『星獣戦隊ギンガマン』(1998)25〜30話感想まとめ

 

第二十五章「黒騎士の決意」

第二十六章「炎の兄弟」

第二十七章「ミイラの誘惑」

第二十八章「パパの豹変」

第二十九章「闇の商人」

第三十章「鋼の星獣」

 


第二十五章「黒騎士の決意」


脚本:小林靖子/演出:田崎竜太


<あらすじ>
目的だったギンガの光をギンガマンに奪われてしまい、後がなくなった黒騎士は自暴自棄になるが、またもや激しい動悸に襲われる。その動悸の正体は死んだと思われていたはずのヒュウガの声だった。ヒュウガは黒騎士に「ダメだ、考え直せ」と訴えるが、黒騎士はその意思を封じ込め、地球ごとバルバンを潰そうという暴挙に出る。一方バルバンではイリエスが次の行動隊長に指名され、魔人ワンガワンガを送り込んで次々と人々の心から憎しみの心を奪い取っていく。黒騎士はブルタウラスで火山にエネルギーを注ぎ込み、ギンガイオーがそれを止めに入るが、トドメの一撃を放つ前にゴウタウラスが拒否し離れていってしまうのだった。


<感想>
ギンガマン中盤の傑作群、今回と次回でいよいよまとめとなります。
実質は前回まででまとめ終えたのですが、3クール目の入りで黒騎士関連を終了させることで、物語のテンションを落とすことなくしっかり引き継ぎました。
黒騎士ブルブラックの壮絶な最期とヒュウガの再会という、ストレスとカタルシスの双方が入れ混じった構成が本作らしいところです。
追い詰められたブルブラックは遂に自暴自棄を起こしてしまい、ギリギリ保った精神の平衡が崩れてとんでもない行動に出ようとします。


「ゴウタウラス、行くぞ。最後の戦いだ。この星もろともバルバンを吹き飛ばす」


しかし、パートナーのゴウタウラスは昔のような星を戻る戦士になり、ゴウタウラスはクランツと過ごした平和な日々のことを思い出すのです。
ここで、黒騎士が「星を守る戦士」だった頃、すなわちヒュウガのような優しき戦士だった頃を描写することで、黒騎士に共感できるようにしています。
それと比べて復讐だけが残った戦う生物兵器に成り果てたブルブラックはゴウタウラスにはもうついていけない別人だったのでしょう。


「昔のような戦士に戻ってなんの意味がある!?今の私に守るべきものはない」


しかし、ここでブルブラックは激しい痛みに襲われてしまい、内側から何者かが訴えてきます。


(黒騎士、やめるんだ。考え直せ!)


まあヒュウガの声だったわけですが、その一方で新しい行動隊長に任命されたイリエスはあまりにも派手派手しいインテリアに頭を悩ませるゼイハブとシェリンダ。
内心(これならまだサンバッシュやブドーの方がまともだった)と思っていそうで、内心この時からゼイハブはイリエスを切り捨てる腹積もりだったんじゃないかなあ。
後々の展開を思うと、イリエスがダイタニクス復活をまともにできるとは思えないので、表向き信頼してるように見せておいてさっさと始末するつもりというか。
ブドー魔人衆に比べると明らかにプレゼン力も低いし、魔力以外はそんなに強くなさそう…イリエスはワンガワンガを繰り出して憎しみの心を集めていく。


そしてゴウタウラスは山の火口にツインブルソードからエネルギーを叩き込むことで、地球を爆発させてバルバンごと吹き飛ばそうとします。
ここで改めてデタラメな能力を見せているのですが、元々バルバンからしてナチュラルに環境破壊や地球規模の作戦がお手の物だったので、黒騎士がこの規模の作戦に出るのも納得。
同時にバルバンを倒すためなら、非情な手段すらも辞さないあたりの一線の超え方がバルバンと同質の存在に成り下がっている黒騎士の救いようのなさを示しているのです。
私が批判した「シンケンジャー」の二十幕で丈瑠たち4人が働こうとした外道行為はここまでではなくとも、これと同じぐらいのことをしようとしたんじゃないでしょうか。
ただ、元々復讐鬼としての一線を超えていた(それに納得できる背景設定がある)黒騎士と、その外道行為に及ぶ背景設定が薄いシンケンジャーとでは説得力が段違いなのですが。


ギンガイオーはブルタウラスを止めようとするが、最後の一撃を放とうとした時に痺れを切らしたゴウタウラスが合体を強制解除…ここで星獣を単なる戦士たちの召喚獣扱いしないバランスが見事。
ギンガマンたちと友好的な存在として描かれている星獣ですが、ここで強制解除することでゴウタウラスにはゴウタウラスなりの人格があることで物語にまた奥行きが生まれました。
そこで黒騎士の極上の憎しみを感じ取ったワンガワンガが黒騎士の憎しみを吸収する展開が黒騎士の今までやってきた復讐が仇となる展開で、非常に良くできています。
そんな黒騎士を放ってはおけないと最も関わりの深いギンガレッドが助けに入るのですが、ここで決してそんな黒騎士であっても全否定せず救えるなら救おうとする優しさがギンガマンです。


「ギンガレッド!貴様どこまでその甘さを押し通すつもりだ?」
「俺は誰だろうと、見殺しにできないだけだ!」
「私が……お前の兄を利用していると知ってもか!」


ここで改めての伏線回収が行われ、黒騎士が実はヒュウガだった…のではなく「ヒュウガを体内に取り込んでいた」という少しズレたオチになっているのが絶妙。
第一章で落ちてきたヒュウガが自分のところに落ちるという怪我の功名により、ヒュウガのアースを体内に取り込むことでボロボロの肉体が復活しました。
これにより第十二章でリョウマに聞こえていた声が実はやや遠くから黒騎士の体を通して見ていたヒュウガの心の声だったことが判明。
さらには第十八章でリョウマが黒騎士に感じた兄の感覚も間違いではなく、二十章で北風小僧魔人の氷針を受けても無事だったのは体内に取り込んだヒュウガのアースのお陰。


見事なまでに復活したものの、復讐を止めようと訴え続けるヒュウガの意思を弟の形見の短剣を使って封印したことを明かすのです。


「ヒュウガが解放されるのは、私が死ぬ時だ。私を殺すか?ヒュウガを取り返す為に」


ここでヒュウガ兄さんが生きていたという予想可能な落ちにしつつも、そこから回避不可能の深刻な問いをリョウマに突きつける黒騎士。
安易に答えを出さずに葛藤するリョウマの姿が「公も私も双方を守る」というギンガマンらしさを象徴していてとても良かったところです。
兄を見殺しにするのも、そして逆に星を守る戦士を放棄するのもどちらも本作が目指すヒーロー像ではありません。
ここでヤートットを倒しつつ、思わず止まってしまったギンガレッドに黒騎士は問いかけるのですが、ここからの返答が凄まじい。


