『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)7〜12話感想まとめ

 

Task7「火竜(サラマンダー)のウロコ」

Task8「アトランティスの秘宝」

Task9「折鶴の忍者」

Task10「消えたボウケンレッド」

Task11「孤島の決戦」

Task12「ハーメルンの笛」

 


Task7「火竜(サラマンダー)のウロコ」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
リュウオーンの命令で互いに戦わせられ、最後に生き残ったジャリュウは、新たな力を得、邪悪竜・ドライケンに変化し、その能力をボウケンジャーに見せつけ、悠々と去っていく。 残されたボウケンジャー、暁の脳裏には最近読んだ小説の一節が浮かぶ。暁は手掛かりを求めて、小説家・香川慈門のもとにむかうのだが…


<感想>
「私はずうっと英雄を書いてきた。どんな厳しい自然とも、困難な状況とも戦う英雄……だが、見渡してみたまえ、英雄なんか居ない。困難にくじけて立ち上がれない、自分が幸せなら周りはどうでもいい、そんな人間ばかりだ。私は気付いたんだよ……人は古代から強大なドラゴンの存在を想像してきた。人類は憧れているんだ。全てを破壊してくれるドラゴンに。だから私は書く。冒険もない、英雄も居ない時代など滅ぼしてしまえと」


かつて「フラッシュマン」で世界を滅ぼそうとした人(中の人つながり)が言うとえらくリアリティのある台詞になるから困ります(苦笑)
でも作家として負に落ちる人って多かれ少なかれ絶望を唱え始めるという……まあ典型的なのは太宰治の「人間失格」などがそうでしょうか。
今回の話は「ボウケンジャー」序盤の傑作回となりますが、會川先生にとっても思い入れの深い回だったそうで、その熱量が画面を通して伝わってきます。
まさかチーフが冒険者を目指したきっかけが好きな作家の小説だったとはねえ……しかものっけから菜月と真墨に没収されているという緩さ。


あー、何となくですけど、チーフっていわゆる「冒険においては無敵だけどプライベートでは隙だらけの緩い生き物」ということでしょうね。
この特性はいわゆる「ヒーローだって所詮人間」というのを打ち出した「ジェットマン」のレッドホーク/天堂竜がその原点となっています。
いわゆる「強いヒーロー性と引き換えに人間力が低すぎる」というのは「ゴーゴーファイブ」のゴーレッド/巽マトイが近いですが、チーフや殿もその系譜です。
敵側のリュウオーンもより存在感が濃くなり、演出的にも今回は「火」「爆発」といった「赤」の要素が色濃く盛り込まれています。


今回は終盤まで活躍するボウケンジャー側の必殺武器「デュアルクラッシャー」のお披露目でもあるのですが、チーフのキャラ立ちと共にそれをやっているのはよかったです。
冒頭シーンで相変わらずイエローやブルーがその実験台にされていましたが、反動があるとはいえ終盤はこれを生身で使えるようになるのだから、間違いなくボウケンジャーもプロフェッショナル戦隊でしょう。
そんなところも打ち出しつつ、チーフが改めてプレシャスと火竜のウロコを使ってアクセルテクターという強化武装を作り上げるというのは非常にロジカルなパワーアップとして秀逸。
これがあることでプレシャスが単なる「秘宝」というだけではなく、自軍のパワーアップアイテムとしても使うことができることで、サーサジェス側のブラックぶりオーバーテクノロジーな理由にも説得力を出しています。


これはTask11で明らかになりますが、そもそもボウケンジャーのゴーゴービークルをはじめとした装備一式自体があるプレシャスを元に作られたものなので、その回に向けての伏線も兼ねているでしょうか。
そして肝心要のデュアルクラッシャーはまずコンクリートで敵を動けなくしてからドリルで粉砕するという長浜ロマン三部作の超電磁スピンや超電磁ボールVの字斬りを彷彿させるような技でした。
こういう二段構えの必殺武器というのは殺傷力が非常に高い反面対策もされやすくなるのですが、改めてプレシャス回収のためならトンデモ武装を平気で開発するところがサージェスの恐ろしいところです。
巨大メカ戦を前半で盛り込んだ分後半は等身大戦やらドラマやらに尺を割いており、かなりわかりやすくやっと本作のバックボーンとなるものが見えてきました。


