『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)1〜6話感想まとめ

 

Task1「魔神の心臓」

Task2「竜の略奪者」

Task3「覇者の剣」

Task4「失われたビークル」

Task5「帝国の真珠」

Task6「呪いの霧」

 


Task1「魔神の心臓」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
5人の精鋭部隊・轟轟戦隊ボウケンジャーの今回のミッションは、海底神殿に隠された「ゴードムの心臓」と呼ばれる未知のエネルギーシステムの確保。ボウケンレッドは、ブラックとイエローに探索を命じる。海底神殿の中、仕掛けられた恐ろしいトラップを乗り越えて、二人はプレシャスを手にすることができるのか?


<感想>
普通に面白かった。


現在同時配信で見ている「ジュウレンジャー」「ニンニンジャー」「ドンブラザーズ」がいずれも掴みの段階がイマイチな中で、相対的評価としても単品での評価としてもなかなかいい感じの1話でした。
流石に「ジェットマン」「ギンガマン」みたいに1話の時点で完璧というわけではありませんし、やっぱり會川脚本は理屈っぽいなあと思いつつも、今見直してみるとかなり高いクオリティでまとまっています
役者さんが全員それなりに演技ができるのもあるのでしょうが、役者とキャラのシンクロという意味では「ボウケンジャー」が今のところ感想を並行している作品群の中では一番トップクラスです。
「冒険者」という歴代でも類を見ないピカレスクロマンを提示しつつ、まずはボウケンジャー側のキャラ描写をしっかり立ち上げの段階で描いているのは非常に手堅い出来。


改めて見直して見て面白いと思ったのが明石暁チーフと伊能真墨のライバル関係であり、いわゆる「やらかし」も含めて真墨がいい感じのスパイスになってくれています。


「プレシャスはこの伊能真墨が頂いた!わかったか、俺があんたを超えるトレジャーハンターだと。明石暁……いや、不滅の牙!」


敢えてチーフを出し抜き、その上で「こいつは返すぜ!」とボウケンジャーとしての使命を拒否するのですが、ここでチーフが「動じる」のではなく「期待以上だぜ」と不敵に笑うところがいいですね。
で、早速やらかしの自業自得と言わんばかりに真墨はプレシャスを奪われ、更にマグマに突き落とされそうになるのですが、ここでのチーフが面白い。


「ボウケンブルー!ボウケンピンク!俺は既に命令した、このボウケンレッドが!……お前も行け」


チーフは真墨の元へ降りて行った後、改めて強引に真墨を勧誘。


「もう1度選べ、このアクセルラーを受け取るか、このままマグマに焼かれるか!」
「何だと!?」
「お前が言ったんだ、俺の牙から逃れられる獲物はいない。その獲物は……お前だ」
「初めらわかっていたのか、俺が裏切ると」
「わかっていたが、見事に出し抜かれた。そう来なくちゃ、部下にする価値はない」


このシーン、普通ならチーフがあまりにも不甲斐なさすぎて大笑いするシーンなのですが、真墨が同じくらいやらかした上で、客観的に真墨がボウケンジャーに入るしかない状況を作り上げているのが見事です。
チーフのやっていることは完全なモラハラ&パワハラ、更に「お前が言ったんだ、俺の牙から逃れられる獲物はいない。その獲物は……お前だ」に至っては完全な職権乱用による詭弁でしかありません。
しかし、真墨たちも決してチーフの言いなりというわけではなく、これからそのチーフの鍍金が?げることを考えると、もうこの時点で既にその伏線は貼られていたのだなあと思うのです。
まあチーフに関しては7話がとてもおいしいエピソードになっているとして、まずは真墨とのライバル(というか上下)関係を使ってドラマを盛り込んでいるのは男心をくすぐります。


