦隊と絡んでいくことでその力を全て受け止める「」のような存在であり、だからこそ「海賊」でありながらも実はややキャラの個性は薄めに設定されています。


どうして海賊なのかというと「ONE PIECE」「パイレーツ・オブ・カリビアン」などのピカレスクロマンが流行していたのが1つには大きく、実際に企画書にはそう書かれていたそうです。
しかし、私は決してそれだけではないと思っていて、本作の前にはすでに歴代の作品と1年かけてコラボレーションをやった「ウルトラマンメビウス」「仮面ライダーディケイド」がありました。
「メビウス」では歴代ウルトラ兄弟や地球人と絡んでいく中で人間のいい点も悪い点も知った上で「星を守る価値」を自分なりに見出していく構造になっていくのです。
そして問題作であった「ディケイド」では歴代ライダーの力を使いながらもどんどん過去を乗り越えて先へ進んでいくという前向きさやワクワク感みたいなものを出していました。


本作「ゴーカイジャー」はその「メビウス」と「ディケイド」のハイブリッドというか相の子みたいな作品であり、地球人や歴代戦隊との交流の中で星を守る価値を見つけつつどんどん前に進んでいきます。
こういったストーリーとキャラクターが可能だったのもそれこそ歴代スーパー戦隊シリーズのたゆまぬ35年間の歴史の蓄積があってのことですが、本作はその歴史を全部ゴーカイジャーを通して肯定しているのです。
2クール目に入ると、今度は追加戦士のゴーカイシルバー・猪狩鎧が入ってくるのですが、彼が地球人代表として狂言回しもやりながら、よりゴーカイジャーを真のヒーローにしてくために奮闘しています。
この辺りは同じピカレスクヒーローの「ボウケンジャー」から更に発展させたものであり、「ボウケンジャー」はピカレスクヒーローとしてよくできているのですが、一方で全員「俺が俺が」感が強かったのです。


視聴者にとっては取っ付きにくいキャラ付けとなっていまいち感情移入しづらい部分があったのですが、本作では追加戦士のゴーカイシルバーにキャッチーでわかりやすい「いい奴」を持って来て入りやすくしました。
まあこの辺りは同じ宇都宮Pの「シンケンジャー」のシンケンゴールド・梅盛源太の成功もあったと思われますが、主役の5人がやや気難しいキャラであるからこそ追加戦士にわかりやすキャラを持って来たのです。
地球人代表の猪狩鎧はそういう意味でいえば「ギンガマン」の青山勇太少年のような「民衆代表」と「アバレンジャー」のアバレッドの人の良さ、そしてえみポンのオタクっぷりをミックスした奴として機能しています。
私も「ゴーカイジャー」という作品をストレスフリーで最後まで見ることができたのはこのゴーカイシルバー・猪狩鎧のおかげと言っても過言ではなく、またそのキャラを池田純矢氏が見事に演じ切ってみせました。


(2)レンジャーキーという神変身システム


そして本作最大の特徴にして大ヒットの秘訣は何と言ってもなりきり玩具のレンジャーキーという神変身システムにあり、この発想は今までにもなかったものであると言えます。
いわゆるディケイドの「スーパー仮面ライドゥ」とは違って、「カード」ではなく「キー」で変身するのが面白く、歴代戦隊へアクセスしている感じなのが面白いのです。
歴代戦隊で「キー」で変身するアイテムは「カーレンジャー」のアクセルチェンジャー以来ですが、あれも「伝説の戦士カーレンジャー」へとアクセスしているといえます。
本作は更にその上で変身後のゴーカイジャーの上に更に歴代戦隊へ変身できるという重ねがけを違和感なく行っており、この変身システムがあるからこそ本作は大ヒットしたのです。


しかも何が面白いといって、海賊版でありながらも歴代戦隊の垣根を超えたヒーローを勢ぞろいさせることができるため、いろんな絵面を楽しむことが可能となります。
例えば赤の戦士限定とか青の戦士限定とか、場合によって追加戦士限定とかもありますし、更にゴーカイシルバーに至ってはゴーオンウイングスをくっつけて、まるでメタルダーみたいにしているのです。
ベルトのバックルからレンジャーキーを取り出すためのシステムも鎧が仲間に加わった段階で改めて説明されており、この辺りのフォローが手厚いあたりも抜かりがありません。
2000年代以降のスーパー戦隊の問題であった「過剰な玩具販促をどう処理するか?」に対して、本作は歴代199の戦士をレンジャーキーというコレクションアイテムにすることで解決しました。