やっぱり戦隊レッドのキャラ付けが面白くないと作品全体も面白くならないと思うので、その辺りも含めて本作はやっとこれまでに仕込んできた要素がガチッとハマった気がします。
その香川先生に対するチーフの言葉がもはや會川先生の本音がダダ漏れです。


「あの化け物達を生み出したのは私ではなかった。やはり小説など現実には何も生み出さないんだな」
「香川さん。人類はドラゴンを想像(創造)する時、ドラゴンを倒す英雄もまた想像(創造)してきました」
「ああ」
「あなたの小説で英雄を目指した子供がたくさん生まれた。その子供たちは確かに現実です」
「英雄、或いは冒険者か」


會川昇先生は「機動戦艦ナデシコ」しかり「レボルティオ」しかり「メタフィクション」を題材にしてこそ本気を出す作家なのですが、今回はそれがかなりどストレートに表現された回となりました。
これまで何処と無く「大人の詭弁」としか思えなかったチーフの冒険魂がいわゆる「立派な正義感」ではなく「幼少時代の「好き」を拗らせた個人的執着」でしかないのがとても面白い。
普通のヒーロー物というか戦隊ならそこで「普遍的なヒーロー論」へ繋げてもおかしくないところを、本作では「オタクの詭弁」にすり替えて徹底的に押し通すのが特徴でしょうか。
荒川先生が書くアイドルものとはまた別の意味で好き嫌い別れるだろうなあという會川先生の趣味が炸裂していますが、日笠Pはじめよくぞこんな内容にオッケーしてくれたものです。


よって総合評価はもちろんS(傑作)ですが、この回でチーフの心が所詮小学校低学年レベルで止まってしまっているということが明るみに出てしまいました(^^;
チーフはファンからいわゆる「頼れるリーダー」として評価されることが多いようですが、本質はむしろ8歳までで心が止まってしまっているといえます。
その癖大人の言葉遣いとか親父臭さみたいな妙なところばっか昭和体質なものだから、こりゃあ誰も手がつけられんわなと。


Task8「アトランティスの秘宝」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
ゴーゴーマリンは海底で未知の金属・オリハルコンを発見したが、同じくプレシャスを狙うゴードム文明・大神官ガジャとの激しい戦いが始まってしまう。なんとかプレシャスを確保したボウケンジャーだったが、ガジャは無気味な言葉を残す「ヴリル…」と。一方、牧野先生はオリハルコン確保にに大喜びだが・・・


<感想>
今回の見所はボウケンメンバーのファッションセンスのなさ!(笑)


時代と言ってしまえばそれまでですが、真墨は明らかに中二病丸出しの黒ずくめですし、チーフとさくら姉さんはファッション雑誌を読んですらいないのがバレバレのカジュアルな服装という。
ああそうか、本作においては「ヒーロー性」と「人間性が」比例ではなく反比例の関係にあるということなのか……冒険以外のことももっとちゃんと勉強した方がいいと思います。
普段のジャケットというか制服みたいなのは似合っているんですけど、致命的に私服のセンスが壊滅的というか、もうちょっとこのあたりはお洒落に気を遣って欲しいところです。
そういえば「カーレンジャー」以来の私服戦隊であった「シンケンジャー」の私服がカジュアルながら様になっていたのは本作の壊滅的なファッションセンスを受けてのものでしょうか。


内容的にはありがちな「偽物」ネタなのですが、プレシャスがマトリョーシカ方式のもので、目の前のものを何でもコピーして量産するというアイデアはありがちです。
しかし、そこから蒼太VS蒼太という生身アクションへ持っていき、またその生身アクションも三上真史氏自体が空手をやっていたこともあって、非常にキレのいい動きをしています。
まあ流石に「トッキュウジャー」の志尊淳君や横浜流星君ほどではないにしても、やはりこういう生身アクションがあると「強い」という印象を見せられていいですね。
ただなあ、個人的には真墨が菜月に執着している描写は個人的に受け入れづらく、「適当にほっとけよ」と思ってしまいます。