その後、改めて真墨はアクセルラーを受け取り、ボウケンジャーに変身、全員揃った段階で名乗り。


「我ら、轟轟戦隊!」
「「「「「ボウケンジャー!」」」」」


ここで真墨が「ブラック」と名乗り、ピンクが「今、ブラックって言いましたね?」というのを含めて、本作は明確に変身前と変身後の呼称を区別するという昭和戦隊の方式へと回帰しています。
これは前作「マジレンジャー」が変身前も変身後も名前で呼んでいたのとは対照的ですが、もう1つは「職業戦隊」として区別する意味もあるのでしょうか。
サブタイトルが「Quest」「Adventure」ではなく「Task」であり、ミッションの内容も「プレシャスの入手」なので、正に「お仕事」という感じなのですよね。
「素人が偶然に巻き込まれた」というアマチュア型が「デカレンジャー」を除いてしばらく続いていた00年代戦隊において、明確に「プロフェッショナル」として描かれています。

 

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以前にも戦隊シリーズのチームカラーを区別する分布図で述べましたが、00年代戦隊シリーズの中でプロフェッショナル戦隊は「デカ」「ボウケン」「シンケン」の3作のみ
それを明確に示した上で1号ロボのダイボウケンを使っての巨大戦まで見せてきて、情報量としてはかなり詰め込んでいるのですが、このゴーゴービークルは個人的に高く評価しています。
「ゴーゴーファイブ」の救急マシン以来となる「戦い以外の用途を持ったメカ」を本作では「プレシャス回収」のために使っているのが見事な組み合わせです。


「プレシャスは素晴らしい力を持っている。だけど悪用されれば、地球の1つや2つ、ボーンさ」
「だからこそ、安全に管理されなければなりません」
「プレシャスを悪から守り抜く。それがボウケンジャーだ!」


ここで本作における「善と悪」を提示することで、ボウケンジャーがいわゆる「正義の味方ではない」ことを示しつつ、「プレシャスを守る」ことで「結果的にいいことしている」と示しています。
まあそういう意味で見ると、一番信用ならないのはそんな彼らを雇っているさージェスなのですが、ファンからも散々指摘されている通り、めちゃくちゃ信用ならないブラック企業です(笑)
個人武器までは流石に見せられなかったものの、いわゆる「特撮!特撮!特撮!」といういかにも勢い重視な戦隊の1話ではなく、変則的に「新入りの入隊テスト」という形での展開。
そのため、既にチームとしての結束ができている赤青桃の中に新入りの黒黄が入る形にし、その上で黒がやらかしも含めていい感じに物語を引っ掻き回してくれます。


とはいえ、まだがっちり歯車が噛み合っていない部分もあり、手堅いできではあるものの、もう少しここぞというところで突き抜けて欲しかったのもあり、評価はA(名作)でしょうか。


Task2「竜の略奪者」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
プレシャスを奪還したボウケンジャーだが、ゴードム文明の末裔・大神官ガジャを謎の恐竜にさらわれてしまった。 真墨と蒼太は、「ジャリュウ一族」の仕業だと睨み出撃する。一方、さくらは新人隊員の菜月を不安視するが暁は「面白いだろ」ととりあってくれない。5人の前に現れるのは?そして菜月の正体は?


<感想>
「誰にでもたった1つ、大切な宝がある。俺たちはみんな、そんな宝を見つける為にこのチームに集まった。誰のものでもない、自分だけの宝を見つける為に。違うか?」


いやチーフ、そのことと「部下が信用できる奴かどうか」はまた別問題ですって!(笑)


2話目にして早速危険な匂いがしてきたボウケンジャーですが、2話目にして言っていることが全て詭弁に聞こえてしまう戦隊レッドも珍しいのではないでしょうか。
表向き爽やか風を装っていますが、チーフの場合役者が妙におっさんくさいこともあって胡散臭さが5割増しで聞こえてしまいます。
前回の真墨の裏切りに対して「裏切り上等!それくらいの奴こそ俺の部下!」な説得もそうですが、この人一番ついて行ってはならない上司なのでは?(笑)
何だろう、同じ「バカ」でも、いわゆる「ニンニンジャー」の天晴に代表される「バカレッド」のバカさとチーフのバカさは種類が違うのですよね。