「見ろ、誰でも同じだ。憎しみと目的の為には手段を選ばない。しかし今殺されるわけにはいかん。私は復讐を果たす!」
「何かを守る為に戦うことを教えてくれたのは兄さんだ。あなたを殺して助け出しても、兄さんは喜ばない!俺たちは星を守る為に戦っているんだ!」


ここでのリョウマの返答はもちろん第一章からずっと見てきた視聴者には自明のことなのですが、第十七章で勇太に教えた「力と心のあり方」を通して強さを描いてきたギンガマンのヒーロー像が示されます。
良かったのは兄を助けたいという「私」の部分を決して否定せず、しかしその為に安易に使命を捨てることもしないという徹底した芯の強さをスタンスとして見せつけていること。
本作は歴代戦隊の中でも特に「星を守る」という目的が単なる戦いの動機やお題目に終わるのではなく、それをきっちり登場人物のドラマに活かしています
しかもリョウマが背負っている思いというのは単に戦いの中で得たものではなく、ヒュウガから伝えられたものであると同時にギンガの森の民の3,000年の歴史が詰まった民族的思想でもあるのです。


とにかく素晴らしいのは本作のこの壮大な背景設定とリョウマたちの等身大のドラマがうまくリンクしているところであり、これはのちの「タイムレンジャー」にも継承されています。
だからこそ公のために私を犠牲にすることも、その逆の私のために公を犠牲にすることもしないというリョウマの葛藤と選択がドラマととして映えるのです。
そんなリョウマの姿を見て黒騎士もまたかつてのクランツの面影を重ねるのですが、ここで改めて「クランツがなり得たかもしれない未来の姿」としてのリョウマが重なるのも演出としてうまく作用しました。
つまり、黒騎士がリョウマを否定しきれないのは、リョウマを否定してしまうと自身が大切に思っていたクランツをも否定してしまうという自己矛盾に陥ってしまうからです。


ここで公と私の狭間で葛藤しつつも、あくまで大事なのはハヤテたちとともに星を守ることであるという覚悟を固めたリョウマはもう立派なギンガレッドになっていました。
黒騎士の存在が見事にリョウマを成長させ、またリョウマが成長することでギンガマン全体も成長することに繋がるという図式が本作のとても良くできたところです。
それでいて、2010年代の戦隊に見られがちだった「レッド崇拝」には絶対にしないというバランスの落ち着け方が絶妙で、今の戦隊じゃこんな高度な文芸はできないんだろうなと切なくなります。
改めて5人揃ったギンガマンはワンガワンガと戦うことを決意し、ギンガの閃光からそのまま超装光ギンガイオーでトドメを刺すのですが、ここで憎しみの槍が火口へ落ちてしまいます。


かつてないほど地球大ピンチで、これまで寒冷化に地殻変動レベルの大地震、爆破テロに酸性雨、大気汚染、山火事、そして今度は地球爆発とここまでハードな戦隊はありません。
単なる地球征服ではなく、地球破壊まで行くからもう本当に容赦がないというか…しかも終盤で待ち受けてるさらなる展開を思うと、地球はもうこの時点でボロボロじゃないか?と思うのです。
火口に5人のアースを注ぐことで中和しようとするギンガマンですが、あまりにもエネルギーの流れがすごく、変身解除されてしまうレベルですが、ここからのスケール感はもはやハリウッド大作レベル。
とてもテレビシリーズとは思えない壮大さであり、「ロード・オブ・ザ・リング」の第3部や「ハリー・ポッター」の終盤の壮絶な死闘に勝るとも劣らないレベルです。
これで中盤だというのだから凄まじい…そして、黒騎士の復讐がこれで終わると思われたその時、黒騎士の心に何者かが呼びかけきます。


「兄さん……兄さん」


なんと死んだはずのクランツの幻影がブルブラックによってきて、自身が無残に切ったはずの花を片手に近づいてくるのです。
そして、リョウマのようにゴウタウラスのように、そしてヒュウガのように静かに深く訴えてきます。


「クランツ……!」
「戦おうよ、兄さん。あの人達のように」
「駄目だ。私にはもう、守るべき星も人もない。ゴウタウラスさえ去ってしまった。そして何より、お前が居ない!クランツ!」
「星はいっぱいあるよ。人もたくさん居る。……ね、兄さん。星を守ろうよ、昔みたいに」
「クランツ!」


非常に短いやり取りですが、ここで見事なのは黒騎士の心を揺り動かしたのがリョウマでもヒュウガでも、ましてやゴウタウラスでもなくクランツであるということ。
凡百の作品だったらリョウマの頑張る姿やヒュウガ、ゴウタウラスの懸命な説得で黒騎士を動かしてしまうと思うのですが、「ギンガマン」はそんなに甘くない。
あくまでも黒騎士を「復讐鬼」から「星を守る戦士」に戻すのは他ならぬ黒騎士の「私」の部分に大きな影響を与えていたクランツでなければなりません。
それはヒュウガにとってのリョウマ、そしてリョウマにとってのヒュウガと勇太がそうであるとも言えるのですが、この説得のフェイズが見事。


それと同時に、「戦って!星を守って!」のあの下りからクランツがさらにここで「星を守ろう」と静かに説得することで、黒騎士が本来なんのために戦うのかまではっきりと規定しています。
本作における善悪の基準や正義のルール、それは人を守り、そして星を守る、すなわち「この世界に生きとし生けるもの全てを守る」ということなのです。
そういう意味ではギンガマンおよび黒騎士は非常に古典的な王道のパーフェクトヒーローなのですが、そこに「人間性」をしっかりと持たせているのが過去作との違いとなりました。
そして同時にそれまでずっと「私」だけの世界で完結していた黒騎士の世界が一気に広がって、本作の作品世界にも拡張性が生まれて広がりが出たことで更に深みが生まれています。


最終的にクランツの幻影は消えるのですが、自身が切ったはずの白い花が握られており、それはまだ黒騎士の中に「星を守る戦士」としての心が失われていなかったということでしょう。
黒騎士はそこでやっと逃げ続けていた己の中の「戦う意味」や「力と心のあり方」と向き合い、担当を抜き取ってヒュウガを解放し、ボロボロの肉体になりました。
これ以上復讐に付き合わせる気はないと自己責任を取る黒騎士はリョウマたちをバリアで閉じ込め(さらっと描かれてるけどとんでもない能力)、そのエネルギーを体内に吸収して爆発させようとします。


「ゴウタウラス!来るんじゃない!この星で仲間を見つけろ、一緒に戦う仲間を!……いいな?」


ここからのBGMと黒騎士がボロボロになりながらも火口へ近づく様は結構ストレートに心に来る映像で、まあマッチポンプではあるにしても、この一瞬でかっこよく見えてしまうのがずるい。
そして黒騎士は火口にダイブする寸前に静かに呟くのです。