真墨自体は本作で好きなキャラですし菜月も嫌いじゃないのですけど、当時からどうにも気に食わなかったというか割と謎なのは「どうして真墨は菜月にそこまで執着するのか?」ということです。
これだけは本当によくわからなかったところで、私自身が対人関係ではそこまで執着しないせいかどうにも真墨が今ひとつ情けなく見えてしまうような描写は気に入りません。
男をダメにする要素の1つが「女」であり、それは「ジェットマン」でも語った通りなのですが、本作もそういう意味でチーフとさくら姉さんしかり、真墨と菜月しかりメンバー内の男女関係はあまりときめかないです。
思えば「ジェットマン」のあれは単なる「恋愛」では済まされない人間関係の描写が秀逸だったのですが、ほとんどの戦隊は戦隊「内」よりも戦隊「外」恋愛の方がうまくいくように思います。


アクション回とボウケンメンバーの壊滅的な私服センス以外はドラマ性として濃いものはなく、蒼太の「知性派と見せかけて実は肉体派」を見せたかったのでしょうが、描写のせいで寧ろ蒼太が間抜けになってしまいました。
いくら集めたプレシャスが予測のつかないものだからといって、私物のパソコンを開きっぱなしで研究室に向かうのは流石にありえないので、今ひとつ管理の甘さが目立ってしまいます。
総合評価はB(良作)、前回が突き抜けて面白かった反動も少なからずありますが、この内容ならもっとしっかり内容を詰めて欲しいところです。


Task9「折鶴の忍者」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
江戸時代に国禁を犯して貿易を続けた冒険商人・唐物屋波右衛門が残した珍品のひとつ「波右衛門の人形」をサージェスは長年の交渉を経てついに譲り受けることになった。 ミスターボイスの指令で人形を受取りにいったボウケンジャーだが、そこにはすでにサージェスを名乗るひとりの女性が…。


<感想>
今回からTask11までは三部作であり、実質的な基礎土台固めということで、かなりカロリーの高い回が続きます。
やはりTask7でチーフのバックボーンをしっかり掘り下げたのが良かったのでしょうか、會川先生もやっと戦隊シリーズに馴染んで来たなあというのがわかる回です。
その第一弾が闇のヤイバですが、今回は真墨のバックボーンに焦点を当てており、1話からかなり尖った感じを出していた真墨のキャラがしっかり描かれたのはとてもよかったところ。
そんな真墨の過去ですが、チーフと違って「自分が原因で壊滅させてしまった」のではなく「不可抗力の存在によって壊滅させられた」というのが大きな違いでしょうか。


真墨を見ていると「菜月に対してデレデレ」以外は私と割と近い部分があるなあと感じていましたが、トレジャーハンターとしての小さい頃の過去は私が小さい頃に近い感じです。
そんな彼と闇のヤイバの一騎打ちが今回の見どころだったのですが、うん、今週配信の「ニンニンジャー」の天晴と蛾眉の一騎打ちを見た後だけに、とんでもない大傑作に見えてしまいました。
同時配信の恐ろしいのはこういうところで、本来であれば「普通に面白い」レベルのものが同時で見ることによって「とんでもない大傑作」にまで昇華されてしまうことがあります。
今回のボウケンブラックと闇のヤイバの一騎打ちは双方のキャラクターのバックボーンがしっかり乗っかった上で、今後も非常にいい展開をしてくれるであろう名勝負です。


基本的に私は戦隊シリーズでは二番手のブラックやブルーより主人公のレッドが好きなのですが、本作に関してはどうしてもレッドのチーフより二番手の真墨の方に思い入れが発生してしまいます。
さて、そんな彼の活躍が描かれていたのですが、リアルタイムから疑問に思っていたのはどうして保護者のようにしてチーフが後ろで見守っていたのか?ということです。
4話でチーフがかつての冒険仲間を喪失した過去が描かれていたことと併せて考えると、多分大きな理由として「真墨の戦いが「復讐」にならないようにするため」ではないでしょうか。
終盤の展開まで知った今だからこそというのはあるのですが、真墨の心の闇はヤイバの存在によって発生したものなので、下手すればそれに呑まれかねない可能性があります。


復讐を明確に否定した戦隊シリーズ史上の大傑作である『鳥人戦隊ジェットマン』と『星獣戦隊ギンガマン』を経て、以後のスーパー戦隊シリーズはいかにして「復讐」によらない戦いをするかに腐心していました。
特にこういう「過去の因縁」という要素がある宿命系の戦隊の場合はよりその「復讐」という要素が乗っかりやすい反面ストレートにそれを描くと露骨にダークな作風となってしまうのです。
そしてそれはスーパー戦隊シリーズのみならず、「同族殺し」を本テーマとしている「仮面ライダー」から抱えていた要素であり、仮面ライダー/本郷猛の戦いだって見方を変えれば「復讐」と言えなくもありません。
だってそうじゃないですか、自分の体を勝手に改造して世界征服に利用するなんて本郷猛のように人間の自由を愛する純粋な青年からすればそれは自分の意に反することなのですから。