代表的なバカレッドというと、バン・魁・ジャン・走輔・天晴辺りが想起されますが、こいつらはいわゆる「アッパー系コミュ障」に類する奴らです。
アッパー系コミュ障がどんな特徴なのかに関しては「ニンニンジャー」初回の記事にまとめていますので、こちらをご覧ください。

 

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で、チーフはその「アッパー系コミュ障」とはまた違った「専門バカ」と呼ばれる類のバカであり、「専門家」と似て非なるものです。
今回でいえば、本来は菜月に対するさくら姉さんや真墨に対する蒼太のような慎重かつ懐疑的な対応が当たり前なのですが、チーフはそれを「冒険好きという理念があるならそれでいいだろ?」で強行突破してしまいます。
要するに「冒険さえできれば人間性は重視しない」という危険なタイプの典型的なブラック企業の上司であり、だから私はこの人のいうことが全て詭弁にしか感じられないのです。
特に象徴的なのが変身後のボウケンレッドとリュウオーンの以下のやり取り。


「ジャリュウ一族の長か。どんな気持ちだ?多くの部下を犠牲にし、プレシャスを見つけるのは!」
「部下など幾らでも作れるわ!奴らはこのプレシャスに比べたら、なんの価値も無い!」
「部下の命を使い捨てにする貴様は、俺には勝てない!」
「何ぃ?!」
「俺には仲間が居る。そのパワーがある!」


実はこのやり取り、一見チーフが正しくリュウオーンが間違っているかのように見せていますが、実際はチーフの方がはるかにタチが悪いです。
何故かって部下の裏切り・不義理を「そういうことができる奴こそが欲しい」と言い、さらには菜月の記憶喪失に対しても「冒険好きだからそれでいい」と言いくるめてしまっています。
しかもサージェスもサージェスで、「プレシャスさえ回収してくれるなら人間性は問わない」で、真墨・菜月らに装備一式を貸与するのですから信用なりません。
そのため、2話目にして「王道VS邪道」「聖なる冒険者VS俗なる冒険者」のつもりが「覇道VS邪道」「我儘な冒険者VS俗なる冒険者」という凄まじいねじくれ具合。


そもそもプレシャス見つけるために遺跡破壊やら普通にやってるボウケンジャーの方が実は遥かに悪どいという凄まじく露悪的な作風であり、こりゃあ賛否両論別れるわなと。
今日會川先生もTweetしてましたが、主人公たちの好奇心がネガティブシンジケートを呼び寄せてしまっているわけであり、このあたりは意識的なのか偶然の産物か。
で、そんな爆弾を抱えたボウケンジャーが今回初めての正式な名乗り。


「熱き冒険者!ボウケンレッド!」
「迅き冒険者!ボウケンブラック!」
「高き冒険者!ボウケンブルー!」
「強き冒険者!ボウケンイエロー!」
「深き冒険者!ボウケンピンク!」
「果て無きボウケンスピリッツ!」
「「「「「轟轟戦隊!ボウケンジャー!」」」」」


何がすごいといって、名乗りのどこにも「正義」という言葉が出てきておらず「俺たちはとにかく冒険さえできればそれでいいんだ!」というキャッチーフレーズになっていることです。
それが結果としてヒーローっぽいことをしているという、いわゆる「結果的な正義」であって、ボウケンジャーの5人には「世のため人のため」といった英雄的思想のようなものはありません
前作「マジレンジャー」が家族の絆を大事にした真っ当な正統派ヒーローだったことと比べると、かなり意図的な差別化だったのではないでしょうか。
あれだけストレートな王道をやった後ですからこれくらい尖ったことをやらないと勝負にならないということでしょうが、それをしっかり成り立たせる會川脚本と諸田演出・役者たちの演技合戦が見事です。