これによって、子供はもちろんのこと旧来の戦隊ファンにとっても馴染みやすいものとなっており、新旧の世代を超えたファンがこの玩具を手にするようにしたのです。
スーパー戦隊シリーズは年々玩具売上と視聴率の双方で稼ぎにくくなっていたのですが、その原因の1つに深刻な少子化問題があり、児童だけでは集客が厳しくなっていました。
そこで作り手は新規だけではなく古参のスーパー戦隊ファンといった私のような大人世代も馴染めるようにし、一緒に楽しんでもらえるシステムを作ったのではないでしょうか。
私はレンジャーキーもゴーカイセルラーもモバイレーツも買っていませんが、これは確かに玩具コレクターにとっては非常に美味しいプレイバリューのあるなりきり玩具だなと思ったのです。


しかもこの変身システムがあるお陰で変身バンクそれ自体にもまた変化をつけることができるようになり、また「変身」というシステムそのものを変えたと言えます。
そう、歴代戦隊で大事なのが「いかに変身を面白くするか?」なのですが、「ボウケンジャー」ではいろんなシチュエーションで変身するように変化をつけていました。
次作「ゴーバスターズ」では敢えて変身バンクを使わずにその場で返信というものにしているのですが、本作では「変身の上に更に変身」ということをやってのけているのです。
これがのちの「トッキュウジャー」のトッキュウチェンジにも繋がっており、自由自在にいろんな形態に変身可能というのは本作が確立したエポックでしょう。


(3)旧来ファンにとっては嬉し懐かしのレジェンド回


そして3つ目に、私を含む旧来の戦隊ファンにとって最も嬉しいのが懐かしのレジェンド回であり、映画でもテレビでもレジェンドゲストの登場を楽しみにできます。
それこそ「ギンガマン」で炎の兄弟を見た私が感動したように、それぞれの戦隊ファンがそれぞれのレジェンド回で楽しめるように工夫が凝らされているのです。
しかもただ登場させるだけではなく、レジェンド戦隊の後日談を描いていたり、セルフオマージュを捧げるようなエピソードが描かれていたりします。
特に「ジェットマン」「ギンガマン」あたりに強い思い入れがあった私にとってはもうそのレジェンド回が来るだけでも大きいものとなっているのです。


そしてそういう旧来の戦隊ファンがいつでも作品を見やすいように、YouTubeで無料配信を始めたこともまた狙いの1つではあったのでしょう。
単に歴代戦隊をレジェンドの登場で知ってもらうだけではなく、そういう旧来のファンが見られるようにネット戦略も同時に展開していたのです。
冒頭で述べたYouTubeでの無料配信が本作の放送と同じくらいにスタートしたのも決して偶然ではなく、計算して狙った戦略だったと思われます。
それは見事に功を奏しており、旧来ファンがいつでも配信でチェックできるようにしていることはとても大きいことだったのです。


ただし、この戦略が100%上手くいったのかというとそうでもなく、かえって視聴率は下がってしまいました
視聴率低下に関しては本編の内容が悪かったとかではなく、まずアナログ放送から地デジへと放送が切り替わったことが挙げられるでしょう。
地デジ対応のテレビに切り替えたことでデフォルトでUSBを使っての録画ができるようになり、わざわざ早起きして見なくても良くなりました。
それからレジェンド回であれだけ大量のゲストを出したことは旧来ファンにはよかったとしても、肝心の子供達にはわからなかったはずです。


宇都宮Pと荒川氏ら作り手が近年の戦隊以外にあまりレジェンドを出そうとしなかったのも、子供が知らない可能性があったからでした。
この辺りは賛否両論というか、本作の功罪でもあったので、諸手挙げて100%は肯定できないのがなんとも複雑なところです。


(4)イマイチ迫力不足なザンギャック


さて、そんな本作は基本的に東映まんがまつりのような楽しい1年なのですが、個人的に微妙だったのがイマイチ迫力不足なザンギャックです。
歴代スーパー戦隊が力を失う代償と引き換えに倒したというレジェンド大戦との兼ね合いが微妙であり、これは「シンケンジャー」からの悪い点だったかなと。
まあこの辺りはそもそも荒川氏自身がこういうスケール感のある兄弟な帝国というのをがっつり書いた試しがないから仕方ないのかもしれませんが、まだバスコの方がインパクトありました
バスコに関しては「シンケンジャー」の十臓の発展形であり「アンチキャプテンマーベラス」として作られたキャラなので、はじめから成功するように設計されています。


