『五星戦隊ダイレンジャー』(1993)総合評価

 

導入文

(1)歴代最高の名乗りのキレとアクション

(2)川村栄二氏のシュールさ溢れる音楽

(3)各メンバーの個別回はあるが縦糸のストーリーがない

(4)終盤の展開でストーリーが大崩壊

(5)「ダイレンジャー」の好きな回TOP5

(6)まとめ

 


導入文

スーパー戦隊シリーズ第17作目『五星戦隊ダイレンジャー』は前作「ジュウレンジャー」の好評を受け「ファンタジー戦隊」の第2弾として作られました。
そして同時にシリーズ中でもかなり賛否両論分かれる作品であり、あまりにも長所と短所が両極端なので、それが今日でもなお評価を難しくしているところです。
ちなみに当時はまだ「ゴレンジャー」「ジャッカー」が戦隊シリーズに含まれていなかったので、シリーズ15作目という節目でもあったと羽村英氏が語っていました。
その意味で本作は良くも悪くもとことんまで突き抜けた作品であり、後に東映特撮の重鎮となる白倉Pが全てのサブタイを考えていたとも言われています。


そんな本作ですが、「マスクマン」で提示された中華拳法とオーラパワーをさらに洗練させた気力と拳法主体のアクション、さらに中国の伝説の獣をモチーフにした気伝獣も出ています。
更にその気伝獣を呼び寄せるだけではなく終盤でメインアイテムとしても機能した天宝来来の珠など、前作以上に神秘的な要素が増えており、ストーリーにもやや複雑さが増しているのです。
そして何と言っても5人のメンバーそれぞれに因縁の相手がいて、その相手との交流を通してキャラを掘り下げていくという試みがなされていったのも本作が初めてでした。
こうした手法はのちのシリーズにも取り入れられており、それを実験的に検証してみせたのは成功の可否としても大きいのではないでしょうか。


そんな本作ですが、私は本作に関しては「グリッドマン」とともにリアタイで全話を視聴しており、未だに心の中に焼き付いていますし、ロボット玩具も全部買ってもらいました。
評価の良し悪しを別とすれば、単純な好みでいうとかなり好きな方で、しかし評価としては辛口にならざるを得ないという辛さがどうしても本作にはつきまとってしまいます。
それではそんな本作の魅力と欠点について語っていきましょう。


(1)歴代最高の名乗りのキレとアクション

まず何と言っても本作最大の特徴は歴代最高峰の名乗りのキレとアクション…これに尽きるのではないでしょうか。少なくとも以後の作品でここまでのクオリティのものはまずありません。
バラエティ番組「アメトーーク」の戦隊について語る回でもクローズアップされていましたし、またアニメ「ガールズ&パンツァー」でもこの名乗りがパロディとして使われています。
更にそれだけではなく、この名乗りを最後は役者さんたちが生身で行っており、「カーレンジャー」を経て00年代以降スーパー戦隊シリーズのお約束にもなっていくのです。
本当に名乗りだけでここまで芸術的な価値を生み出せている戦隊は他にないと思える分、実際にやってみるとこれが難しく、私はどうしてもキリンレンジャーで挫折してしまいます。


そして中華拳法を売りにしたアクションですが、本作は前作より更にアクションも特化してみせており、一対一の対決がとにかく映えます。
中でもリュウレンジャー・亮と魔拳士・ジンの因縁の対決は見応えがありますし、キリンレンジャーの酔拳の回などは今見直しても面白いですしね。
また、中盤では指輪三官女との対決でテロップが出るなど凝った演出が見受けられ、こうした香港のアクション映画を意識したアクション対決もまた見どころです。
「マスクマン」の不満点として変身前と変身後のキャラクターの結びつきの弱さがあったので、本作は完全に拳法に絞って見せてくれました。


ただ、それはいいのですが、「戦隊」として見た時には微妙に感じられる部分もあり、一対一の対決ばかりがメインになると戦隊のキモである「チームワーク」「団結」が疎かになりがちです。
実際本作ってメンバーが全員集まる回以外では個人で戦うことが多く、チームプレーで敵を倒すことがあまりにも少なすぎるという欠点もまた浮き彫りになりました。
「個」を際立たせるために「全」がないがしろにされてしまっている部分もあり、アクションについては必ずしも諸手あげて褒めることはできません。


(2)川村栄二氏のシュールさ溢れる音楽


2つ目に、本作と次作「カクレンジャー」を担当した川村栄二氏のシュールさ全開の音楽もまた本作独自の世界観の構築に一役買っていると言えるでしょう。
川村栄二氏と言えば「仮面ライダーBLACK」「仮面ライダーBLACK RX」「冥王計画ゼオライマー」などが有名ですが、とてもシュールな不気味さを醸し出した音楽が特徴的です。
そんな川村氏の音楽は本作のこの胡散臭い世界観にぴったりとハマっており、主題歌をはじめとして楽曲はどれも高いクオリティのものばかりと言えます。
中でもダースベーダーのテーマをパロディした楽曲や切なさ溢れる時に流れるBGMなどは本作独自の熱さを演出するのに最高の音楽です。


主題歌もOP、ED共に歌詞やシャウトこそ熱いのですが、リズムやメロディ自体は熱いというよりはシュールという言葉が似合います。
胡散臭い演出との兼ね合いもあるのですが、本作はこの「胡散臭さ」こそが作品を語る上でのキモです。
川村氏の音楽があったからこそ、本作の世界観が他の作品にはない独特の味・雰囲気を出すことに成功したのでしょう。


