『大戦隊ゴーグルV』(1982)総合評価

導入文

(1)「戦うヒロイン」の定義を変えたゴーグルピンク・桃園ミキ

(2)司令官不在の戦隊

(3)コンピューターボーイズ&ガールズの存在

(4)執念の女幹部・マズルカ

(5)「大戦隊ゴーグルV」の好きな回TOP5

(6)まとめ

 


導入文

 

スーパー戦隊シリーズ第6作目『大戦隊ゴーグルV』は上原正三氏から曽田博久氏へメインライターが交代し、雰囲気なども含めてイメージが一新されました。
「デンジマン」で培われた要素を継承しつつ、新機軸として「正しい科学」と「間違った科学」というテーゼを導入し、アクションもやスーツデザインも新しくなっています。
ちなみに企画段階での仮題は「未来戦隊ゴーゴーファイブ」であり、このタイトルはそれぞれ違う形で23作目と24作目の作品に採用されることになるのです。
この戦隊からいわゆる「外的(=公的)動機」ではなく「内的(=私的)動機」で戦う作品が多くなり、自分たちは正しいという全共闘のような考えで戦うようになります。
これが同時に上意下達式だった上原正三氏と学生運動の活動家であった曽田博久氏との大きな違いになっているのでしょうか。


さて、本作はどうしても次作「ダイナマン」以降が良くも悪くも個性が強くなっているので目立ちにくくなっており、ファンからは「偉大なる凡作」とまで言われます。
しかし、実際に作品を見ていくと、かなり個性的な作品であることに気付かされるので、決して何も特徴がない凡作だということはないでしょう。
私に言わせれば「ジャッカー」「サンバルカン」の方がよっぽど特徴のない没個性な戦隊であると言わざるを得ません…きちんと見ていくと、実に発見の多い作品です。
そんな本作の魅力を私が感じたことも含めて、改めて振り返ってみましょう。

 


(1)「戦うヒロイン」の定義を変えたゴーグルピンク・桃園ミキ


まず本作を見た誰しもが最大の特徴にして評価ポイントとして挙げられるのが紅一点のゴーグルピンク・桃園ミキではないでしょうか。
当時の大川めぐみの可憐さは今でも通用するレベルの抜群なビジュアルとスタイルなのですが、決してそれだけではなくメイン回に恵まれたことも功を奏しています。
後述する好きなメイン回のTOP5の第1位に入るほど、彼女の存在感は凄まじく、最初は頼りなかったミキがどんどん垢抜けてカッコ良くなっていく様に惹かれるのです。
当時の作り手にミキの成長物語を描こうという意図があったかどうかは不明ですが、戦いを通してたくましくなっていく様は見ているこちらとしても痛快でした。


基本的に私は戦隊シリーズのキャラ評価の基準は「レッドがカッコいいかどうか」で見ていて、もちろん本作のレッド・赤間もカッコいいしブラックの黒田も好きです。
ただ、そんな2人の輝きすらも霞んでしまえるくらいにピンク・桃園ミキの存在感が大き過ぎたのです…これは単なる私の主観の問題だけではありません。
「ゴレンジャー」のモモレンジャー・ペギー松山が示したのは「戦うヒロイン」という存在の地位向上を果たしたことであり、なぜ男性陣に混じって女性が戦うのかが描かれています。
しかし、それでもやはり男性陣に比べて体力や筋力、知力の面で劣っていたのは確かであり、ゴレンジャーの切り札でありながら同時に最大の急所にもなってしまっていたのです。


そんなペギー松山が残した課題を以後のカレン以後の戦隊ヒロインも克服することができなかったのですが、その課題に真正面からぶつかって答えを出したのが桃園ミキでした。
彼女のメイン回はどれも戦隊ヒロインとしてぶつかるべき壁が設定されており、その1つ1つを乗り越えていって伝説の39話で1つの集大成を見ることになります。
その話で彼女はとうとう男性陣の力がなくても1人で戦いきり、最後にはこう叫んでみせるのです。

 