市川森一氏がなぜ仮面ライダーのテレビ版制作に際して「人間の自由のためにショッカーと戦う」というキャッチフレーズを考案したのかというと、理由の1つは「復讐の否定」にあったでしょう。
もしその大義名分がなくて、単に「自分の体を勝手に改造して自由を奪いやがった奴らだから殺す」となればそれは単なる復讐鬼の物語になってしまうわけであって、そこを本郷や後付けで入った一文字にはさせていません。
思えば、続編の「仮面ライダーV3」で風見志郎や結城丈二を通して「復讐」というテーマと向き合って描いたのも、おそらくその辺りのことと決して無縁ではないでしょうし。
実際その後もXやゼクロス、BLACKなど昭和ライダー全体が抱えていた戦いの動機の1つに「復讐」があって、いかにしてその「復讐」を避けながら戦うか?ということにありました。


この仮面ライダーにおける「復讐」という要素はまた別で記事を書きますが、話を戻すと本作の闇のヤイバやそいつと繋がっているシズカが忍者モチーフなのもその辺りと繋がっているのかもしれません。
そもそも仮面ライダーの「敵組織からのドロップアウト組」という発想やライダーのデザイン自体が白土三平先生の「カムイ外伝」などに代表される「抜け忍」というところに着想を得たものです。
しかも奇妙なことにこの時代はちょうどジャンプ漫画の「NARUTO」でもサスケが抜け忍として木の葉の里を裏切って暁側についたということが大きな話題となった時代でした。
そういう時代性のようなものも取り入れつつ、チーフという冒険バカを挟むことによって真墨と闇のヤイバの戦いが「復讐」に陥らないようにチーフをバックとしてつけたのでしょう。


スーパー戦隊シリーズの一騎打ちで「復讐」という要素がクローズアップされた例だと、それこそ「ジェットマン」終盤の竜とラディゲだったり「ギンガマン」の黒騎士ブルブラックだったりという例はあります。
しかし、これらの戦いでも最終的に「復讐を遂げたとしてもその後には何も残らない」という虚しさが募るのみだったわけであり、ブラックの真墨が「光」の力で戦っている理由もそこにあるのだろうなと。
そしてその個人の因縁が関係する戦いに公私共に仲のいい菜月を同伴させなかったのは真墨の良心の呵責だったわけであり、真墨の性格があれだけ尖っているのも闇のヤイバがその元凶だったと示しています。
今回ではとりあえず真墨の勝ちで終わったものの、終盤までなんども争う関係性となり、チーフとリュウオーンとはまた違った真墨の「復讐」をここでピックアップしたのは良かった点です。


また、それ故にこそ今回は赤黒の二強と闇のヤイバ、そして残りの3人と風のシズカという形で分けたのは絶妙でしたし、「ニンニンジャー」に足りないのはこういう基礎土台の構築なのだなあと。
だから「ボウケンジャー」も作劇やモチーフ自体は歴代でも相当に異色でありながら、根底の部分できちんと「戦隊ヒーロー」としての一線を守っているところが好感が持てるところです。
何よりも、これまでメンバーのツッコミ役として機能していた真墨がしっかりバックボーンを含めてキャラ立ちしたのはとてもよく、総合評価はS(傑作)


Task10「消えたボウケンレッド」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
ボウケンジャーは1組の人形のうち、ダークシャドウの妨害により片方の人形しか譲り受けられなかった。しかし、波右衛門の人形はプレシャスではなかった。一方の人形をダークシャドウに強奪を依頼したのはゴードム文明・大神官ガジャ。今度はジャリュウ一族と共闘し、ボウケンジャーから人形を奪い取ろうと計るのだが……。


