『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999)7〜12話感想まとめ

 

第7話「美しき災魔のワナ」

第8話「救急戦隊活動停止」

第9話「盗まれた能力(ちから)」

第10話「誇りのイエロー」

第11話「灼熱の2大災魔獣」

第12話「決死の新連結合体」

 


第7話「美しき災魔のワナ」


脚本:武上純希/演出:小中肇


<あらすじ>
コボルダはロビンソン博士が持つ世界の活断層が記録されたディスクを狙い、掘削サイマ獣モルグールを送り込もうとする。しかし、ディーナスは有効な別の作戦があると言う。その後、来日したロビンソン博士を地震研究センターの井上清美に変装したディーナスが迎えるのだが、マトイたちは博士の護衛に駆けつける。ナガレとマツリが代表して博士の護衛を果たすことになり、モンドのもとに帰るマトイに博士は自分とモンドの若かりし頃の写真を届けるように依頼する。博士を乗せた車が進む中、近くで化学薬品を積んだトラックが崖崩れに巻き込まれたという一歩を受け、ショウとダイモンが対応に向かうが、果たしてどうなるのであろうか?


<感想>
コボルダとディーナスが前線に打って出るお話ですが、この辺りから徐々にゴーゴーファイブと周囲の公共機関との関わりが描かれるようになります。
今回と次回はモンド博士の知人・友人が関係するお話ですが、海外の天才科学者とも繋がりを持っているあたり、モンド博士は典型的な「天才」なのです。
話の内容自体は良くも悪くもありがちなもので、特筆すべきポイントはというと、精々がマトイ兄さんの大げさな芝居ですかね。
面白かったのがなぜか人質にされることでマツリではなくナガレのヒロイン力が上がってしまったということなんですが(笑)


それにしても谷口賢志氏はこの段階だと本当に演技下手で、かの小林女史をして「演技下手すぎて殺してやろうかと思った」とか言うほどでしたから、よっぽど下手だったんでしょう。
しかものちに「仮面ライダーアマゾンズ」でリアル化け物の怪演を見せてくれることになりますから、別にナガレのヒロイン力が上がってもなあという。
アタッカーポンドを使って助けるというのは秀逸で面白い発想でしたが、ナガレって意外にも女の色気に弱いタイプだったりすることが発覚。
この人、多分将来的に女に騙されて酷い目に遭いそうですが、まさかその世界を実現したのが「仮面ライダーアマゾンズ」の仁だったのかな?


まあそのくらいなんですけど、今回に関しては完全にコボルダが余計なことをしたせいで失敗した気がします…ディーナスに任せていれば上手く行ったのに(笑)
ディーナスはなかなかの美人さんではあるのですが、もう少し女の色気という点ではグラマラスさやセクシーさが欲しいなと。
あんまり前作と比較は良くないと思うのですが、やっぱり水谷ケイのあの毒々しい色気には敵わんのですよ。
内容としては可もなく不可もなしといった感じで、評価はD(凡作)ですかね…やっぱりまだナガレの良さが引き出せていないと思います。


第8話「救急戦隊活動停止」


脚本:小林靖子/演出:小中肇


<あらすじ>
首都消防局の総監・乾謙二はゴーゴーファイブの正体が気がかりであった。マトイ達巽兄妹から10年ぶりに父が帰ってきたのと同時に退職させられた事実を知った乾はモンドに会うために巽家へ向かう。一方災魔一族ではドロップが地球を混乱に陥れないとグランドクロスが完成してもグランディーヌに会えないと言い、ジルフィーザが雷針サイマ獣ライマを生み出して地球に送り込んだ。父と乾総監の関係を知らないマトイが何があったのかを聞くと、乾家と巽家は江戸時代から火消しの家系でライバル同士であることが語られる。乾は10年もの間モンドが失踪していた理由について改めて問い質すが…。