対してザンギャックはというと、やっていること自体はそこまでおかしくないのですが、幹部連中のキャラ付けや使い分け・書き分けといった点で微妙でした。
一番印象に残っているのがそれこそジェラシットであり、まさか浦沢義雄先生が書いたサブエピソードでおばちゃんと駆け落ちなんてするとは…しかもラストは懐妊してしまうのです。
このエピソードは正直見たときポカーンとなりましたが、ただまあここまで正面切って描かれると白旗を上げるしかなく、しかもかなりのブラックジョークが含まれています。
要するに宇宙からやってきたものと地球人とが折り合うことは決して簡単なことではなく、思えば「カーレンジャー」でも浦沢先生は結構この辺りをシビアに描かれていました。


ただ、ジェラシット以外で今思い出して何か印象に残る活躍をした幹部連中や敵がいるかと問われると、他に挙げられるのはジョーの因縁の相手であるバリゾーグ位でしょうか。
バリゾーグのキャラクターであるジョーの元先輩という設定は前作「ゴセイジャー」のマトリンティスの元地球人のキャラへのリターンマッチとして生み出されたものでしょう。
しかし、マトリンティスのあれがかなり雑に処理されてしまったのに対して、本作のジョーとバリゾーグはその辺りの因縁をきっちり丁寧に向き合って描いています。
しかも「救える命があるなら敵でも救いたい」というところで、似たような設定を持つ「ライブマン」のレジェンド回とも上手く話を絡めて作っていたのも見事でした。


まあそういう経緯もあって、実質の作品としての盛り上がりは最終的に「宇宙最大のお宝」を知って、それを使うか使わないかというところが盛り上がっています。
逆にそのあとのザンギャック艦隊の侵攻とそこからの逆転劇、そして皇帝撃破に関してはぶっちゃけそこまで盛り上がらず、個人的には微妙でした。
まあ最終回の「ド派手に行くぜ!」では出てくれたゲストに配慮した攻撃を使っており、特にギンガレッドと黒騎士のダブル炎の鬣はきちんと原作リスペクトでよかったのですけどね。
ヒーロー側であるゴーカイジャーとレジェンド戦隊の話はうまくまとまった感じがあるだけに、ザンギャックらヴィラン側が今ひとつまとまりきらなかったのは惜しまれます。


(5)「ゴーカイジャー」の好きな回TOP5


それでは最後にゴーカイジャーの好きな回TOP5を選出いたします。本作はアベレージが高いのですが、やはりレジェンド回が中心となりました。

 


まず5位は物語の立ち上がりの段階で「ゴーカイジャーとはどんなヒーローか?」を規定した回であり「この星に守る価値はあるか?」は序盤を象徴する名台詞です。
次に4位は「メガレンジャー」のレジェンド回としてよくできており、地球人と宇宙海賊の交流としても非常に爽やかにまとまっていました。
3位は浦沢脚本によるカーレンジャー回であり、一見ゴーカイジャーを振り回しているようでいて、ラストにはきちんとヒーローとして大切なものを教えています。
2位は「炎の兄弟」を下敷きにしたギンガマン回であり、力を手にしたけど心構えがなってない鎧と力を失っても星を守りたいヒュウガとの絡み、そして教えが良くできていました。
そして堂々の1位は井上先生直々に手がけるジェットマン回であり、若松俊秀氏と小澤亮太氏の熱い演技合戦が見応えのある最高の傑作回です。


ここで挙げた回以外にもたくさん名作回はあるのですが、やはり私の好みで行くとこの5本になってしまいます。それくらいレジェンド回の持つ価値はすごいのです。


(6)まとめ

 

スーパー戦隊シリーズの歴史を総括しつつ、最終的にはそれらすべてを否定するのではなく肯定するという方向性を本作は示してみせました。
ライダーシリーズとは違い、過去を「塗り替える」のではなく「受け入れる」ことで前に進んでいくのがいかにもスーパー戦隊らしいところです。
基本的には陽性の作風でまとめながらも、決してレジェンドたちをばかにすることなくリスペクトして前に進んで行くところが良くできています。
総合評価はA(名作)、これでヴィラン側まで完璧だったらそれこそ傑作となったのではないでしょうか。

 

 

海賊戦隊ゴーカイジャー

ストーリー

A

キャラクター

A

アクション

A

メカニック

A

演出

A

音楽

A

総合評価

A

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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