「星を守るぞ、クランツ」


このシーンのかっこよさ…わかりますか?この黒騎士ブルブラックの復讐鬼から星を守る戦士へ戻った瞬間のこのかっこよさ…あんなにかっこ悪かったやつが一瞬でこれですよ。
まさにヒュウガのような気高い魂を持った星を守る戦士へ戻った黒騎士のこれは本作が否定している「自己犠牲」に該当するのですが、大きな違いはそれが単なる犠牲に終わっていないということ。
元々黒騎士は地球に来た時点で死ぬ寸前だったわけで、それをヒュウガの体を使って無理やり延命させていたにすぎません。
いうなれば30時間限定で復活を許されたブライ兄さんのようなもので、しかしブライ兄さんは結局「自己犠牲」の域からは抜けられませんでした。


しかし、黒騎士がここでしたことは自己犠牲ではなくクランツの「星を守る戦士として戦う」を死に際にして実現したわけであり、更にその思いをリョウマとヒュウガ、ゴウタウラスへと託しています。
黒騎士ブルブラックの「死」そのものではなく「生き方」や「思い」をここでは肯定しているのであって、だから本作が提示する「自己犠牲ではなく未来を生きるための戦い」のルールとは矛盾しません。
それが同時に前回無残に何も残せず、ただ人を大量虐殺して散るだけだったブドーとの決定的な差であり、あくまでも「星を守る戦士として戦う」ことで復讐を否定したのが見事です。
また、このクランツの幻影が黒騎士の凝り固まった魂を揺り動かす展開自体もさりげない終盤への伏線となっており、しっかり目に焼き付けておきましょう。


だからここで物語が終わるのではなく、ヒュウガが全員の元に戻って感動の再会というカタルシスで締めくくられるのです。
一旦抱きつくサヤとの抱擁を終えて、ついに生き別れとなったリョウマとヒュウガが再会します。


「リョウマ!」
「兄さん」


「それはリョウマ達が夢に描いた再会であった」


この感動の再会は小川氏が語るところによると打ち合わせしていないものだったそうで、ギンガマンたちは撮影本番までヒュウガが現れることを知らなかったそうです。
だからここのリョウマたちのリアクションは演技ではなく素でこのリアクションだったそうで、ちょっとした細かいリアルが仕掛けられていたということですね。
かなり長々と書きましたが、ブルブラックの最期とヒュウガとの再会という「生と死」をテーマに、黒騎士が復讐鬼から星を守る戦士へ戻る展開が見事でした。
評価はS(傑作)、そして次回いよいよ伝説の回です。


第二十六章「炎の兄弟」


脚本:小林靖子/演出:田崎竜太


<あらすじ>
黒騎士ブルブラックから解放されたヒュウガはリョウマたちと感動の再会を遂げ、新しい服を作ってもらいみんなにお祝いしてもらっていた。青山親子とも初めての挨拶を交わす中、リョウマだけが複雑な表情を称えていた。星獣剣を持って難しそうな顔をしてヒュウガとともに出ていくリョウマを見て、ハヤテたちはもしかするとリョウマがヒュウガに星獣剣をヒュウガに返すつもりではないかと推測する。一方バルバンでは黒騎士の死亡を喜びつつもダイタニクスを復活させるためのエネルギー集めとして魔人ゲルトゲルトを呼び出す。39人の人を鏡の中に閉じ込めて儀式を行う作戦を展開し、リョウマとヒュウガ以外の4人が鏡の中に閉じ込められてしまった。


<感想>
さあ来ました、「ギンガマンといえばこれだ!」を象徴する最高傑作にして、「ゴーカイジャー」のレジェンド回のモデルにもなっている最高の回が。


「こうしてみんなと会えたのは、黒騎士のお陰だ。彼が最期の力を振り絞って俺を分離してくれたんだ。黒騎士と一体だった俺には彼の深い悲しみが痛いほどわかっていた。星を守る戦士として戦い続けて欲しかった」


ここで、初めて会うモークとの挨拶もすませ、復讐鬼だった黒騎士に一切恨み言をいわずにしっかり評価しているのがヒュウガ兄さんの人格者ぶりを示しています。
そしてその次の日にはボロボロの民族衣装に代わって、黒騎士を意識した新衣装を着用し、改めてみんなで祝福モードに。
特に初顔合わせの勇太が「僕青山勇太!よろしく!」「よろしく、勇太」というところは本当に大好きです。
ここからの晴彦さんのトンカツギャグは正直微妙だったのですが、実はヒュウガは親父ギャグに弱かったのです。
ただし、ここでリョウマだけが終始複雑な顔をしているのが、これからやってくる展開の前振りとしてうまく機能しています。


そしてバルバンは黒騎士の死を聞きつけて喜ぶとともに、次の作戦としてゲルトゲルトを繰り出しますが…うん、いかにもやられ役臭が強そう
いわゆるガイコツ系となると「アンパンマン」とか「ONE PIECE」とかを思い出しますが、大体マスコットキャラか雑魚キャラに多いイメージ。
人々を次々と鏡に閉じ込めていくのですが、ここで生身の戦いを久々に出しつつ、リョウマとヒュウガ以外の4人が閉じ込められてしまう。
しかし、リョウマが焦る中でヒュウガは冷静に臭みのある植物の匂いをヤートットにマーキングし、その匂いをモークに辿らせるのです。


ここでヒュウガ復活してリョウマが成長したところを安易に見せるのではなく、やっぱり半年の経験があっても戦士としてはヒュウガが上だと示されています。
自信喪失しそうになり、勇太も感情の機微がわかるので思わず遠慮ないことを言うボックの口を閉じるのですが、ここからの展開が見所です。
儀式を進めていたゲルトゲルトはギンガマンに邪魔されないよう死神人形をセキュリティとして備えているのですが、リョウマとヒュウガはこれを突破。
そして二体目を倒したところで、リョウマが本題を切り出します…遂に来ました、本作最大の見所が。


「兄さん、さっきの話だけど」
「星獣剣、返すっていうのか?俺に」
「そうしようかと思ったよ、今日久しぶりに兄さんの凄さ見て……でも兄さん!俺にこのまま星獣剣の戦士として、戦わせてくれせないか!」


ここで一瞬仲間たちにもそしてヒュウガにもリョウマが星獣剣を返上するのではないかとミスリードさせた上で、リョウマの言葉でと声でそれを裏切ります。
星獣剣の戦士であることへの未練が皆無ではないヒュウガの裏の思いも描きつつ、それをリョウマが超えて行くので、ヒュウガの驚きの表情も見事でした。