<感想>
さあ来ました、ゴーゴーファイブ1クール目の傑作回、描くのは6話に続く小林女史。
今回は乾総監とモンド博士を中心にしたゴーゴーファイブのチームアップ回ですが、改めてどういう指揮系統でゴーゴーファイブが動いているかが見えると思います。
まず乾総監のキャラクターですが、モンド博士が「天才」なのに対して、乾総監は「秀才」なのではないでしょうか、発言などから察するに。
次々と実用的なものを生み出すが、反面人間性には問題がありまくりなモンド博士に対して机上の空論に終始しがちだが真面目な乾総監。


そんな2人に振り回される巽ブラザーズというのが今回の話ですが、特にドラマとしての見所は5人が戦闘中にどちらの言うことを聞くべきかというところ。
ゴーレッドが「指示は1つに!」と言うのですが、正にこれは「船頭多くして船山に登る」であって、指示系統が全く異なると組織としての歯車が途端に狂ってしまいます。
しかもその後、公共機関に無許可でゴーゴーファイブを作ったという理由で活動停止を食らってしまうという展開になってしまうのです。
私がゴーゴーファイブは公的動機の方が強いと思う理由は正にここであり、巽ブラザーズはあくまでも「組織の歯車」でしかないことが示されています。


こんなことを言っては何ですが、そもそもマトイたちがゴーゴーファイブになる前にやっていた仕事自体が国家公務員な訳であり、国家公務員って基本的に公的動機で動くんですよ。
6話でショウはパイロットになることを夢見て苦手な勉強を必死にやったとのことで、5人それぞれが自分の意思で就職したかのように描かれていますが、それも今回で示されているようにあくまで巽家の血筋です。
つまり根っこに「家系の血筋」がありきで、その延長線上に国家公務員として人の命を救う仕事に携わっているということは、悪く言えば自ら国家の犬になるということでもあります。
だからそこに至る経緯がどうあれ、一度国家公務員となり、そしてゴーゴーファイブとしてチームを組んだ以上はそこに個人の意思が介在する余地はなく、チーム単位で動くを要求されるのです。
ゴーゴーファイブが活動停止になってしまい路頭に迷うことになるマトイ兄さんたちですが、そんな中で改めて乾総監に直談判するマトイ兄さんがカッコよかった。


「総監!うちの親父、地球を守ることに懸けちゃ結構マジみたいなんですよね!ほかは結構いい加減ですけど」


ここでモンドに対する軽い批判も入れながら、しかし科学者として、人の命や地球の平和を守るという使命感は揺るぎないという思いを明らかにしています。
これの何がいいって父親のモンドではなくマトイが言うことで、かえってかっこいいセリフになっているんですよね。
そしてモンド博士の熱い想いが伺えたのがその前にあるこのやり取り。


「火消しの価値はな、炎のなかでこのマトイを振りかざすことにあった」
「何が言いたい?」
「ただ机にかじりついているだけじゃ、火は消せんよ」


つまり乾総監の欠点である「机上の空論を振りかざしてばかりで、現場のことをわかっていない」と指摘したわけですが、でもぶっちゃけここまでモンド博士は救助活動に出てないですけどね(笑)
とまあ、ここまで「ダメ親父」ばかりが強調されていたモンド博士も少しずつこの話から本領を発揮し始め、乾総監というライバルが現れたことで一気に魅力的なキャラクターに変貌しました。
同時に乾総監と一緒にマトイを振りかざしながら市民を避難させるシーンを描くことで、決して巽兄妹だけではなく乾総監やモンド博士も合わせてのゴーゴーファイブ、という本作のヒーロー像を確立。
前作「ギンガマン」とは対照的に、本作はあくまでもモンド博士や乾総監など司令官と呼べる人物の指示によって初めてマトイたちが動けるという組織の規律優先であることが示されました。


各キャラクターの掘り下げに関してはまだ完了していないものの、ここで一足先に「ゴーゴーファイブとはどんなチームなのか?」を6話からもう1段階ステップアップして話を展開しています。
ここで巽一家だけで世界観が閉じてしまいかねない話が、乾総監という国家公務員の代表にして象徴となる人が出て来ることで、ゴーゴーファイブの世界観に厚みが増すという持っていき方が鮮やか。
後半での逆転シーンもうまくハマりここに改めてゴーゴーファイブが真のチームになるという、その礎がようやくここで確立されました。
時間はかかりましたが、ラストのオヤジ同士の熱い友情の握手もまた見どころです。