(3)各メンバーの個別回はあるが縦糸のストーリーがない


そして本作をストーリーとキャラクターから見ていった場合の特徴は各メンバーの個別回はあるものの、年間を通した縦糸のストーリーがないということです。
いわゆる前作「ジェットマン」のような連続性のある大河ドラマ方式でもなければ、「ジュウレンジャー」のようなどこを切り取っても同じ金太郎飴方式でもありません。
横軸のキャラ個別回を定期的に持ち回りで進めていき、各キャラクターをきちんと深めて成長させていくという独特の作劇を行っているのです。
このような形式を採用した例はスーパー戦隊シリーズはもちろん仮面ライダーシリーズでもウルトラシリーズでもほとんど見られない稀有な例でしょう。


なぜこのような極端なスタイルを取ったのかというと、前作「ジュウレンジャー」で浮き彫りになったのが5人のキャラクターの希薄さにありました。
追加戦士と敵のボスクラスは印象に残る一方で、どうしても戦隊メンバー5人のキャラ立てという基礎基本がおろそかになりがちだったのです。
かといって、従来の方式だとレッドばかりが最終的に目立つので、脇のメンバーもまたレッドと同じくらいの扱いにして格差をなくそうとしたのでしょう。
実際それは3クール目あたりまでは功を奏し、亮と陣や大五と孔雀、将児と三馬鹿などキャラクター立てはしっかり立っていきました。


ところが、そういう方式のデメリットとして、脚本家同士の連携が取れておらず、整合性や前後のつながりが全くないという欠点が浮き彫りになったのです。
しかも、それを最終的にまとめるはずのメインライターである杉村升氏はうまくまとめきれず、最終的に5人のキャラクターがストーリーごと崩壊しました。
こうした年間の縦糸を置かないという極端なスタイルを取ったせいで終盤はとんでもないことになってしまうのです。


(4)終盤の展開でストーリーが大崩壊


結局終盤の展開で「ダイレンジャー」はうまくまとめきれないまま物語をたたむことができず、チームとしてのステップアップも不可能でした。
まず彼らの指導者である導師が無理矢理メンバーたちからオーラチェンジャーと天宝来来の珠を奪ってゴーマに寝返る展開からして説得力がゼロです。
その上、導師はなぜかダイレンジャーたちが最終的になんとかしてくれるだろうと一方的な期待をかけて、シャダムとの一騎打ちに臨みます。
その勝負で容赦なく圧倒していたにも関わらず、トドメをささずに真っ向勝負にこだわろうとして結果殺されてしまうのです。


もうこの時点で意味不明なのですが、さらにそんな導師が今度は「戦いをやめろ。永久に決着はつかない」と言い放ちます。
なぜならばダイ族もゴーマ族も元は1つの力であり、同じ力をもとにしている以上戦いが繰り返されるからなのだとか…。
確かに序盤でもとが1つだったことは説明されていますが、もしそうだとするならこの戦いは最初から「生存競争」ということになります。
どちらかが滅ぶまで続けられるのですから、決して世界の平和を守るとかそんな感じの戦いではないのです。


なぜこんな結末にしたのかというと、結局作り手としては予定調和に収まることを避け、さらなる道を行こうとしたのでしょう。
指導者がいなくなり、自分たちで決断して戦わなければならないという…しかし、その結果が無限ループというのでは説得力がありません。
結局ダイレンジャーが戦いを放棄したのも導師にそう言われたからであり、全員導師の言うことを聞くだけのいい子ちゃんから抜けられなかったのです。
この辺は「カクレンジャー」「オーレンジャー」でも露呈する構造的欠陥なのですが、「ダイレンジャー」ではそれが余計に目立ってしまっています。


結果として、作品共々最終的にはまとめ方で大失敗ということになってしまい、流石にこんな極端な作劇はしなくなりました。
ただ、もうこの時点で既に杉村升先生の脚本の限界、そしてスーパー戦隊シリーズそのものの弱点が露呈していたと言えます。


(5)「ダイレンジャー」の好きな回TOP5


それでは、そんなダイレンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。

 


各メンバーの個人回から選出しましたが、5位はキリンレンジャーメイン回では一番面白く、私もこの回を見てめっちゃ豆腐を食いたくなりました。湯豆腐と酒はマジで最高です。
4位はホウオウレンジャーメイン回では一番面白く、アイドルものが大好きな荒川脚本の中では一番まとまっていて、ラストのガラをグーパンで殴るとことか最高でした。
3位はテンマレンジャーの集大成である40話ですが、三バカとの熱い絆を積み上げてた将児の熱さとザイドスのズルさが光った名作回です。
2位は我らがシシレンジャーのメイン回ですが、惚れた女のためにあそこまで一直線になれる大五さんの男前さとクジャクの儚さが印象的でした。
そして堂々の1位はリュウレンジャーのメイン回にして陣と最高の名勝負を繰り広げた回であり、この回でやっと亮に最高のライバルができて「これぞダイレンジャー!」と呼べる一品です。


ダイレンジャーは総合評価は微妙であるものの、脇のエピソードが充実しているので、こういうときに選びやすくていいですね。そして完全空気のコウ…ごめんよ、君のことは全く覚えてないんだ。


(6)まとめ


本作は前作「ジュウレンジャー」までの流れを受けて、より尖った作風を志向した感じはあり、それが長所と短所で両極端に出てしまいました。
ファンもそれを受け止めた上で本作を楽しんでおり、私も終盤を除けば結構好きな回はあるので、本当にこれで縦糸のストーリーさえしっかりできてればと悔やまれます。
ビジュアルやキャラクターなどはよくできている分、ストーリー面やメカニックの方で今一つ面白さを出せなかったのは惜しいです。
総合評価はC(佳作)、前作同様に傑作になりうる要素を秘めていながらそれを生かしきれなかったという感じでしょうか。

 

 

五星戦隊ダイレンジャー

ストーリー

F

キャラクター

C

アクション

S

メカニック

C

演出

B

音楽

S

総合評価

C

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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