「前の俺なら、こんなこと考えもしなかった。でも、今なら言える。俺、戦っていけると思うんだ!星獣剣の戦士としてバルバンを倒したいんだ!」


ここでヒュウガは黒騎士の戦いを通して見ていたリョウマの半年間の戦いを思い出し、その成長ぶりを改めて実感しています。
決して完璧とは言えないまでも、常に矢面に立ち星獣剣の戦士としてメンバーたちを引っ張り続けたリョウマは半年で十分に立派な戦士へ成長しました。
特に黒騎士を通して精神的にも大きく成長したリョウマがここで改めて「真のギンガレッド」になる覚悟と決意を固める展開が最高に熱い。
それは戦隊シリーズで見るとまさに「旧世代のレッド」から「新世代のレッド」へ、という世代交代の瞬間でもあるのです。
ここで「ギンガマン」という作品自体が実質の完成を迎えると共にスーパー戦隊シリーズの歴史そのものが大きく変わった瞬間でもあります。


そしてヒュウガは後ろから襲いかかっていた死神を星獣剣への未練と共に人たちで切り捨てます。


「俺が星獣剣を使うのはこれが最後だ!…フッ、成長したなリョウマ。お前が一言でも返すと言えば、俺は取り上げるつもりだった。お前はもう俺の代わりなんかじゃない。ギンガレッドはお前だよ、ハヤテたちにとってもな」
「……兄さん」


ここで正式に星獣剣の資格がヒュウガからリョウマへと継承され、半年間の積み重ねの上で改めてリョウマ自身の意思としてギンガマンを続けたいというのが見事です。
もちろん大枠で見れば「どうせギンガレッドはリョウマでしょ?」とわかってはいても、それをお約束やなし崩しのなあなあで済ませずにしっかり向き合って物語として描いています。
そういったこともあって「ゴーカイジャー」のギンガマン回の下敷きともなっているこの回ですが、鎧とヒュウガではまたリョウマの時と意味合いが異なるのですよね。
また乗り込む時にリョウマがヒュウガを追い抜いていき、リョウマをヒュウガが追いかけるというのも炎の兄弟の関係性の変化としてうまくできた演出です。
そしてゲルトゲルトの儀式を止めるのに使用される最高の必殺技!!


「「炎のたてがみ!!」」


まさに炎の兄弟を象徴する最高のダブル炎のたてがみを描き、その上で助けられたハヤテたちがリョウマが手にした星獣剣を見て、リョウマも屈託のない笑みで全てを理解します。
晴れて真のギンガレッドとなったリョウマがヒーローの顔つきとなり、第一章の頃と比べると見違えるようにかっこよくなりました。


「みんな、行くぞ!」
「「「「おう!!」」」」
「ギンガ転生!ギンガレッド!リョウマ!」
「ギンガグリーン!ハヤテ!」
「ギンガブルー!ゴウキ!」
「ギンガイエロー!ヒカル!」
「ギンガピンク!サヤ!」
「銀河を貫く伝説の刃!星獣戦隊!」
「「「「「ギンガマン!!」」」」」


「ギンガマン!それは、勇気ある、銀河戦士の称号である」


ここで真のギンガレッド就任とともに真のギンガマンが出来上がるという半年間の集大成をこの名乗りに集約させ、ナレーションと共にがっちり決まりました。
そして改めて「銀河炸裂!」という言葉とともに主題歌の二番の歌詞で戦い、ギンガレッドの戦いぶりもそれまでと明らかに違って自信満々です。
ヒュウガも生身バトルで敵を倒しつつ、ギンガの閃光でとどめを刺し、そのまま巨大戦ですが、ギンガイオーが早速閉じ込められてしまいます。
ここでヒュウガが何もできないのかと思いきや、黒騎士の魂が封印されたブルライアットが飛んでくるのです。


「私の力を、星を守る戦いに使ってくれ。ヒュウガ、それが出来るのはお前だけだ!」
「ゴウタウラス!黒騎士……戦おう、一緒に。星を守るために!」


ここでさらにもう一押し、なんとヒュウガもまた「真の黒騎士」へと思いを継承して転生するのでした。
前回のブルブラックの死は決して無駄ではなく、その魂はヒュウガに受けるがれることによって昇華され、最高のカタルシスへ。
ここで良かったのが「一緒に」という言葉であり、黒騎士を「否定する」のではなく「受け入れる」のがいいところです。
否定してしまえば、ヒュウガは自分自身をも否定することになってしまいますから。
そして野牛鋭断でゲルトゲルトを倒し、改めてリョウマたちとヒュウガがチームとなります。


「兄さんが黒騎士に?」
「うん。俺は黒騎士の想いを受け継ぎ、彼と一緒に戦うよ……バルバンと」


このあとは改めて青山親子と一緒に新たなる出発となるのですが、前回、そして今回と描きべきものをしっかり見せてくれて満足です。
思えば第十七章以降パワーバランスとしても物語としても凄まじい加速度で跳ね上がった本作ですが、それに見合う濃密な物語を展開しました。
リョウマがギンガレッド継続、ヒュウガが黒騎士にというのはお約束のコースではありますが、それを安易なお約束にしない持っていき方が絶妙。
ギンガマン5人の超絶的なパワーアップだけではなく、リョウマ自身の心の強さとヒュウガ自身の元々持っている圧倒的な強さを示しています。


その上で、ブルブラックの死を単なる「自己犠牲」ではなく「未来へつなぐための戦い」とし、その魂をひゅうがに継承させることで昇華しました。
これにより黒騎士ヒュウガが単なる「6人目の戦士」ではない存在として描かれており、歴代でも非常に独自性の強いキャラクターとなっています。
また、リョウマの精神的な強さと弱さ、戦闘力の強さと弱さを半年間しっかり描いた上で「真のギンガレッド」になるまでも丁寧に描かれました。
評価はいうまでもなくS(傑作)、降りかかる試練を次々と乗り越えて強さを手にしたギンガマンがここから後半にかけて何を成し得るか、どんな高みに到達するのかが楽しみです。


さて、ここからは完全に個人的な与太話なのですが、本当の意味でこんなに充実した物語を展開できる作品ってシリーズの中でもなかなか珍しいと思うんですよね。
私が戦隊シリーズの中でも特に「チェンジマン」「ジェットマン」、そして本作を傑作と評価しているのはやはり「物語の芯」とその見せ方が完璧だからだろうなと。
もちろん時代性であるとか時の運とか歴史の蓄積とか複雑な要因が絡んできますが、その中でもこの3作はいわゆる歴史の「ターニングポイント」を担っているんですよね。
「チェンジマン」が「ゴレンジャー」から紡いできた昭和戦隊の集大成、「ジェンマン」が80年代戦隊の解体と90年代戦隊へ向けた変革、そして本作が20年分の歴史を踏まえた平成戦隊のニュースタンダード像の形成