「しっかり息づいているようだな、火消しの血が」
「私の血だ」


ラストは5人全員で乾総監に敬礼し、そこにモンド博が並ぶカットが示されるのですが、これまでゴーゴーファイブの名乗りのみに使われていた敬礼がしっかりとドラマとして機能しています。
ここからモンド博士にもダメ親父より熱血親父の側面が強くなるのですが、改めてゴーゴーファイブという作品の基盤をしっかり作り上げた傑作回であり、評価はもちろんS(傑作)


第9話「盗まれた能力(ちから)」


脚本:宮下隼一/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
マツリは救命士の先輩・ミズキの見舞いに訪れるのだが、彼女は足の怪我のリハビリを始める勇気がなく腐っていた。そんな彼女をマツリはなんとか励まそうとするのだが、ゴーゴーファイブの任命とともに救急救命士の仕事を辞めたことを責められ、言葉に詰まってしまった。一方その頃、街では吸力サイマ獣バンパイラが人々や乗り物などから能力を奪い取っており、そこに駆けつけたマツリがゴーピンクとしての能力を結晶として奪い取られてしまう。マツリの正体がゴーピンクだと知ったミズキは戦闘に割って入り、ゴーピンクの能力を取り戻そうとするが、ゴーピンクの力は誤ってミズキに宿ってしまうが…。


<感想>
さあ、今回はマツリメイン回ですが、4話に続いて宮下隼一氏が担当していますね。8話でゴーゴーファイブというチームの基盤が出来上がってきたからか、この辺りからゴーゴーファイブも滑りが良くなります。
マツリの「私」の部分である救急救命士時代の先輩との話ですが、いわゆる「変身不能」になってしまう回であり、面白いのが「変身ブレスをなくした」でも「変身ブレスを破壊された」でもなく「変身能力を奪われた」というところです。
能力剥奪系の敵はたまに出てきますが、味方側をピンチに陥らせるための演出とはいえよくやったなあと思いますし、もう1つは改めて「マツリ以外の者がゴーゴーファイブをやったらどうか?」という疑問に答えています。
実際今回はミズキ先輩の活躍が盛り込まれていてカッコよかったのですが、やっぱり「コレジャナイ感」があって、ゴーゴーファイブは巽兄妹5人が揃ってこそのゴーゴーファイブだと示されているのです。


ポイントとしては救急救命士としての腕前・力量はミズキの方が高いことであり、だからゴーピンクとしての力量だけでいえば、もしかしたらマツリよりもミズキ先輩の方が上なのかもしれません。
それでもなぜマツリがゴーピンクなのかというと、「目を逸らすな、諦めるな」という言葉を胸に頑張ってきたからであり、今度はマツリがそれを改めて先輩に思い出せる番だったということでしょう。
マツリの献身的な姿勢と先輩のかっこよさを引き立たせる構成になっているのですが、ただこの回最初見た時はすごくいいとは思ったものの、やっぱり疑問が2点ほどあります。


1つが着想できないはずのミズキがゴーピンクの能力をたまたま得てしまっただけであんなに活躍してしまうことであり、あそこの部分は正直リアリティの観点から無理がありすぎました。
こういう風にゴーゴーファイブ以外の連中が活躍するのは構わないのですが、救急救命士としての腕前とゴーピンクとして戦えるかどうかはまた別問題となるので、その辺は気をつけて欲しかったです。
80年代の脚本であればこのレベルでも許されたかもしれませんが、一般人とヒーローの関係についてしっかり補強した前作の流れから踏まえて見ると、流石にここでの描写はやりすぎだった気がします。
活躍するなとは言いませんが、もう少し「ゴーゴーファイブではないから敵を前にすると倒されてしまう」といったあたりの描写の補強は欲しかったところです。