<感想>
「ボウケンジャー、もう一体の波右衛門の人形を必ず取り戻せ。そしてただちに二体とも焼却処分するのだ。これは命令だ」


改めて見直すととんでもねえブラック企業だなサージェス!
今なら確実に労働基準法はもちろんのこと脱税その他諸々で訴えられてもおかしくないであろうブラックぶりをいよいよここで露呈させてきました。
思えば同年の「仮面ライダーカブト」のゼクトもサージェスに引けを取らないレベルのクソ組織で、この時代はヒーロー作品でもこういうブラック体質の組織が描かれていますね。
そして今回はほぼ初めてと言っていいほど単独行動を取ったチーフですが、それに対してライバルと認定している真墨はこんな風にフォローしています。


「あいつは闇のヤイバとの勝負を俺に託してくれた。気持ちがわからない奴じゃない筈だ」


真墨、気持ちはわかりますがそれは限りなく正解に近い誤解なので、決してチーフを買いかぶってはなりませんよ!(笑)


チーフはそんなこと考えていません、これまでの状況を考えると一見チーフが「大局的に物を見据えながら動く冷静沈着なリーダー」に思えますが、彼の本質はそこにありません。
次回明らかになりますが、表向き「理想の上司」として見せているチーフのそれはただの仮面であり建前であって、本質はただ冒険が楽しければそれでいいというトレジャーハッピーですから。
ただし、こういうところにこそ「ボウケンジャーとはどんなヒーローか?」が深く見えるところであって、私がいわゆる戦隊シリーズのチームカラーを分類するときにどうやって算定しているかを今回は紹介します。
昨日Twitterのスペースで「公的動機と私的動機」を話した時に、「メンバーの決断が試される場面でどう動くかによって、その戦隊が公的動機で動いているのか私的動機で動いているのかが決まる」と私は言いました。


まさに今回はその「メンバーの決断」が試されたところであり、本作はチーフの思惑と真墨たちの困惑、そして理不尽なサージェスの命令などあらゆる要素が盛り込まれていました。
そしてチーフは独断専行を選びメンバーを見捨てるという非情にも思える選択をし、そして真墨たちもまた自分たちの決断でどうするかが問われているのです。
本作を公的動機と私的動機で分けるならば確実に私的動機が強いのですが、それは決して「冒険が好き」というだけではなく、チーム全体の動き方にあります。
ボウケンジャーはあくまでも「個人事業主の集まり」であり、元々スパイだったりトレジャーハンターだったりといった過去をそれぞれに持つ者たちです。


それが「自分だけのプレシャスを集めたい」という利害の一致によってたまたまサージェスに集まっているに過ぎず、自分の責任は自分で持つしかありません。
誰かがフォローするわけではなく、だから遺産の破壊ですらも平気で行うわけですし、世間一般からは「サージェスは信用ならない」と言われているのです。
その辺りの構図が前回の真墨VS闇のヤイバという復讐をテーマにした構図によって浮き彫りとなり、こういう突っ込んだところになると話が見えてきます。
序盤でいきなり中盤の山場レベルのハードルを設定している本作ですが、それを通して「ボウケンジャーとはどんなヒーローか?」が示されているのが秀逸です。


ただまあチーフにしてもサージェスにしても、私はこんなダメな大人には絶対についていきたくありませんけどね(苦笑)
でもそんなチーフに対してすら「最高の上司!」と持ち上げて崇拝しているファンすらいるのですから、世の中本当に「ダメンズに惹かれる人」というのは一定数いるようです。
総合評価はS(傑作)、ここまでの流れを受けてどのようなオチへと持って行くのかが楽しみ。


Task11「孤島の決戦」


脚本:會川昇/演出:竹本昇


<あらすじ>
大邪竜ザルドとギラドの強力タッグ攻撃によってダイボウケンは完敗し、ダイボウケンは大邪竜2体の手によって連れ去られてしまった。一方、波右衛門の人形に隠されていた地図を見てから、様子がおかしかった暁は、ダイボウケンから脱出せず、ひとり、活動停止したコクピットの中に残るが……。


<感想>
さて、「ボウケンジャー」1クール目の実質のクライマックスであるこの決戦編ですが、前回までを踏まえて1つの美しい形に集約されました。
結論から申し上げるなら、やっぱりチーフはただ仲間を置き去りにしてでもプレシャスが欲しかっただけという、真墨が言う通りただの「冒険バカ」でしたということに。
さらに申し上げるならこの人は昭和のワーカーホリック体質もある人なので(リアルに「24時間戦えますか?」を実践している人)なので、冒険バカ+ワーカーホリック=冒険ホリックという称号を贈呈します。
そんなチーフの取った独断専行を残された4人は「自分たちを危険に巻き込まないようにするため」といい方向に解釈していますが、本人は全くそんなことはありません。