それらを決して「玩具販促により人気稼ぎ」ではなく「作品のテーマ」という点からしっかり成しているところが魅力的で、だから今見ても古びない普遍性があるでしょう。
これが00年代戦隊以降になると、そうしたことをある種の「お約束」としてすませるようになり、更に玩具販促を大量に増やすことでとにかく目作の数字稼ぎに終始しています。
そんな中で1年を通して物語を紡ぐのはかえって難しいのかもしれませんね…だから00年代戦隊では面白い作品はあっても新時代の基盤となる作品はなかなか出ません。
というより、もう「タイムレンジャー」まででスーパー戦隊シリーズでやれることをほぼやり尽くして、アイデアが頭打ちになっているのもあるでしょうけど。
リアルタイムで見られたことも含めて、90年代戦隊を原体験としてリアルに過ごすことができたことは、今思えば幸福であったなと思います。


まあそんな与太話はここまでにして、ここからリョウマたちのさらなる快進撃を見守っていきましょう。


第二十七章「ミイラの誘惑」


脚本:荒川稔久/演出:辻野正人


<あらすじ>
ヒュウガが戻ってきてリョウマ、ハヤテと稽古に励む中、サヤは改めてヒュウガに乙女の表情を浮かべる。そんなサヤをからかうヒカルに対して、サヤは本気で怒り殴り合いのすったもんだに発展する。一方バルバンでは死んだはずの黒騎士が生きていたという想定外の事実にショックを受けつつも、次の作戦に移行することにした。その作戦とは魔人モルグモルグに女性の若さを吸い取らせることであり、その途中でヒュウガは女子高生に抱きつかれてしまい、サヤはそんなヒュウガを見て思わずショックを受けてしまう。果たしてヒュウガが女子高生に近づいた意図とは何だったのであろうか?


<感想>
さて、今回からようやく真の意味での3クール目の始まりというところですが、今回は二十一章以来の荒川脚本回というとことで、内容的にはまずまずといったところ。
そもそもサヤメイン回自体あまりいい回がなかったんですけど、この回はサヤの可愛さや純情可憐さよりもヒュウガ兄さんの完璧超人ぶりの方が際立つ構成だったような(笑)
まず冒頭のシーンでの訓練はすごくかっこいいのですが、ここでのやりとりはサヤよりもむしろゴウキとヒカルの反応が面白かったです。


「そりゃあ何たって…」
「何たって、サヤはヒュウガに恋をしてるんだもんな〜」
「え、そうなのか?」
「違うよもう!私にとってヒュウガは優しいお兄さんで、戦士として尊敬できる先輩!」
「へえ、どうかな〜」
「怒るよヒカル!」


ここでヒカルがいたずらっ子精神を発揮し、そこにゴウキが「え?」という反応がとても美味しいのですが、反面サヤの株が一瞬で暴落しました
だってあんなにキラキラ乙女してたと思ったら、からかわれてマジギレして握りこぶしって…うん、「いい女」とは程遠いですね。
というか、そもそもサヤのヒュウガへの憧れというのはスーパー戦隊シリーズだとなかなか掘り下げられない要素ですから。
しかもその方向で行くとやはり兄弟で絆の強いリョウマの方がすごくドラマチックな関係性にありますし。


また他のメンバーとの関係性で見ても、リョウマとはヒュウガをめぐるライバル関係ですし、いわゆる乙女担当はゴウキの女子力が高すぎますし。
ハヤテにはミハルという婚約者とシェリンダというライバルがいるので女関係は間に合ってますし、ヒカルはそもそもサヤとは基本犬猿の仲です。
で、残ったのが勇太くんとモークとボックなのですが、勇太くんは当然リョウマとの関係が最優先ですし、モークは司令官だし人間じゃないから微妙。
となると…やっぱりボックなのでしょうか?個人的にはボックとサヤのマスコットキャラ同士を強化しておけばよかったのではないかという気がしますが。


で、バルバンの作戦は乙女の若さを吸い取ること…うん、まあ荒川脚本らしい作戦だなあと思いつつ、作戦規模が急にショボくなりすぎです
本作は小林女史以外が担当すると、バルバンの作戦のレベルが地球規模からご当地ヒーローレベルに下がってしまうから困ります。
また、女子高生に魔人が乗り移っていたところからのヒュウガとサヤのミスリードに関してもうまく描けていたとは言えませんし。
前回に続き、ヒュウガ兄さんを改めてギンガマンの一員として馴染ませようという努力は見えますし、かっこいいのですが、サヤのキャラ立てには寄与していません。


女子高生との交流という点でも微妙なエピソードで、結局作り手はサヤをどういう方向性に持っていきたいのかいまひとつ見えず。
荒川氏としてもサヤというか、ギンガマン自体が描きにくいヒーロー像だったんじゃないかというのはこの辺りからも伺えます。
そう考えると「タイムレンジャー」の女らしさをばっさり捨てたユウリや「シンケンジャー」のことははサヤの反省があってできたキャラなのだなと。
リョウマとサヤってさりげなく気質が似ているので、この2人をハイブリッドに融合させて侍少女にしたら見事にことはになるんですよね。


評価はD(凡作)、つまらないわけではないのですが、かといって特筆した面白さがあるわけでもなくまあまあなところ。


第二十八章「パパの豹変」


脚本:武上純希/演出:辻野正人


<あらすじ>
勇太はその日ゴウキと共に鈴子先生とデートに向かう予定で、ゴウキに父親の晴彦から教わった恋愛のアドバイスを伝授する。しかし、その様子をたまたま晴彦が見てしまい、ピクニックに行くはずだった自分よりもゴウキと鈴子先生とのデートを優先されてしまったことにショックを受けていた。一方バルバンではダイタニクス復活の魔力を得るために、人々の温かい心を奪い去り洞窟の奥にある結晶へ注入することでエネルギーに変換する作戦を魔人ヒエラヒエラに実行させる。そのヒエラヒエラの罠にかかった晴彦は息子の勇太を邪険に扱うようになってしまい、勇太は今までひどい扱いをしたせいで父親に嫌われたのではないかとショックを受けたが…。


<感想>
相変わらず作戦失敗続きのイリエスにあきれる他はないゼイハブ船長。


「イリエス、どうやらてめぇの手下の魔術とやらも、大してアテにはならねぇようだなぁ」
「そんな、たまたま邪魔が入っただけですわ」
「言い訳する暇があるなら、さっさと魔獣ダイタニクスの封印を解いてみせろ!」


もはや完全に「どうせこいつはダメだろ」と諦めているゼイハブのぞんざいな対応を見るに、サンバッシュやブドーの時とは違って最初から信用残高ゼロところかマイナスの領域に突入しているバルバン。
しかもこれで誰一人としてフォローしないあたり人間関係がめちゃくちゃシビアで、こんな殺伐とした人間関係だから負けてしまうのではないかというのが納得されうる次第です。
唯一の味方は叔父のブクラテスですが、ヒエラヒエラを使い人間の思いやりや優しさを抜き取って111人分集めるというとても非効率な作戦を展開していました…これで本当に復活するんかいな?
そんな中、相変わらず晴彦父をぞんざいに扱う勇太くん。