2つ目にゴーピンクの能力が結晶化したとのことですが、それだったらそれで新しいゴーピンク用のゴーゴーブレスを再開発すればいいだけじゃないでしょうか。
この辺り「ゴーグルファイブ」はその辺に上手い回答を用意していて、変身ブレスが2回ほど破壊されて変身できなくなったことがあるんですが、再開発することで乗り越えました。
いわゆるギンガブレスやオーラチェンジャーのように1個しかない特注品であるならまだしも、ゴーゴーブレスは特にそのような設定はなかったはずです。
モンド博士が全部を個人資産だけで作ったわけではないでしょうし、技術開発元に依頼して予備品を作っておけば簡単に解決した話だと思います。


まあ女の友情のドラマは月並みといえどよく描けていたと思いますので、これで描写のリアリティさえしっかりしていれば満点だったんですけどね。
悪くはないものの、諸手あげて傑作とは褒めにくく、評価としてはやや厳し目にB(良作)というところではないでしょうか。


第10話「誇りのイエロー」


脚本:山口亮太/演出:渡辺勝也


<あらすじ>
ダイモンは救助活動における貢献度が少ないせいで、マトイはおろかショウ辺りにまでいじられてしまい、フラストレーションが溜まっていた。そんな中、ダイモンは世界一のエースストライカーになりたい里中大悟というサッカー少年と出会う。ダイモンのサッカーの腕を見込んだ大悟は自分を弟分にして欲しいと頼む。そんな中、黒煙サイマ獣チャンバーノが出現し、ゴーゴーファイブが救援に駆けつけるのだが、ダイモンはなんとしても自分が倒すのだとマトイの命令を無視して行動し、その結果排気ガス爆弾を爆発させてしまい大悟を危険に晒してしまった。ダイモンはそのことを厳しく責め立てられ、マトイに反発して家を出てしまう。


<感想>
今回の話は満を持してやって来たダイモンメイン回ですが、手がけるのは「Gガンダム」「メダロット」などで有名な山口亮太氏。
東映アニメだと「ドキドキ!プリキュア」のシリーズ構成などもやっておられて、いわゆる少年漫画・アニメなどの燃える脚本を得意としている方です。
戦隊シリーズでは本作と次作「タイムレンジャー」しか担当していないのですが、本作は作風がややライトということもあって、マッチしているようですね。


話のテーマはいわゆる「適材適所」なのですが、これまでどこかみそっかすな感じというか、役立たずな印象が強かったダイモンのキャラをしっかり立てて来ました。
他の4人がそれぞれ消防局特殊レスキュー部隊隊長、化学消防班員兼研究スタッフ、航空隊パイロット、救急救命士と人の命に関わる仕事の多い中でダイモンだけが警察官。
しかも幹部ではなくちょっと出来損ないな感じのお巡りさんなので、どうしてもマトイたち他の兄妹に比べると足手まといというか陰が薄い感じは否めません。
ここまで活躍らしい活躍を見せていなかったのですが、今回から出番がしっかりと与えられるようになり、その意味でも良かったなと。


今回登場するのはサッカー少年の大悟くんですが、演じているのは「金八先生」の第7シリーズで学級委員のシマケンを演じていた人で、子役時代からやっていたんですねこの人。
そんな彼が「エースストライカーになりたい」とのことですが、これって若い頃は誰でもがあるような錯覚ですし、私にもあったことなので気持ちはわかります。
だけど、世の中にはリーダーが向く人と向かない人、逆にアシストが向く人と向かない人がいて、ことゴーゴーファイブにおいてはその点が特に強いのではないでしょうか。
特に印象的だったのはモンド博士との会話で、けんちん汁の具材に例えながらの教え方がうまく、この辺りからモンド博士も徐々に指導者としての役割を見せています。


「ゴーゴーファイブは兄妹5人の持ち味がうまーくブレンドされて成り立っとる、ちょうどこのけんちん汁のようにな。こんにゃくには鶏肉の役割は務まらならないし、逆もまた然り。それぞれの役割をきちんと果たしてるんだ」
「それぞれの役割……」
「お前には、お前にしかできないことがある。別のものになる必要はないんじゃないか?」