まあそんなチーフの独断専行に同族嫌悪の観点から気づいているのは真墨1人であり、あまりにも自責の念が強いさくら姉さんに対して素敵な助言を。


「悪いのはまた仲間を置き去りにした明石だろ。見つけたら、思い切り殴ってやれよ!な?」


わかりますかね?セリフ自体は短いですが、まずチーフがやっていることを決して美化せず独断専行と容赦なく切り捨て、チーフに会ったら何をすべきかまで助言し、さらに「な?」と寄り添うというこの凄さ。
後に真墨はチームにとって欠かせない存在へと成長し頭角を現していくのですが、さくら姉さんの心情を慮った上で状況整理と対策と心配を全部やっちゃう高度な会話術は彼にしかできません。
チーフは基本的に「正論めいた詭弁」しか言わない人なので(「俺様は冒険が全てだ!」という冒険ホリック)、とにかく24時間365日頭の中は冒険しか考えていないのです。
だから、(蒼太、菜月、みんな悪いな。だがここは俺一人で行くしかなかったんだ)と一見仲間を心配している素ぶりを見せつつ、彼らの奥底の心情への思いやりが全く足りていません。


チーフって自分が強い人間だからこそなのでしょうが、弱い者の苦悩や葛藤にまで気が回らないのが今回はかなり裏目に出てしまった感じですね。
まあそんなだから過去に冒険仲間を失うことになってしまったわけですし……要するにどう綺麗事で糊塗したところで仲間を裏切ったことに変わりはありません。
そしてもう1つの裏切りがネガティブシンジケート側でも発生していて、ガジャ様がリュウオーンを裏切ったわけであり、ボウケンジャーとネガティブシンジケートはやってることが同じと示しています。
しかし、そんな状況があっても真墨たちはその宝の地図をヒントにチーフの元へ追いつき、尺のほとんどがチーフに割かれていながらも、最後は仲間たちがしっかり追いつきました。

 

 

「チーフ、スーパーリミッターは、解除してあります」
「テスト無しであれを試すつもりか。そいつは」
「ちょっとした冒険、ですよね!」
「フッ……よし、行くぞ!超轟轟合体だ!」
「「「「「スーパーダイボウケン、合体完了!!」」」」」


ここでTask4、Task7を踏まえて戦隊シリーズの本質の1つである「団結」をロボットの「合体」で表現するという技巧をしっかり凝らして持ってきたのは見事です。
まあぶっちゃけこのスーパー合体自体はあまりにもゴテゴテしすぎではあるのですが、「ゴーオンジャー」「シンケンジャー」に比べれば全然まとまっている方ではあるのでまだ見られます。
何より「戦い」以外の用途がきちんと設定されているために違和感がなく、紆余曲折あったもののチームの絆は表向き強まりました……まあ裏で真墨とさくら姉さんが頑張ってくれたおかげですが(笑)


「9つのパラレルエンジンを直結させる。失敗すれば吹っ飛ぶぞ!いいな!」
「はい!」
「うん!」
「うん」
「ああ。5人の心を合わせるんだ!」
「ブラックらしくないアドバイスですね」


この流れも見事で、一見協調性がなさそうな真墨が実は一番協調性があって仲間思いであり、チーフは逆に仲間思いと見せかけて実はとんでもなくわがままで単独主義というのが表面化してきました。
つくづく思うんですが、チーフってマネージャータイプじゃなくプレイヤータイプだからどう考えてもリーダー向きじゃないのですが、表向きのカリスマ性みたいなのだけはあるのですよね。
ロボアクションは非常によくできたカタルシスであり、ボウケンジャーがひとまず「チーム」としてまとまるという集約を見せてきたのは非常に好感が持てます。
今やっている「ドンブラザーズ」の方が予想の遥か斜め上をやっているため、本作がいわゆる「いつもの戦隊」をきちんとできていることに安心感を覚えるのですよ。