「約束って!?パパとの約束は?」
「とにかく、今はパパの相手してる暇ないの、じゃあね!」
「じゃあねってそんな!パパを見捨てる気か!?」


勇太が向かった先はシルバースター乗馬倶楽部にいるゴウキ…しかもゴウキと鈴子先生のデートを特別にセッティングしていました。
……うん、あまりにも残酷すぎる人間関係のヒエラルキーが描かれているのですが、おそらく勇太くんの中で優先順位はこんな感じ。


リョウマ>ハヤテたち他のメンバー>鈴子先生>>>(超えられない壁)>>>父・晴彦


ああ、切ない……一番杜撰な扱いを受けてしまうダメ父親・晴彦さん(涙)
ゴウキを待ち合わせ場所へ案内する勇太は父親からもらったアドバイスを伝授する。


「あ!そうだ、そういう時はこうやって手を握って、相手の目をじっと目を見ればいいって……パパが言ってた!」


ここで父親の晴彦のことを何だかんだ信頼している勇太の姿が見えたのがいいところで、しかし父親の晴彦がそれを見てショックを受けてしまいます。
ゴウキをデートに送り出した勇太は家に戻るもヒエラヒエラの罠にかかり人間の心を失った父親らから家を叩き出されてしまう…まあ今までの粗雑な扱いが裏目にでることに。
その勇太はゴウキに泣きつこうとしたところで、ゴウキはギンガブルーとしてリョウマたちとともにヒエラヒエラを迎え撃ち、久々のギンガ獣撃弾を受けて氷となりました。
その後ブルーはまたもや第十章の時と同じように、鈴子先生とのデートに駆けつけるのです。


「なんか前にもこんなことあったような気が……」
「「「「……あ!鈴子先生!」」」」
「え?」


ここで鈴子先生の事情を知らない黒騎士ヒュウガの「え?」という演技が美味しいのですが、戻ったゴウキは道で泣いている勇太を発見。
話を聞いたところ、勇太くんの視点では父親に冷たい対応を取り続けた上に約束を破ったからこうなったのではないかと思い込んでいるところがよくできています。
同時にこれまで「少年」の顔が強かった勇太に「息子」としての顔がきちんと出始めたのがとてもいいところです。
しかし、約束を破った責任はゴウキにもあるから一緒に謝ろうというのはよかったのですが、まだそこまで深い信頼がない鈴子先生に「待っててくれるさ」はどうなのでしょうか?


その後は勇太くんと父親の軋轢から一気に緊張感のある洞窟のシーンへ…ゴウキは勇太のことを放っておけないと追いかけ、リョウマ以外のメンバーも勇太くんを心配しているのがいいところです。
他のメンバーがヒエラヒエラを相手にしている間、勇太は父親の心を取り戻すと意気込み、そこにゴウキが駆けつけてイリエスを食い止めている間に勇太が結晶を体当たりで破壊しました。
すごい、伝説の戦士に弟子入りした勇太が投石→機刃による破壊工作に続いて「体当たり」まで覚えてしまい、このまま行くと素で星獣剣とか使いそうで怖いです。
頼むからそのスキルは戦い以外にの目的で使わないでほしい…間違いっても友達との喧嘩に使ったりしちゃダメだよ。


そして奪われた感情エネルギーは人々の中に戻り、ここでしっかりと勇太が普段は言えない謝罪の言葉を口にし、改めて青山親子の関係が深まりました。
まあこれはいわゆる「失ってみて初めて分かる親子のありがたみ」なのですが、そろそろ晴彦さんの扱いをよくして欲しいと思った絶妙のタイミングできてくれたのです。
その後は黒の一撃とギンガの閃光によってトドメを刺し、さっくりと巨大戦でトドメ、今更ですが「イリエス魔人族はしつこいんだ」がバルバエキスを飲むときの口癖となります。


「パパ、今度は一緒にピクニックに行こうね」
「ああ」


こうして大団円となりますが、ここから鈴子先生に仲間たちが入り混じってのコミカルなオチで、まあ仕方ありません。
そもそもゴウキと鈴子先生との恋愛自体がみんなで応援しようというものでしたからね。
アクションとしてはまあまあでしたが、きちんと青山親子の関係について掘り下げてくれたのはよかったところです。
さらにゴウキと鈴子先生のキャラクターも守られ、今回は月並みながら安心して見られました。
評価としてはB(良作)というところでしょうか。


第二十九章「闇の商人」


脚本:小林靖子/演出:長石多可男


<あらすじ>
リョウマたちは勇太と共に年に一度のギンガの森のお祭りである「星祭り」を行うことになり、勇太も手伝う。その時勇太は「戦士の誓い」を覚えるようヒカルが言うが、ハヤテに誦んずるよう言われると詰まっていうことができない。ヒュウガは戦士の誓いを「覚えることが重要ではなく、戦いの中で実践することが大事」なのだと言う。一方バルバンの方では、闇商人ビズネラが巨大な兵器をバルバンに売りつけようと営業に来ていた。イリエスやシェリンダは「信用ならない」とその慇懃無礼な態度や物言いが気に食わなかったが、あることを条件にビズネラはギンガマン側にとって脅威となる作戦を立てるが…。


<感想>
ここから三十六章まではやや箸休めの回が続くのですが、今回と次回はその中でもちょっと異色の前後編となっています。
というのも鋼星獣の登場に関しては元々の予定になかったことであり、後から判明したことですが、スポンサー側の無理矢理な横入れだったそうです。
あらかじめ話しておきますが、小林女史はこの話が来た時に相当怒って「もう書かない」と自暴自棄になりかけたのだとか。
なんでも「宇宙探査ロボ」として出してくれとのことで、前作「メガレンジャー」の続編「ギガレンジャー」の没案を流用したものだそうです。


そのため、本作はパワーバランスが悪いと言われてるようですが、でもぶっちゃけ00年代以降と比べたら全然マシな方だと思いますね。
次回できちんと明かされますが、無理のない意味づけをしていますし、00年代戦隊なんてある時期以降ひたすらロボット全合体とかって無茶苦茶なことやるじゃないですか。
アルティメットダイボウケンの十体合体とかエンジンオーG12の十二体合体とかサムライハオーとか「もうやめてくれ」と言いたくなるようなものばっかです。
もし「ギンガマン」が今の戦隊の商業的ノルマでやったらギンガイオーにブルタウラスが合体して、更にギガライノスとギガフェニックスも合体するでしょうね、もう物語もキャラの良さもまるで無視して


それこそ「全星獣合体!」とか言い出して、上記したような全合体ロボも真っ青の気持ち悪いデザインのロボットを出すんだろうなと思うと、本当にそんなことにならないでよかった。
98年という玩具販促にばかり阿るようになっていく前の時代の作品だからこそ、どれだけパワーアップしても星獣を全部合体させようなんて無茶なことをしないだけでもありがたい。
話を戻して、そんな感じで作られているのがこのギガライノス・ギガフェニックス編なので、なんとか擦り合わせには成功したものの違和感は多少なりともあります。
まずは星祭りの準備のシーンですが、ギンガマンは故郷を離れてからもこういう風に故郷であるギンガの森の行事を忘れず大事にしているところがとてもいいです。