現在同時で感想を書いている「ニンニンジャー」もこれくらい突き抜けられれば良かったのでしょうが、あちらはそもそもの基礎土台の設計からズタボロですからね。
で、変身後は個人武器を披露し、ラストは「俺も忘れてもらっちゃ困るな」と真墨も加わりますが、なんだかんだ一番チーム愛があるのが真墨というのもこの段階から既に組まれています。
それぞれのキャラクターをしっかり基礎の部分で立てつつ、やや消化不良がありつつもまとまりはいいので総合評価はB(良作)というところでしょうか。


Task3「覇者の剣」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
諸葛亮孔明が残したという三本の武器、「三國覇剣」というプレシャスの情報を掴んだ蒼太は、さくらと真墨と共に確認に向かう。しかし、既にダークシャドウが一本を手に入れており、ダークシャドウ・風のシズカに、まんまと二本目を奪われてしまう。残る一本は、三国史マニアのIT社長・山谷が持っているが・・・


<感想>
「あなたは、企業や国の秘密を奪う時、他人のことなど考えましたか?」
「考えなかった。獲物を手に入れる時のスリル、ドキドキ、その為ならなんでもやった」
「おんなじですねえ。私もこの巻物を手に入れる為だったら、どんなことでもしました」
「同じじゃない、あんたはまだ間に合う」
「間に合う?」


見所は疾き冒険者よりも明らかにブラックな過去を匂わせてくる高き冒険者!


改めて見直して思いましたが、蒼太のやつ、すでにこの頃から「深く関わってはいけない人」だったのか、そしてそれを本人も自覚済みというのが恐ろしいところです。
後の回で掘り下げられますが、蒼太は多分「女好き」とか「そうそう蒼太」で軽く見せているだけで、実際はものすごく闇が深い戦隊ブルーじゃないですかね。
単なる「女好き」「ナンパ」な戦士ならバトルフランス・チェンジグリフォン・ブラックコンドルなどいましたが、「こいつ関わっちゃいけねえ」感を醸し出しているのはこいつくらいかもしれません。
同時配信中の「ニンニンジャー」の八雲は単にウザ絡みしてマウント取ってくるだけの小学生男子みたいなものなんで、距離の取り方さえ間違えなければ大丈夫です(因みに天晴は幼稚園児)。


蒼太はいわゆる「フレネミー(友達のふりをした敵)」というやつで、1・2話でも真墨に対してかなりつれない対応をしていましたが、それはパーソナルスペースに入られたくないのであろうなと。
今後の話でも明らかになりますが、真墨ってシャイな性格で、トゲがあるし基本的にワガママですけど、身内というか懐に入れた仲間に対しては割と優しいし面倒見もいいんですよね。
少なくともチーフに比べて「俺が俺が」感は意外となく、逆にチーフや蒼太の方が「俺が俺が」感が強いので、こういう細かいところも対比になっているのは面白いです。
でも蒼太って結構ウザ絡みもしてくるやつだから(それは菜月もだけど)、身近にいたらかなりめんどくさそうなタイプで仕事でもプライベートでも付き合いたくない(苦笑)


三国志をモチーフに物語を展開していましたが、何が酷いって一見ボウケンジャーが正統派っぽく見せていながら、巨大戦でのこのくだり。


「こちらもプレシャスの力を使いましょう。ダイボウケンのパラレルエンジンは、プレシャスの力を取り出すことが出来るんです」
「面白そうだ。やってみる」


おい!何を爽やかにプレシャスの力を任務中に使ってんだよ!


サージェスのブラック企業ぶりはファンの間では有名な話ですが、3話目にしてこれですからやはりボウケンジャーって「王道の皮を被った覇道」なのでは?(笑)
普通こういう場合、表向き何かしら「正義のため」を装っているものですが(今読んでいる『鬼滅の刃』などは正にそれ)、本作は装うどころか自分たちから欲望丸出しのトップフォーム。
何せ名乗りのキャッチフレーズが「果てなき冒険魂(スピリッツ)」ですからね、冒険さえ楽しければ何をやってもいいというトレジャーハッピーの集まりなのです。
まあ時代的に考えれば、ちょうどジャンプ漫画では「ONE PIECE」のようなピカレスクロマンが世に浸透しつつあった頃ですから、その辺りの意識も多少なりはあったのかもしれません。