そしてガジャ様たちを撃退したチーフは改めて蒼太たちに事情を説明するのですが、ここでいよいよ冒険ホリックとしての地金を出します。


「だって宝の地図だぞ!カーッと熱くならないか!?」


ここで4人中3人が「へ!?」と呆気にとられる中、1人だけ「やっぱりな」と真意に気づいていた真墨だけが呆れた反応を示す。


「そしたらダイボウケンがさらわれそうになったんで、これで地図の島に行けるって思わず体が動いてた」
「やっぱり駄目だ、こいつはただの冒険バカだ」
「命令して下されば、どこまでもついていきました!」
「冒険は命令されてするもんじゃない。だからお前たちにはヒントだけ残しといた。そして、お前たちは自分たちの意志で来た、それでいいんだ」


ここで改めて本作の戦いの動機が私的動機であることがチーフの口からはっきりと示され、本作の公私の比率が決まりました。
本作において「命令=公」で動くさくらだけが規律を頑なに守ろうとし、後のみんなはなんだかなんだ個人的動機で動いているのです。
そしてチーフが「いい話」としてまとめ上げるのではなく、冒険ホリックとしての本性を包み隠さずドヤ顔で全員にさらけ出すというのが反応として秀逸。
だからこの人って統率力は確かにあるのですが、それは「まとめる力がある」というより「カリスマ性に仲間たちがくっ付いている」という感じです。


これは前回も言いましたが、本作がしっかり「戦隊」としての作劇の基本を守りつつ、00年代戦隊の括りで見ても異色なのは普遍的なヒーロー像へと安易に着地していないこと。
スーパー戦隊シリーズにおいては「ジェットマン」以降いかにして「等身大の正義」を普遍的な公的大義に繋げていくのか?というところが重視されていました。
しかし、本作ではそこを決して普遍的なヒーロー像へ繋げるのではなく、むしろ「ボウケンジャー=正義のヒーロー」と「5人の冒険者たち=私人」というわけかたをしています。
その上で戦隊としてまとまるところはまとまりつつ、それですらあくまで個人の決断が重なった結果でしかないという、「タイムレンジャー」の延長線上といえるわけです。


Task7を経てチーフがもはや単なる冒険ホリックでしか無くなってしまったわけですが、本作の凄いところは決してそれをチーフマンセーへ持っていかないこと。
ラストシーンで、真墨のアドバイスをしっかり覚えていたさくら姉さんが腹パンをかましてチーフが倒れるという……これに関しては完全なチーフの自業自得です。
視聴者としても「このクソ野郎!」とチーフの独断専行が行き過ぎていたのでそこをなかったことにせずしっかり責任を取らせるのはよかったのではないでしょうか。
思えば「ニンニンジャー」の天晴はこの辺りの線引きがなあなあで天晴マンセーにしかなっていないので、やっぱりキャラクターに対してしっかりシビアになれるかどうかが大事です。


総合評価はS(傑作)、改めてTask7のステップアップを踏まえて初期から提示してきた要素がしっかりまとまり、1クール目の集約として見事でした。
そして次回はメンバーでほぼ唯一公的動機で動いているさくら姉さんに再びスポットが当たりますが、「ボウケンジャーとはどんなヒーローか?」をしっかり構築することに成功。
この基礎基本すらまともにできていない戦隊が今同時で見ている中で多いので、本作が相対的に大傑作に見えてしまうという異常事態が怒って起こってしまっています(苦笑)


Task12「ハーメルンの笛」


脚本:小林靖子/演出:竹本昇


<あらすじ>
13世紀、ハーメルンで子供たちを連れ去った男が吹いていたプレシャス=ハーメルンの笛を巡りボウケンジャーとダークシャドウは激突するが、さくらの機転によりなんとか笛を回収した。しかし、菜月は仲間よりも笛を優先したかのようなさくらの行動に不安を抱き、さくらに真意を訊くのだが……。


<感想>
今回の話は「タイムレンジャー」以来6年ぶり、ライダーでは「龍騎」以来4年ぶりとなる小林靖子女史が参戦となりますが、この頃に入ると円熟味を増してきましたね。
Task7のチーフ、Task9の真墨に続いてさくら姉さんは元自衛隊の特殊部隊に所属していたという納得の背景が明かされましたが、ここで公的動機をしっかり入れてきたのはよかったところです。
思えば戦隊ピンクとして見ても「タイムレンジャー」のタイムピンク/ユウリ以来となるクールビューティー系のピンクですが、その系譜をしっかり受け継いでいるせいか小林女史の筆致も乗っています。