その中で「戦士の誓い」なのですが、この言葉がまたギンガマンらしさを表していて、実にいい言葉です。


「戦士とは日々においても戦いにおいても、心に平和を忘れず、持てる力全てを惜しまず、諦めず、振り返らず、また、仲間を信じ、苦難と哀しみは受け入れる。全ては星を守る為に」


今回これをヒカルが覚えることで成長に繋がっているのですが、そろそろヒカルメイン回が欲しいなと思っていたので、ここでまたもやヒカルメイン回が来てくれたのは嬉しい限り。
また、この言葉が本当にギンガマンらしく、特に「苦難と哀しみは受け入れる」の部分がね…なるほど、ギンガマンが黒騎士と違い「復讐」に陥らなかったのはこの言葉のお陰です。
マイナスなことや辛いことがあっても、そこで復讐に身を窶すのではなく「それも運命」と受け入れて対処することで、あの非常に気高い超一流の戦士の魂に繋がっているのでしょう。
苦難と悲しみを「あってはならないこと」とするのではなく、それすらも「必要なこと」として飲み込んでしまえる圧倒的な強さこそがギンガマンが凡百のヒーロー作品と違うところです。


一方バルバンの方では宇宙の闇商人ビズネラがジャガーバルカンもどきの兵器を持って来て、星獣たちを葬り去るであろう兵器としてお勧めする。


「それは信用できんな。お前は我々が荒らした星の残り物を漁る、いわばハイエナだ。そのお前がどうしてそんな兵器を持っている?」
「はっはっはっはっは、ところが思わぬ拾い物もあるんですよ。落ちているのは鉄クズだけとは限らないのでね」


ここでどうしてもデザイン的にもキャラクターとしても浮いているビズネラをバルバン側からその出自・背景とセットで語らせることで説得力を持たせます。
そしてビズネラはヤートットとともに街へ繰り出すと、ヒカルとヒュウガを拉致した上で、最強のヒュウガを人質にアースを吸収しようとします。
改めて一対一になったことでヒカルとヒュウガの関係が描かれるのですが、次の台詞のやり取りがとてもよかったです。


「ごめん俺、強がっちゃって……このザマだ」
「弱音を吐くな。戦いは始まったばかりだ」


ヒカルがこんな風に謝る相手はヒュウガだけじゃないでしょうか…あの厳しいハヤテでさえもヒュウガには頭が上がりませんし。
それくらいギンガマン5人にとってヒュウガがいかに絶大な存在であるかがこうした細かいやり取りからも伺えるのです。
まあ泣き虫だったリョウマを覚醒へと導いて来たのですから指導者としてもすごいのでしょうが、思えば天堂竜や志葉丈瑠に足りないのはこうした人心掌握術だと思います。
それぞれ天堂竜が「完璧超人であろうとすることで現実逃避している」、志葉丈瑠が「完璧超人であろうとすることで家臣たちを遠ざけ正体を暴かれないようにする」という違いはありますが。
そういうのが一切なく本当の意味での完璧超人として描かれている黒騎士ヒュウガはやっぱりリョウマと並んで一番好きな追加戦士・番外戦士ですね。


そしてヒュウガはヤートットにボコボコにされながらも、改めてヒカルに戦士の誓いを諭すように、ヒカルの中に染み込ませるように説くのです。


「戦士とは……日々においても戦いにおいても、心に平和を忘れず、持てる力全てを惜しまず、諦めず、振り返らず、また、仲間を信じ、苦難と悲しみは受け入れる」
「苦難と悲しみ……」
「そうだ、全ては星を守るために」


ここでヒカルが出した答えはアース吸収装置を破壊し、自決するという、本作らしくない「自己犠牲」が描かれているようでした。
翌日に再び現れたビズネラ相手にしっかりと啖呵を切り、リョウマとは別の形でグングン成長しているヒカル、めちゃくちゃカッコよかったです。
それと同時にこのヒカルとビズネラの因縁もまた終盤で重要な要素となってくるので覚えておきましょう。
止むを得ず、ビズネラはヒカルを解放するのですが、ここでヒカルがアースを放つ意味が第四章とまるで違うものになっています。


第四章では自分のためだけにわがままで使っていたアースですが、今回は仲間のため、何よりヒュウガのために行ったことでした。
もう半年も戦い続けたことで自然とヒカルも他者のために地球のために戦い続けることができる戦士へ成長していたということでしょう。
改めて戦士の誓いを誦んずるヒカルがこれまた素晴らしい。


「戦士とは……持てる力、全てを惜しまず、諦めず、振り返らず……」


ここでヒカルは待ってましたとばかりに渾身の蹴りを入れて奪われたギンガブレスとブルライアットを取り返します。
そう、やっぱりヒカルは自己犠牲のためではなく、仲間のため、ヒュウガのために戦ったのです。


「また、仲間を信じ!はあ!!」


ヒカルがアースを高々と空に掲げてリョウマたちに知らせ、そして改めてビズネラを雷のアースで吹き飛ばしギンガ転生!


「苦難と哀しみは受け入れる――銀河転生!」


そしてキバナイフでヒュウガを助け出したギンガイエローはヒュウガにブルライアットを渡す。


「…全ては星を守るために。これでいいだろ?」
「ああ、上出来だ。騎士転生!」


ここでヒカルが言葉の重みを1つ1つ噛み締めつつ、苦難と悲しみを受け入れつつ、でも決して「自己犠牲をしない」形でヒカルの成長を描いたのが見事です。
前半はどこか「俺が俺が」な面もあり、お調子者の側面もあったヒカルが今回ヒュウガというハヤテの完全な上位互換と組んだことで甘さがなくなりました。
逆にいうと、ヒカルはようやく精神的にリョウマと対等の域に来ているというか、かつてリョウマが立っていたステージへ来たということです。
つまりハヤテの説教をもう必要としないほどに精神が成熟し、合流しても調子に乗ることなく宣言しました。


「星祭り、出ないで死ねるかって…せっかく戦士の誓いを覚えたんだからさ!」


少年っぽいあどけなさを残しつつ、やはり死を厭わない自己犠牲ではなく星祭りをみんなで一緒に見るため、未来のためにヒカルはあの行動に及んだのです。
そしてビズネラは改めてヤートットを呼び出し、リョウマの「銀河炸裂!」という合図とともにいつもの燃えるバトル。
肉弾戦はどうかと思われたビズネラですが、意外にも強く、これはもう完全にブクラテスの上位互換が出ましたね。
智略も作戦も一切の無駄がありませんし、かといってブドーみたいに周囲から反感を買うような立ち居振舞いもしませんから。