しかし、物語として見ると「蒼太が具体的にどんなことをやったのか?」が明かされていないのと、ボウケンジャー側の理屈がかなり利己的なために、盛り上がりとしては今ひとつという感じに。
蒼太たちの説得が「筋の通った理屈」というよりは「牽強付会の詭弁」という感じなので(そもそもチーフからして詭弁を繰り出す人ですし)、どうしても今ひとつ話を飲み込めません。
まあIT企業とは思えないレベルのセキュリティを仕込んでいるという点は大変面白かったし、風のシズカの忍者キャラクターも面白くはなったのですけどね。
なんというか、最終的に社長が巻物を渡した理由って「この人たちなら信頼できる」というよりは「ボウケンジャーの圧倒的な力が怖い」という風に見えなくもありません。


そう、この世はとにかく財力と武力があればいいのだヒャッハー!


まあある意味で凄く昭和っぽさを感じさせる會川先生の作風が出たのですが、もうちょっとボウケンジャー側の理屈と社長側の言い分のすり合わせをして欲しかったです。
総合評価はE(不作)、とりあえず蒼太にだけは絶対に深く関わってはいけないということははっきりしました。


Task4「失われたビークル」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
大雨、快晴、突風、雷と天候が急変する現象が発生する。プレシャス=マッドネス・ウェザーが何者かによって操作されたのだ。 出撃したボウケンジャーの前に現れたのはジャリュウ一族! そしてその長・リュウオーン! 世界中を熱帯に変え、生態系を破壊しようとするジャリュウ一族のたくらみを防ぐ事ができるのか?


<感想>
「限界です明石くん!君の体が!」


4話目にしていかに新装備に耐えられるかのテストを行うという、「ゴーゴーファイブ」でも1クール目の終わりにやっていたことをやるとは、攻めるねえ。
同じ日笠Pということもあるのでしょうが、本作のメカニック描写は「ゴーゴーファイブ」に匹敵する完成度の高さであり、大好きなところです。
それにしても牧野博士、サージェスの上司なのでブラックですが、しかしボウケンジャーたちのメンタルや体調を心配してくれるなんて本当にいい人。
これが昭和戦隊の鬼長官だったら「弱音を吐くな!この程度の訓練に耐えられなければ、ネガティブシンジケートには勝てん!世界は終わりだ!」とか言いそうです。


そんな今回の話はチーフの過去話ですが、個人的には會川先生の「こういう過去がありました」という作風は根本的に好きじゃないんですよね。
前回の蒼太しかり菜月しかり、「こういう過去があったから現在に繋がる」という描写は共感を得やすい反面、多用しすぎると同情を誘っているように見えてしまいます。
まあ強いて言えば2話でリュウオーン相手に言っていた「部下の命を使い捨てにする貴様は、俺には勝てない!」というセリフの中身を補強したという意味では良かったのですが。
要するに、自分の冒険のためにマサキとキョウコを道連れにしてしまったという罪悪感が今の明石チーフの原点になっている、ということでしょう。


しかしこれに関しては正直半分くらい「そう演出している」感じが強くて、どっちかといえばこの過去はチーフの「一要素」ではあっても「本質」ではないと思うんですよ。
この人の本質は7話と11話で具体的に明かされるのでその時に取っておくとして、ここではとりあえず「仲間への思いやりがある上司」という綺麗な一面を見せてきました。
そしてボウケンジャー5人の「団結」「連携」を示すかのように「カラス→すき焼き→金のシャチホコ→コルト45→ゴーゴービークル・脱出」というしりとりで繋げたのは良かったところです。
仲間たちの想いを乗せながら、チーフが己の良心の呵責・罪悪感をドリルでぶち破って仲間達と共に乗り越えて行くという見せ方は下手ながら好きでした。