とても当たり前のことですが、王には王の、側近には側近の役割というものがあり、それぞれに適したところに配置されているというわけです。
逆にいえば、今回ダイモンは個人的判断によって動こうとして失敗したわけですが、それは己の本質を見失いマトイになろうとしたからでした。
確かにゴーゴーファイブのエースストライカーはリーダーであるマトイなのですが、そのマトイでもやはり弟たちの支えがなければ役割は果たせないのです。
8話の感想で「組織の歯車になる」とやや悪い書き方をしましたが、ここでダイモンにしかできない「サポート」という役目を描いたのは良かったところ。


戦闘力とリーダーシップではマトイ、知性とテクニックではナガレ、コミュニケーション力や柔軟さではショウ、そして献身さやヒロイン性はマツリ。
それぞれに突き抜けた長所がある巽兄弟の中で、ややもすればダイモンの存在は埋もれてしまいがちですが、だからこそここで軌道修正を図ったのはいいことです。
前作「ギンガマン」がそれぞれ単独でも敵を倒すことができる個人事業主の集まりだったため、そのあたりの差別化もあるのでしょうが、「ゴーゴーファイブとは何か?」をダイモンの視点から補強しました。
その上で、後半では大悟少年をしっかり守り抜いて、カッコ悪くても兄たちの到着まで無理をせずに守り続けることというのは3話でやらかしてしまった過失への雪辱戦にもなっています。
そして改めて敵が繰り出して来たボールを受け止め、逆にマトイ兄さんが決めてみせるとというのはいわゆるゴレンジャーハリケーンのエンドボールのオマージュでしょうか。


「よっしゃあ!ナイスアシストだぜダイモン!どんなに凄いエースストライカーでも、シュートは1人じゃ決められない!」
「勝利の陰に名アシストありってね!」


元々原点の「ゴレンジャー」自体がラグビーやサッカーのようなチームスポーツをモデルに入れており、「スクラム=団結」を1つのポイントにしていました。
その辺もしっかり本歌取りとして拾いつつ、チームワークの意味を拾い直しており、下手ながらきちんとドラマとして組み立て直しているのが見事です。
どうしても70・80年代戦隊だとこの辺は「出来て当たり前」で済ませてしまいがちなので、いわゆる「お約束」ではなくドラマとして向き合って描いています。
その後の巨大戦もしっかりまとまっており、ラストは大悟少年がエースストライカーではなく名アシストとして頑張ることでチームに打ち解けられたのでした。


一話完結としては月並みでありながら、その中でしっかりダイモンの長所と短所、そして少年のドラマともリンクさせて「ともに成長していく」という構図が見事です。
ダイモンもダイモンで大悟少年に教えられることがあり、そして大悟少年もダイモンやゴーゴーファイブからチームヒーローの本質とは何か?を教わる。
やや爽やかな少年漫画風の一本でしたが、非常に気持ち良く最後まで見ることができ、評価はA(名作)でしょうか。


第11話「灼熱の2大災魔獣」


脚本:武上純希/演出:長石多可男


<あらすじ>
災魔一族は火炎サイマ獣ヘルゲロスを送り込み、大魔女グランディーヌを降臨させようとしていた。一方マトイ達男性陣は体に大きな負担がかかる謎のシミュレーションを受けさせられていたが、モンドはその目的を教えてはくれなかった。そこに居合わせていなかったマツリはモンドの発明した探知機を武蔵岳の活火山研究所へ運んでいる最中だったが、研究所が忙しく迎えの車を出せなくなったため登山バスを利用して目的地に向かおうとする。しかし、そのバスには不審な男が乗り合わせていて、一緒に研究所へ向かおうとしていると、ヘルゲロスの攻撃で火山が活性化し地震が発生してしまう。果たして、この火山をマトイ達は食い止められるのか?