そしてここが今回すごかったのですが、ビズネラはやられる振りして黒の一撃とギンガの閃光の強力なエネルギーを吸収するという神業を披露しました。
ええ、星獣復活のエネルギーを吸収しようとして失敗したサンバッシュとは雲泥の差です、哀れなりサンバッシュ。
同時にギンガの閃光が初めてトドメを刺せなかった瞬間でもあり、ここで必ずしも無双ではない形で持って行ったのは見事です。
毎回毎回ギンガの閃光が無敗を誇っていたらそれはそれで面白くありませんからね。


そして、星獣たちはギガライノスとギガフェニックスと戦うことを拒否し、改めて彼らも星獣であることが明かされました。
だからコントローラーのエネルギーとしてアースを必要としていたという展開もうまく、次回へ引き。評価はA(名作)でしょうか。


第三十章「鋼の星獣」


脚本:小林靖子/演出:長石多可男


<あらすじ>
闇商人ビズネラがバルバンに高額で売りつけたのは鋼星獣のギガライノス・ギガフェニックス・ギガバイタスである。星獣を兵器に改造した挙句、同じ星獣同士戦わせようとするビズネラのやり口にギンガマンは深い悲しみとともに怒りを感じていた。ギンガマン側を追い詰める手柄を立てたビズネラは一気にゼイハブの信用を勝ち得て、コントローラーをイリエス魔人族のバルキバルキに預ける。リョウマたちは今日が星祭りの夜であることを思い出し、そんなお祭りの日に星獣同士で殺しあっていいはずがない、きっとギガライノスたちにも星を守る心が残っているはずだとし、鋼星獣を元に戻そうと奔走するのであった。


<感想>
さて鋼星獣の後編ですが、ギガライノス・ギガフェニックス・ギガバイタスはバルバンに滅ぼされた星の星獣の残骸を回収して兵器としたものでした。
ここでいわゆる「仮面ライダー」「ジャッカー電撃隊」のようなサイボーグヒーローを星獣に持って来たところが見事です。
五星獣ともゴウタウラスとも違う「鋼の体にされてしまった星獣たち」というアンチテーゼとしてうまく機能しました。


「かつては星の為にバルバンと戦った星獣たちも、今や私の操り人形」


ビズネラが前回に引き続き、なぜバルバンと闇取引ができるほどの悪党なのかがこの台詞回しからも補強され、同時にバルバンが裏世界でそういう取引をしていたことも判明。
ここで星獣たちを倒さない理由も「商談を成立させるため」という一線の引き方がしっかりしていて、そのあと見事にゼイハブ船長たちから気に入られました。
ちなみにイリエス自身はビズネラを高く評価したからというより、「金貨が倍になるから」という理由で受け入れてしまうのがもう強欲塗れな彼女らしい。
その後コントローラーは緑の大猿バルキバルキに預けられるのですが…えーっと、こいつどう見てもサンバッシュ系の脳筋ですよね?
基本的にねちっこい変化球タイプが多いイリエス魔人族の中で、久々にやられ役な感じの脳筋な敵が出てまいりました。


一方ギンガマンは元星獣たちを操ったビズネラへの怒りとともに、改めて同情し、星祭りの意味と絡めて星獣の意味を再定義します。


「今夜は星祭りだったな」
「星獣は星から生まれる、星を守る為に。そして何千年もの間には死んでいった星獣もたくさんいる。でもそんな星獣たちの心は死なない!きっと生きてる…そう信じて、星を守る全ての心を一つにして、平和を願うのが星祭りなんだ」
「心を一つに?」
「その飾りは星獣や戦士たちの心を繋げた象徴だよ」
「そんな日に、殺し合っていい筈ないよ。星獣が、あの星獣たちだって、きっと悲しんでると思う」
「ああ」
「助けよう!あの星獣達を!なんとかして元の、星を守る星獣に戻すんだ!」
「……星獣達の心は死なない」


ここで改めて初期から提示されている「ギンガマンと星獣の絆」をきちんと示してくれたのはよかったところで、本テーマではないにしても「星獣あってこそのギンガマンと黒騎士」というのがよかったところです。
第七章でギンガイオー誕生に際して自在剣機刃をギンガマンと星獣たちの心の絆として機能させてくれたのですが、そこでもう1つゴウタウラスや鋼星獣の心を結びつける象徴に星祭りを持って来たのがベスト。
ただ、ここまではすごく良かっただけに、鋼星獣を説得して仲間にするくだりが物凄く雑に処理されてしまったのは小林女史の大変よろしくない一面が出てしまったところです。
これは後年の「タイムレンジャー」「シンケンジャー」でも出てくる弱点なのですが、小林女史はキャラクターのドラマはとてもいいのですが、巨大ロボの玩具販促は致命的なまでに不得手だなと。


だって、必死に感情で訴え続けたら仲間になりましたって、そんな甘いものじゃないでしょう…それってスパロボで言うなら東方不敗レベルの救いがない悪党をたった一回の説得であっさり味方にするあり得なさです。
本作は何度かこういう「奇跡」を肯定して来ましたが、それを実現するためには何かしらの重い代償が必要であり、常に「痛み」を伴うものでした。
具体的に列挙すると以下のような感じです。

 


こんな風に本作は常にストレスとカタルシスがセットになっていて、何か大きいものを得ようとしたり、大きなことを成そうとしたりする際には常にヒーロー側が何かしらの代償を払っています。
しかし、この鋼星獣が仲間になるに際しては鋼星獣側は重い代償を払っているにもかかわらず、肝心のギンガマンと黒騎士が代償を払っていないというのが悔やまれるところ。
元々予定になかったために小林女史もどう書いていいかわからなかったのでしょうが、前回と今回の冒頭までがすごく良かっただけに、この後が盛り上がりに欠ける展開となってしまったのは残念です。
本作は歴代戦隊の中でも特に「物語による積み重ね」を重視しているので、この点がきちんと鋼星獣側にも適用されなかったのはなんか嫌でした。


で、鋼星獣ですが…えーっとこれはあれですか?


ギガライノス?

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ギガフェニックス?

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ギガバイタス?

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昭和特撮ロボのオマージュを持って来ているのですが、これで動物っぽいデザインまで似せており、しかも特撮もモーフィングから、それぞれの元星獣のモチーフと重ねているのは良かったです。
反撃のカタルシスはすごく良かったので、そこに至るプロセスが本作らしくない雑な展開だったのはどうにもなあと思ってしまいます。
ラストの星祭りで改めて6人+勇太で「戦士の誓い」を斉唱するところは良かったんですけどね…で、失敗したビズネラは脳筋のバットバスと徒党を組むことに。
ここから第4クールへのさりげない仕込みが行われたところで次回へ続きますが、評価としてはなんとも微妙でE(不作)といったところかな。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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