「既に落ちてしまった以上、出来ることは何もありません。優先すべきはプレシャス回収。そうでしょ?」
「さくらさん、2人が心配じゃないの?」
「心配ですよ!でも、任務があったでしょ」


え?前回までのあの深刻さはどうしたの?と言わんばかりにハッチャケているさくら姉さんですが、本作の良識派だったさくら姉さんこそが実は一番とんでもない思考回路を持った人でした。
まさに「ブルータス、お前もか!」なのですが、本作の侮れないところは一見ヤバそうな真墨が意外にも「いい人」で、一見頼れそうなチーフやさくら姉さんが実はとんでもなくぶっ飛んだ基地外というのが面白いです。
更にチーフが「冒険ホリック」という私的動機、さくら姉さんが「職業軍人」という公的動機に振り切れており、ある意味では釣り合いが取れている2人ともいえます。
そんな非情ともいえるさくら姉さんの合理的すぎる判断に戸惑いを隠せない菜月を真墨がしっかり汲み取るのです。


「確かにさくら姐さんは間違ってないんだけどな……」
「ま、女性としてはもうちょっとこう、可愛げがね」
「菜月が言っているのは、そういうことじゃないの」
「俺たちは冒険のプロであって戦闘のプロじゃない。仲間が死ぬかもって時に、ああ冷静にはなれない」
「そう、そういうこと!さすが菜月の気持ちわかってんじゃん。さくらさん、頭もいいし頼りになるし、菜月すっごい尊敬してるけど、菜月の目指す冒険者とはちょっと違うかなあ」
「安心しろ。お前はなろうと思ったって、さくら姐さんみたいにはなれやしない」


まあ明らかに論理的思考で動いている人と直感的思考で動いている人ですからね、あまりにも違いすぎる。
また、真墨の「冒険のプロであって戦闘のプロじゃない」というセリフは同じ小林女史が脚本を担当した「ゴーゴーファイブVSギンガマン」を彷彿させます。
あの作品では確かマトイ兄さんに「リョウマ!お前たちは俺たちとは違う戦いのプロだ!だがな、要救助者がいる限り、こいつは救急(レスキュー)だ。救急を戦いのプロなんかに任せられるかよ!」と言わせてましたね。
小林女史自身「ギンガマン」で戦闘のプロ、「ゴーゴーファイブ」で救急のプロを描いていますから、そのあたりの違いをしっかり俯瞰して書き分けることができる人なのでしょう。


もはや今回は今までのおとなしさは何処へやらと言わんばかりのさくら姉さん無双ステージであり、はっきり言って他の4人はほとんど蚊帳の外と言っていいレベルです。
特に真墨、蒼太、菜月は完全に下僕に成り下がってしまっており、前回チーフに正拳突きをかましたことで吹っ切れたのか、途端に圧倒的強者のオーラを出してきました。
それにしても「一見ヤバそうだけど実は意外に話がわかるやつ」の黒、そして「一見良識派だけど実はとんでもないタカ派」の桃というのは「ドンブラザーズ」にも通じるところが(笑)
あっちも犬塚が意外に普通そうですし(やっていることは明らかな犯罪ですが)、逆に一番良識派っぽい雉野が実は一番ぶっ飛んだヤンデレですからねえ。


同時配信で見ている戦隊の横の並びは今年はどうも過激路線というか、どれもぶっ飛んだ作品ばかりですねえ。
だって生身で伝説の武器を構える戦意剥き出しの古代恐竜人類、明らかにやばい過去を持ち合わせた冒険者たち、ラストニンジャになるためなら身内の殺し合いも平気な従兄弟たち……。
更に現役で放送されている戦隊があの「ドンブラザーズ」ですし、今年の戦隊はとにかく狂気が濃色120%の作品ばかりで、ある意味充実してはいます(苦笑)
ラストでは菜月のなかでさくら姉さんが憧れの冒険者の1人となり、これまで大人しかったさくら姉さんも一気にこの回で頭角を現しキャラ立ちしました。


今の所キャラ立ちがしっかりしているのはチーフはもちろん真墨とさくら姉さんですが、反面まだくすぶっているのが蒼太と菜月の2人です。
蒼太は色々技巧派というか老獪かつ軽快な男としてキャラ立ちしていますが、一番パンチの弱い菜月が中々キャラ立ちしません。
総合評価はA(名作)、前回までを踏まえて2クール目に向けて弾みをつけてくれました。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

inserted by FC2 system