<感想>
さて、今回と次回は1クール最後ということもあり、山場としてグランドライナー登場話として前後編にわたってお送りいたします。
今回はその前編なのですが、ドラマ面では若干疑問符がつく展開はあるものの、単なる玩具販促回に終わらない秀逸なバランスで、武上脚本と長石演出の双方がいい仕事
とても高いクオリティでまとまっており、フィルム全編を通してみなぎる緊張感は半端なかったのですが、やはり登山バスのくだりは正直やる必要があったのか疑問です。


というのも、今回グランドライナー登場に際してドラマが必要ということでか、登山用のバスの中に銀行強盗をやって逃走中の指名手配犯が紛れ込んでいたのですが、これがものすごく中途半端な出来で困ります
なんか犯人を更生させるという流れの刑事ドラマ風味をやりたいのであればマツリではなく元警察官のダイモンとやるべきですし、それが今回の地震や火山と何の関連性もないのが残念です。
それに、銀行強盗までやらかして登山バスで逃亡までしていたような悪人がゴーゴーファイブたちの頑張る姿を見ただけで改心というのはあまりにも安易すぎます。
武上脚本っていっつもそうで、玩具販促に物語を絡めるのはいいんですけど、大抵の場合そのドラマがむしろ余計な方向に動いてしまっている気がするのですよね。


今回でいえば、単純に第一話と同じように噴火や地震を食い止めるために奮闘するマトイ達、そして五十嵐博士とモンド博士の話だけでも十分成立するのですから、それ以上のドラマは盛り込む必要はないはずです。
この辺りどうにも引き算の発想ができていないというか、「何を語るべきか」よりも「何を語らないべきか」で物語を作るという発想に至らないのが武上脚本の難点だなあと思ってしまいます。
逆に言うと、そこ以外は非常によくできていて、特にモンド博士が実は若い頃モテモテだったという設定はかなり面白く、これまでダメ親父っぷりが目立っていたのが、どんどんその魅力が明らかになっているのです。
ましてやそれを納得させ得るマイク眞木氏のビジュアルと演技力があるからこそそれが成立していて、老いらくの初恋という感じでしたが、こういう昔を懐かしむ感じの流れは一風変わっていてよかった。


それから、速瀬京子先輩も久々にサポート役に回っていたり、またマツリが兄達が駆けつけるまでバス内をしっかり落ち着けようとしたり、バスの運転手の骨折を確かめたりと非常にいい感じです。
バス救出のエピソードはまあ原点となる「ゴレンジャー」第一話の幼稚園バス救出のオマージュでもあるのでしょうが、それをショウのホバーの救出シーンに転用させているのはお見事でした。
本作がとにかく素晴らしいのはこのメカニック描写であり、第一話の段階から前面に押し出されていましたが、単なる戦闘用ロボットで終わらないメカニックの描き方が秀逸です。
また、最終的にビクトリーロボがピンチになってしまうとはいえ、一回ブレイバーソードでヘルゲロスを倒させたことで、単なるやられ役で終わっておらず、見せ場を与えています。


次回で新ロボ登場に持っていくにしても、その前にしっかり一号ロボを活躍させてから、パワーアップした復活サイマ獣に追い詰めさせることで、安易なパワーアップ合戦にしていません
「再生怪人は弱い」という法則を逆手に取り、大魔女グランディーヌの力によってパワーアップしたという設定で合理化したことで第一話で倒されたマグマゴレムに再び見せ場を与えています。
ケルベロスに関しても同じようにしっかりと見せ場を与え、ここまで追い詰めたからこそ次回の新ロボ登場へのいいストレスとなっているのです。
冒頭でマトイ兄さん達がやっていた訓練も次回への前振りということにはなっているのですが、本作はこういったメカニック周りを丁寧に描写しているのが好感が持てます。


特に前と後ろからバッサリやられてしまうビクトリーロボの絵図はかなり強烈で、今見直すと改めてショッキングな映像ですが、個人的にはとても好印象な一作となっています。
ここまで派手にビクトリーロボを倒してくれるからこそ、次回の新ロボ登場が光ろうというものです。評価はA(名作)、ドラマ部分は余計なものがありましたが、全体的に非常によくできた前編。