で、今回はドリルを装備して倒すのですが、やっぱりロボットでドリルというと「ゲッターロボ」のゲッター2を思い浮かべてしまいます。
ドリルはやはり男のロマンということでしょうが、早めの段階で出てくるゴーゴービークルの販促にきっちりキャラのドラマを乗せて意味付けしようというのはいいところです。
そしてそんだけかっこいいところを見せたチーフですが、物語のラストで自らその信頼を落とす真似を披露(笑)


「明石くん……そろそろ限界ですよ?」
「いえ、もっと回転数を上げてください」
「え?」
「お前たちならこの特訓に耐えて新たなゴーゴービークルを乗りこなせるようになる。信頼してるぞ」


なんと本作の暗黒メンターポジションは牧野博士でもミスターボイスでもなく、他ならぬ明石チーフその人であった、というオチでおしまいです。
そうか、チーフの詭弁に当時から今ひとつ納得いかないところがあったのですが、この人いわゆる東映特撮伝統の暗黒メンターの素質を併せ持っていたのか!(笑)
スーパー戦隊シリーズには杉村升三部作の大獣神・道士・三神将やそれ以前だと「チェンジマン」の伊吹長官などの暗黒メンターの系譜があるのですが、明石チーフもその系譜だったんですね。
まあチーフの場合は後々その化けの皮が?がれていくのでお楽しみに……それから、ミスターボイスのあのアイコン、どっかで見たことあるなあと思ったらこれでした。

 

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ミスターボイス

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クラスター



懐かしの「木曜の怪談」に出てきたクラスター、これの意図的なパロディキャラだったんですね。
総合評価はB(良作)、チーフについてはこの回よりもむしろ7話の方が本質を描いています。


Task5「帝国の真珠」


脚本:會川昇/演出:竹本昇


<あらすじ>
幻の超巨大戦車「ビオパンツァー」の設計図が隠された宝石=帝国の真珠が日本に持ち込まれた。そして、その背後にはネガティブ「ダークシャドウ」が・・・ボウケンジャーは帝国の真珠がダークシャドウの手に渡らぬよう、取引場所に向かう。激突するボウケンジャーと、風のシズカ&タクミガミ!


<感想>
「悪い奴ってよくそういう手を使うんだよね。先生が言ってた。それに、お礼が欲しくてやってんじゃないよ!」


小学生のクソガキに論破されてしまう深き冒険者、すっかり舐められてしまっていますね〜。
というか今回の話で見えたことはさくら姉さんは教育者失格ということでしょうかね、女らしさ捨てたバリバリのキャリアウーマンという感じですし。
戦隊ピンクにはいわゆる「強い女=クールビューティ」の系譜があるのですが、大体タイプとして挙がるのはハートクイン、初代ミスアメリカ、タイムピンク辺りでしょうか。
シンケンピンクはどっちかといえば理性じゃなく子宮で物を考えて動いている人でしたし、そういう意味ではさくら姉さんは歴代でも珍しい「仕事に生きる女性」といえます。


しかしこんなに早い段階から子供視点でボウケンジャーとサージェスの組織としての致命的欠陥を指摘されるとは、會川先生は用意周到にこの辺りのツッコミどころへの対策を用意していたのでしょう。
第一話からしてサージェスはプレシャス回収のためなら卑劣な手段も厭わないところがありますし、そもそもサージェス自体世間からあまりいい評価は受けてなさそうですしね。
ましてやさくら姉さんのお堅いキャラクターで海老で鯛を釣るような真似されたら、この少年じゃなくても誰だって嫌でしょうし、作為的なものを感じると思います。
で、そんな堅いさくら姉さんと対照的に菜月が柔らかい笑みで対応していますが、菜月の場合は単純に精神年齢が子供なだけで、あれと同じ対応がとてもさくら姉さんにできるとは思えません。


「子供が不安になっている時は笑ってやればいい」
「おかしくもないのに笑うことはできません」
「真面目すぎるんだよお前は…たまには子供のように笑ってみろよ。冒険を楽しむには、子供のようになることも必要だぞ」
「私は冒険を楽しむつもりはありませんから」