「ゴーグルファイブは永遠に不滅よ!!」


間違いなく戦隊ヒロインのみならず戦隊シリーズの長きに渡る運命すらも宣言した瞬間であり、ペギー松山が超えられなかった壁を見事にミキは超えてみせました。
そんなミキの心からの叫びがあるからこそ、今でも様々な戦隊ヒロインが作られているのだし、アニメでもセーラームーンやプリキュアなどが作られ続けているのです。
基本的に私は戦隊ヒロインはよほどのことがない限り注目することなどないのですが、そんな私ですらも「こいつはすごい」と認めざるを得なかったのが桃園ミキでした。
おそらく今後どのような戦隊ヒロインが出たとしても、このミキのインパクトに匹敵しうるカッコよくも可愛い戦隊ヒロインが出てくることはないと断言します。
それくらい彼女の存在はこの作品を立派に支えてくれた屋台骨なのです。


(2)司令官不在の戦隊


2つ目がシリーズ初の司令官不在の戦隊ということであり、この点を見逃している人は意外にも多いのではないでしょうか。
一応本郷博士が司令官ではあるのですが、2話で出ていった後最終回近辺まで戻ってこないので、戦いそのものは完全にゴーグルファイブとコンピューターボーイズ&ガールズの自主性任せです。
歴代で司令官が不在の戦隊というと他にフラッシュマン、ライブマン、ファイブマン、辺りが挙げられますが、ただそういう戦隊の場合誰かしらが司令官の役割を兼任しています
フラッシュマンの場合はジン、ライブマンの場合は岬めぐみ、またファイブマンの場合は星川学ですが、ゴーグルファイブの場合は誰も司令官の役割を果たしません。


一応リーダーが赤間、サブリーダーが黒田と決まっているのですが、では赤間や黒田がずっとリーダーシップを取っているのかというとそういうわけではないのです。
イエローもブルーも、そしてピンクも基本的には赤間や黒田の指示がなくとも動きますし、何ならチームとして動くかどうかの判断ですら個々の判断に任されています。
上記した桃園ミキが1人でピンチを乗り切ってみせる回もよくよく見るとメンバーに頼らず自己判断で動いているので、かなり自主性の高い戦隊だと言えるのです。
ただし、その分1人1人に任される責任は重たくなり、判断を誤ってしまうととんでもない目に遭うこともありますしし、序盤では実際それでチームに亀裂が入りかけたこともありました。


スーパー戦隊の本質は「5人がかりで1人の怪人をやっつけるチームワークである」というのは実は本作ですでに崩されており、必ずしも全員で力を合わせることだけが道ではありません。
また、司令官がいないことによってメンバーが自由に行動できることから生まれる個性もあり、いわゆる「スタンドプレーから生じるチームワーク」がついに本作によって実現したのです。
そういう点においても、本作はとても個性が強い戦隊であり、決して評価するべきところのない凡作ではありません。


(3)コンピューターボーイズ&ガールズの存在


3つ目のポイントはそんなゴーグルファイブとパートナーシップを結んでいるコンピューターボーイズ&ガールズの存在であり、これもまた歴代で類を見ない設定でしょう。
スーパー戦隊シリーズの戦士の選考基準は作品ごとにまるで違いますが、まさか「子供が選んだ戦隊」なんて設定は後にも先にもこれくらいしかありません。
もちろんただ希望して選んだのではなく、「未来科学の理念を正しく理解し未来に向かって羽ばたく若者」という崇高な理念のもとに選ばれてはいるのですが。
ただし、この人選が本当に正しかったのかどうかは誰も保証できず、4話でミキを通してそのことをきちんと描いており、これが大きなポイントです。


司令官が不在である代わりに、横のパートナーシップを強化してチームワークを作り出していくというのが本作ならではのチームのあり方というのが面白いところです。
今の戦隊はどちらかといえば、メンバー同士の人間関係でギスギスさせながら進行していく作品も多いのですが、本作の場合はその辺りが少し違っています。
5人と司令官やメンバー同士なのではなく「大人と子供」という特殊な関係性であるところがポイントであり、同時に子供たちもヒーローになれるという夢を持たせているのです。
この設定は後の作品で使われなくなりますが、ヒーローと子供(大衆)をつなぐ方法として1つの面白い試みだったのではないでしょうか。