第12話「決死の新連結合体」


脚本:武上純希/演出:長石多可男


<あらすじ>
復活したマグマゴレムとゴレムヘルゲロスの二大サイマ獣の力は強力であり、ビクトリーロボは完全に敗北してしまった。マトイ達は活火山研究所へと逃げ延びることを余儀なくされ、そこにはモンド博士の旧友である五十嵐博士がいて、マツリはモンドの探知機を渡すことに成功する。そこにインプスが襲撃して来て、マトイ達は着想しインプスと戦う最中にモンドとの通信が回復した。モンドは悪化する事態に対して切り札があるそうだが、とある理由から使用を躊躇っているようである。しかし、満身創痍になりつつも奮闘するマトイ達の闘志、そして五十嵐博士や京子の言葉を聞いたモンドは決意を固め、したためていたあるプログラムを発動させた。


<感想>
さあ来ました、グランドライナー登場の後編ですが、いやー、やっぱり歴代で見てもカッコいいですねグランドライナー
今現在YouTubeで配信中の「トッキュウジャー」がやっている列車ロボの元祖なのに、なんでこっちがカッコよくてあっちはあんなにダサいんだろう?
このグランドライナーはファンから「黒いダイヤ」と言われるほどゴーゴーファイブの玩具の中でも破格に売れた商品だそうですが、そりゃあこれだけカッコ良かったらねえ。


救急マシンを中に入れての連結合体なので実質マトリョーシカ合体なのですが、単なるマトリョーシカではなく、救急マシンがエネルギー源となっているという設定が見事です。
また、これは14話で明らかとなりますが、前回と今回出て来たマグマゴレムとケルベロスは死霊サイマ獣ではないので、どっちにしろビクトリーロボでは倒せない設定になっています。
この辺りサイマ獣の属性に応じてロボットを使い分けるというのは、「メガレンジャー」「ギンガマン」の試行錯誤を経てたどり着いた本作なりのメカニックの到達点でしょうか。
私は基本的に戦隊シリーズの評価でメカニック、巨大ロボ戦はそんなに評価のポイントには含まないのですが、本作のようにそれ自体を作品が売りにしているのであれば別です。


まずグランドライナーの連結合体のシークエンスからしてカッコ良く、一旦せり上がった鉄道から空中へ高く飛翔し合体、そこから急速に落下してブレーキで止める所のくだりが最高です。
特に着地する所の特撮は今じゃなければできない流れと言えるのではないでしょうか…戦隊シリーズで見せるメカニックとしては、「ジェットマン」のグレートイカロスに並ぶかっこよさ。
そして見せ場の必殺技もまたすごくて、火力が高いが、その分物凄い出力であるためにパイロットにダメージが行くというリスクをキチンと描写しているのが秀逸です。
前作のギンガイオー誕生にも一度星獣の仮死という代償を払っていましたが、本作ではグランドライナーの圧倒的な攻撃力の代わりにマトイ達にダメージが行くのはパワーアップの代償としてよくできていました。


もっとも、この弱点自体はのちにスーツ性能が強化されるために克服されているのですが、導入の段階としてグランドライナーのリスクをしっかり描いておくのは悪くないです。
最近の戦隊はとにかく玩具販促ありきで組んでてストーリーの整合性や設定が丸々無視というか軽視されることも少なくないので、この時代はその辺りをしっかり描いていますね。
また、グランドライナーを単なる高出力のロボットというだけではなく、改めてゴーゴーファイ5人とモンド博士、そして京子先輩の団結の象徴として描いているのもいい所です。
今回の話はマトイ達の頑張りを見てモンド博士が前向きになる回でもあったので、その辺りも込めて1クール目のまとめとしてはよくできていました。


それから、五十嵐博士が改めて巽兄妹を高く評価したことやモンドが亡き母を妻に選んだ理由を語るところでうまくゴーゴーファイブと地震研究所との関連性も描かれています。
本作は前作のように一から社会とのつながりを描く必要はないのですが(そもそもマトイ達が社会に属している)、それでも折に触れてしっかり公共機関との関わりを描いているのは好印象です。
評価はもちろんS(傑作)、かなり淡白な感想ではありますが、メカニックを全面に押し出しつつ、それぞれのキャラの頑張りをうまくまとめて盛りだくさんの一作でした。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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