今回の見せ所はどちらかといえば少年とさくら姉さんよりはむしろチーフとさくら姉さんの方だったともいえ、同じ「冒険者」でも心構えやスタンスが全く違っているのが面白いところです。
あくまでも「趣味の延長」として「好き」を仕事にしている明石暁と「任務」としての意味合いが強く「楽しむ」というのではなく大人の義務としてやっているさくら姉さんの違いとなりました。
さくら姉さんはあまりにも真面目過ぎるが故に不器用だから真正面から受け止めることしかできないということですが、一方でチーフの考えが100%正しいわけでもありません。
この次の話以降チーフはどんどんメッキが剥がれてメンバーからいじられるようになるのですが、もう既にさくら姉さんがここでチーフに反発しているのがその証拠だといえます。


おそらく現時点でさくら姉さんの中でチーフは「仕事はできるし頼れるけど、人間力はからっきしだなこの人」という評価になってしまっているのではないでしょうか。
そしてチーフは最終的に「自分で蒔いた種は自分で刈り取る」というさくらに対してこのような結論を出しました。


「自分のミスは自分だけで解決する、か。そういう真面目すぎる奴もまた面白い。奴と戦えるのはゴーゴーショベルだけだ。 最後まで1人でやってみろ!」


ここで面白いのは戦隊シリーズの本質である「団結」「チームワーク」に対して、リーダー自らが後ろから見守ることでかえってチームとしての信頼感を描いていることです。
同時に彼らはサージェスという企業に雇われているものの、あくまでもその本質は「個人事業主の集まり」というところに集約されます。
以前にもチームカラーを分析する記事で書きましたが、公的動機と私的動機の観点で話をするなら、本作はあくまでも「私的動機」で動いている人たちだということ。
前作「マジレンジャー」があくまでも家系の宿命ありきで動いている公的動機の強い戦隊だったからその差別化もあるのですが、「最後まで1人でやる」というのがポイントです。


しかし、チーフの場合は「チームワークと個人プレーの使い分けが上手い器用なリーダー」というよりも「自分が個人プレーで目立ちたくて仕方がない冒険バカ」だから困ります(苦笑)
まあそんなこんなで最終的に少年との約束を無事に守ったさくらは笑顔になるのですが、個人的には今回の話はもう少し突っ込み切って欲しかったなあというところです。
さくら姉さんの性格の真面目さが短所となっているとか割と子供っぽい菜月との対比とか見せたい要素はあるものの、「じゃあさくら姉さんはどんなヒーローなの?」というのが今一つ見えませんでした。
現段階だとまだキャラの掘り下げが浅いので、さくら姉さんに関しては12話を待つしかないのですが、この脚本ならいっそのこと真面目さで突っ切る展開にした方が思い切りがよかったかなと。


総合評価はD(凡作)、描き方やアプローチは悪くなかったものの、やはり會川先生の場合チーフがガンガン動いてくれないと面白くないのでいまいち不完全燃焼というところ。


Task6「呪いの霧」


脚本:會川昇/演出:竹本昇


<あらすじ>
古代中央政府に反逆を起こした武将の首が祀られたという伝説が残る地・縊峪で、突如、行方不明者が相次ぐことに──サージェスはプレシャスが発動したと考え、ボウケンジャーに指令する。霧たちこめる峪の奥、プレシャスを目指して進む5人…のはずが、ふと気付くと菜月の姿が見えない。縊峪の呪いなのか?