(4)執念の女幹部・マズルカ


ヒーロー側ばかりを褒めてきたのでここでヴィラン側も言及しておきますと、本作はやはり執念の女幹部・マズルカの存在が挙げられるのではないでしょうか。
彼女はいわゆる「悪の美学」とか「気高いNo.2」とかいったような存在感ある女幹部でもないし、かといってセクシーというかお色気で男を惑わせるような手を使うこともありません。
また、いわゆる知略ができる切れ者というわけでもなく、組織内での序列も下なのですが、桃園ミキとは対照的にマズルカはどこまでも泥臭い邪悪の道を貫き通しました。
桃園ミキがいわゆる「聖」だとすれば、マズルカは正反対の「」であるといえるでしょう…しかも、最後までその一貫した性格が崩されることはありません。


そんな彼女はいわゆるデスダークの男性幹部が命じたことを実行するのみなのですが、これはどんどん組織内でヒエラルキーが上がっていくミキと対照的です。
どんどん自立した女性として心身共に強くなっていくミキに対して、マズルカは所詮下っ端の領域から抜け出ることができず、かといって出世欲もありません。
しかし、そんな彼女だからこそ気高い心を持つも肉体面では男性陣に敵わないミキをあれだけ苦しめることができたと言えるのではないでしょうか。
マズルカのようなタイプの女幹部は歴代で見ても他に例はないのですが、だからこそ桃園ミキと対を成す形で印象に残った存在ではあります。
デスダーク自体はぶっちゃけそんなに印象に残っていないのですが、マズルカの存在感がある意味で言うと救いだったのかもしれません。


(5)「大戦隊ゴーグルV」の好きな回TOP5


それでは最後にゴーグルVの中から好きな回TOP5を選出いたします。


・第5位…26話「ブラック!大逆転」
・第4位…16話「レッド!危機一髪」
第3位…48話「秘密基地最後の日」
第2位…4話「ムクムク暗黒地雷」
第1位…39話「悪魔の人喰い絵本」


まず5位と4位はそれぞれ黒田と赤間のメイン回を選んだのですが、本来であれば主役であるはずの2人がTOP3にランクインできない辺りがいかにも本作らしいと言えるでしょう。
生身で奮闘する状況を作っており、特に26話はブレスレットを破壊されたためにもう一度開発されるまでひたすら粘るという追い詰め方が中々素敵です。
3位ですが、上記したマズルカの壮絶な最期を描いた終盤の傑作回であり、下っ端であったはずのマズルカが執念でゴーグルファイブ側に一矢報いる展開が見事でした。
2位はミキの初メイン回にして、「なぜミキのようなか細い女の子が戦うのか?」をしっかり描いた序盤の傑作回であり、コンピューターボーイズ&ガールズとゴーグルファイブのチームアップのエピソードでもあります。
そして来ました、1位はもう誰もが納得であろう伝説の39話…桃園ミキの集大成にして、ある意味では「ゴーグルV」という作品自体の集大成にもなっている殿堂入りの回です。
やはり上位はマズルカと桃園ミキが独占する形になりましたが、それだけ女性陣が本作にもたらしてくれたものが大きかったのではないでしょうか。


(6)まとめ


シリーズ6作目の本作は上原正三氏から曽田博久氏に変わったことで、シリーズとしてのタッチなども大きく変わりました。
中でも桃園ミキとマズルカ、そしてコンピューターボーイズ&ガールズなど本作の独自設定は他では見られない特徴にもなっています。
決してマンネリだとか没個性だとかいうことはなく、メンバーを非常に自由闊達に動かしてみせている作品です。
本作で戦隊ヒロインの地位向上に成功したからこそ、次作「ダイナマン」以降でのさらなる飛躍が可能となりました。
もう少し突き抜けた長所は欲しかったですが、手堅く抑えるべきところは抑えてあるので、総合評価はB(良作)ですね。

 

 

大戦隊ゴーグルV

ストーリー

C

キャラクター

A

アクション

B

メカニック

C

演出

B

音楽

A

総合評価

B

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

inserted by FC2 system