<感想>
今回に関してはもうこの2人の台詞に全てが集約されると思います。


ガジャ「平和など口実だ!お前達は冒険に取り憑かれているだけ。プレシャスがあるとわかれば呪いも恐れずに、欲望のまま突き進む!」
チーフ「宝は自分で見つけるものさ。俺たちを熱くするのは宝への道を自分の手で切り拓く冒険。欲しいのは最高の冒険だ!」


凄いなあ、敵側に痛い所を突かれてそれに反論するどころか寧ろそれを逆手に取ってガンガン攻めていくスタイルに変えていくチーフの裸一貫ぶり(笑)
チーフのやっていることって同時配信の「ニンニンジャー」の天晴の言い分と大して変わらないはずなのですが、なぜかあっちよりは気持ちよく見られるんですよね。
最大の違いがどこか考えてみたんですが、チーフは「仕事ができる」からそれだけ偉そうなことを言ったりやったりしても筋が通っていて有無を言わせません。
一方で天晴の場合は自分の実力を「本番に強いから」と自己正当化して過大評価してしまっている上、メンバーに「引き立て役」を強要している(ように見える)所が嫌なんだなと。


なおかつ今回の場合はイエローとピンクが人質に取られているからブラックが動揺するという風に他者の視点もうまく織り込まれていますし、プレシャスの見せ方もいいですしね。
しかもオチが「俺はいいこと言ってやったぜ」風のことを言って墓穴を掘り、かえって「今のはオヤジ臭い」と牧野博士からツッコミを食らっていじられています。
この「攻めは強いが守りが弱いいじられ上司」というチーフのキャラクターは後半に向けてどんどん輪をかけて悪化していき、Task32で1つの頂点に達するのですが、その片鱗が既にありました。
まあチーフってぶっちゃけ「會川先生から見た昭和ヒーローのカリカチュア」なので仕方ないと言えますが、今見るとかなりパワハラ・セクハラまがいのことをナチュラルにやる上司ですよね。


部下たちが有能なおかげでそこまで大きな問題にはなっていないものの、現実にチーフみたいな上司がいたら絶対やらかした後の尻拭いとか押し付けられそうで嫌です(苦笑)
で、ここまで見て思ったことなのですが、チーフと天晴はどちらも「戦闘力5」ではあるんですよね、戦隊レッド列伝の基準で数値化してみると。
しかし、決定的な違いは技巧・知性・精神力・統率力などで天晴が明らかにチーフに劣っており、尚且つ「洞察力」では完全に天晴がチーフに負けているのですよ。
チーフは「冒険さえできればいい」という冒険バカではありますが、一方できちんと自己評価がきちんとできる人ではあります。


それに対して天晴は相手の力量をろくすっぽわかりもしないのに突っ込んでは仲間に尻拭いされる格好になっており、にもかかわらず本番ではなぜか運良く決まってしまっているのです。
何と言うんでしょうね、たまたま奇跡の一発逆転が常態化してしまっていることでかえって自己分析ができないのではないでしょうか……そりゃあサスケも鷹介も「1」を下すわけですよ。
チーフの場合は「自分に何ができて何ができないのか」をきちんと理解しているために、身勝手な詭弁ではありつつもそれを納得させるだけの実力・説得力があります。
対して天晴はまずそこの「自分に何ができて何ができないのか」の足元からガタガタなために、その場しのぎの出たとこ勝負を繰り返してしまっているわけです。


私が基本的にバカレッドを嫌いな理由も突き詰めるとここにあって、要するにバカレッドって基本的な行動原理が「ザコキャラ」のそれなんですよね。
以前「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」と書きましたが、バカレッドに私がイライラするのはこの「負けに不思議の負けなし」を地で行く存在だからです。
大体勝負に負けるやつに共通するのは「情報不足」「思い込み」「慢心」の3つなのですが、ことバカレッドに関しては「思い込み」「慢心」が顕在化しています。
チーフがいわゆる「専門バカ」ではあっても他のバカレッドと評価が違うのはこの「思い込み」「慢心」といった部分が少なく、きちんと情報収集や分析を欠かさないからでしょう。


何だかやっと長年引っかかっていた「バカレッド」が嫌いな理由をチーフと天晴の比較を中心にして分析できましたが、そういう意味では天晴って完全にザコキャラムーブなんですよね。
典型的な三下の振る舞いというか、そこがやっぱりチーフとの決定的な差となったと綺麗にオチをつけ、総合評価はB(良作)というところでしょうか。

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

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